【カクヨム10短編参加作品】/【戦え!薔薇乙女学園 男魂部!】

一文字 ワールド

第1話

佐藤は震えていた。



入学式を迎えたものの、ここはまさに女の園そのもので、見渡す限り女しかいない。500人近い女子高校生の中、男が見当たらない。世界屈指の超名門女子高校、薔薇乙女学園大学附属 薔薇乙女学園高等部だけに、覚悟はしていたつもりだが、その豪奢煌びやかさにただ圧倒されるだけであった。



「我が薔薇乙女学園は、次世代を先取りし、男女共学に舵を切りました。そして栄えある第1期生として、初の男子生徒を迎えることができました。あなたたちには、良き伝統を守りつつも、この学園にかつて見たことのないような新しい風を起こしてくれることを、心より期待しています!」



一斉に女子の視線が向けられる。悲喜交々の喜怒哀楽に満ちた、不思議な熱気と殺意をまざまざと感じた瞬間であった。



「男子学生12名、我が学園の新たな旅立ちを牽引してくださいね!」



12クラス、500名近い女子の中で男子はたった12人・・・



募集要項には、男女共学化により、男女それぞれ半々で240名づつ、40人×12クラスで1学年480人との案内があった。この少子化で、定員割れどころか半数以上の大学、学校法人が次々と潰れ、薔薇乙女学園も先を見越して共学に舵を取らざるを得なくなったようだった。



明治時代から続く人類最後の超名門女子校、日本の中枢を支配する華族貴族らの子弟が通うウルトラエリート、幼稚舎から大学院まで一貫教育体制を備え、日本と世界の中枢に大きな影響力を行使する人材を輩出、またはVIPのつがいとしての政略結婚を通して、上流階級の確固たる地位を盤石にしているトップ集団の最高峰。まさにキングオブ女子である。



「まさかオレがこんな高校に・・・」



佐藤は本命の受験日に高熱を出してしまい、シャレで併願していた元女子校に入学することになったのだ。


「それでは各クラスに入って、オリエンテーションを受けてください。」



40人定員の新1年生、全12クラスは、1組から12組まで、睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、葉月、長月、神無月、霜月、師走と見事に分かれている。しかも成績に応じて12段階。そして嫌がらせのように、男子は最下層である師走に12人全てがまとめらている。



「明らかに悪意を感じへんか、なあ?」

バリバリの関西弁の鈴木が同意を求める。


「コイツァ大変なところに入ってしまったようだゼ」

とダンディな高橋。




「でも、とってもいい匂いがするねえ」

小動物系の田中が早くも順応している。


「ふっ、どうやら日本の中枢にうまく潜り込めたようだ・・」

メガネを拭きながら理知的でクールな伊東が勝ち誇ったようにほくそ笑む。



他の男子は、渡辺、山本、中村、小林、加藤、吉田、山田の12人である。オタク、イケメン、ハーフ、エロ、陰キャ、ドS、ドM・・・


まるで動物園だ。



「それではまずクラス運営のためのリーダーを決めたいと思います。」



もちろん男子は誰も立候補などしない。そしてすんなりと委員長と副委員長が決まった。



「皆の者、余は12組師走の委員長を張らせてもらう武者小路である!」


「副委員長を拝命しました伊集院です」



何やら尊大で偉そうな女がイキリ立っている。その補佐も氷のような冷たいオーラを醸し出している。



「余が頭を張るからには、このクラスを男どもの好きにはさせぬ。


何を間違ったか、貴様らのような不純物は、この学園から抹殺し、棺桶に入れて追い出してやるから、覚悟するがよい!」


「その通りです、乙女の純潔は永遠に不滅です」



いきなりの喧嘩腰というか、宣戦布告のような始まりに、12人の怒れる男たちは戦慄を覚え、圧倒された。




「オレらはなんか歓迎されてへんようやな」


「ああ、あの二人からは、ただならぬ敵意を感じるゼ」


関西弁の鈴木と、ダンディな高橋が冷静に環境を見定める。



僕たちはまだお互いのことを何も知っちゃいない。ただ、奴らのただならぬ圧力から、男子生徒は歓迎されていないどころか、抹殺対象であるかのような敵意を、明確に感じ取った一瞬だった。


それゆえ、心の奥底では瞬時に男たちの熱い魂が団結し、巨大な敵を撃つための、怒りに燃える闘志を共有しあった瞬間でもあった。



「なあ、みんな、ここでは僕たちは圧倒的な弱者だ。このままでは他勢に無勢、狩られてしまうのは時間の問題だ。ここはひとつ共闘してこの危機を乗り越えていかないか?」


普段なら薄い心の繋がりが、この時ばかりは共通の敵から身を守るために、熱い同盟を呼び起こしたのだ。




「ああ、あの高慢ちきな女どもを蝋人形にして手足をへし折ってやる!」

オタクの渡辺が恐ろしい発言をしている。


「この世の女どもは皆オレ様の下僕でしかない」

イケメンの山本が自信過剰にのたまう。


「日本のメスガキどもを、我が足元に跪かせてやろう」

とハーフの中村。


「威勢はいいが美味そうな顔してやがる」

とエロの小林


「誰もわかってくれない、分かり合えない」

陰キャの加藤。


「イキがる女の敗北こそが美しい!」

ドSの吉田


そして

「お姉さま、もっと激しく罵倒して!」

ドMの山田だ。



ここはテーマパークか?




「良いか、そこの男子ども!貴様らは本来我が薔薇乙女学園に触れることもできぬミジンコのような存在であろう!何を血迷ったか上層部の気まぐれで、貴様らのような汚物を招き入れてしもうた・・・


しかし、余の目の黒いうちは貴様らに青春など謳歌させはせぬ!この美しき学園から一人残らず殲滅してやるから覚悟するがよいわ!」


武者小路がイキリ立つ。



「武者小路の言う通りです。あなたたちには未来の希望すらありません。学園の黒歴史・最初で最期の汚点として、その存在すら抹消して差し上げます」

と伊集院。


何やら二人とも半端でない敵意を向けている。



しかし追い詰められたネズミは、虎をすら噛むと言うことをコイツらに教えてやる!





「佐藤くん、あの人たちはああは言っていますが、真に受けないでくださいね」

突然、隣の美少女が声をかけてくれた。


「君は、、、?」


「はい、私は源、あなたたちの味方です」

僕は耳を疑った。


「この学園は決して男子を憎む女子ばかりではないのです。中には純粋に、健全な青少年として、素敵な異性交友を楽しみたいという普通の女の子もたくさんいるのです。」



えっ、そうなの?



「ご存知のようにこの学園は世界の縮図のようなものです。生まれながらの家柄、武功、勲章、様々な要素が複雑に絡み合い、勝ち組たちが今の日本の階級社会を形作っているのです。


現在はかつての皇族、華族、そして武家の名門でのヒエラルキーが根付いていて、エリートと庶民を大きく隔てているのです。」




確かに、僕たち男子の苗字を見ると、日本で最も多いベスト12だ。それに比べて女子達の姓は、まさに上流階級そのものではないか。




「少子高齢化が加速している今、学校の統廃合や男女共学などは時代の流れです。ただそれを頑なに受け入れない人たちがいるのも事実です。


新たな時代を切り開こうとする上層部の英断に抵抗する勢力です。彼女たちは名門女子校の伝統を再び復活させるために、学園内に過激派勢力で構成された秘密結社〈純潔貞操隊〉を結成したのです。


全男子を排除し、学園を再び女子一色にするために、あらゆる手段を用いてあなたたちの抹殺を企ててくるでしょう」



佐藤は源の話を聞いて戦慄を隠せなかった。




「源さん、、、そんな重大な秘密をどうして僕なんかに話してくれるんだい?」



「私たちは平和を望んでいます。そもそも社会を構成するのは男と女、どちらに優劣もなく、欠けてはいけない存在です。互いに青春を過ごし、愛を育み、そして子を作り、社会の最小単位である家族が出来上がっていくのです。その大切なパートナーを全否定しては、愛ある社会にはなり得ませんから」


全くもって非の打ち所がない正論に、佐藤は心が震えた。




「でもそれじゃあ、僕達はこのままでは一人残らずその過激派どもに抹殺されてしまうってことか、、」



「だからこそ、立ち上がらねばなりません。少子化の原因の一つには、男が必要以上に弱くなり、女が必要以上に強くなったことにあります。



行き過ぎた人権尊重や、弱者救済を利用した利権団体、偏った排他差別主義、無気力無関心、様々な要素が複雑に絡み合った結果、男女の交わりが激減したのです。


特に男子の弱体化は顕著で、草食系男子たちは、社会のシステムに絶望し、一人で生きるのも困難、その上家庭を作る、家族を養う重圧、一方的にセクハラ疑惑で責められて、男なんだから、、、という脅迫観念を押し付けられた挙句、要求ばかりエスカレートする女たちに嫌気どころか、関わること自体がリスクという判断になってしまったのです。


一言で言えば、〈面倒臭い〉と」



源さんの指摘は最もだった。




「要はバランスなのです。平和とは中道なのです。完璧なものなどないにせよ、特定の人間たちが、いたずらに人為的に自然界のバランスを操作しようとするから、しっぺ返しをくらうのです。女だけの世界になれば、交尾は途絶え、人類は絶滅する。簡単な話です」


源さんの話は自論の押し付けでもなく、ただ素直に胸の内に入ってくる。




「しかし僕たちにとって、この学園での戦いは圧倒的に不利だ。わずかな男たちだけで、情報量も戦力も比べようがない・・・」




源さんが女神のように微笑んだ



「大丈夫、心配ありません。私たちが内助の功で男性陣をサポートします。確かに敵は強大ですが、あなたたちの個性と真の力を発揮できれば、そして男女が正しく力を合わせれば、決して不可能なことではありません」


ということは・・




「ええ、私たちは対純潔貞操隊反逆同盟、秘密結社〈健全異性交遊決死隊〉のメンバーなのです。合言葉は、清く正しく美しく・そしてちょっぴり面白く」




なんてことだ、ああ、女神様は男たちを見捨てなかった・・・




「それでは全容をお話ししていきましょう。学園には12クラス×40人=480人、うち男子12人です。入学時の成績順と内申書で各クラスに振り分けられていますから、私たち12組師走は最下層です。


そして各クラスには純潔貞操隊の息の掛かった殺し屋たちが、男子を殲滅せんと、てぐすねを引いています。清く正しく美しくのモットーに反して、彼女たちは手段を選びません。あらゆる悪どい、汚い、卑怯な手を使ってでも男性陣を根絶やしにしようとするでしょう。



そこであなたたち男子も、相手を女と思ってはいけません。目には目を、歯には歯をで容赦無く戦ってください。油断は命取り、情けは無用です。それにまだ学園の女たちの多くは戸惑っています。


女の園で純粋培養されてきたため、男への免疫がない、男が怖い、男への無知や偏見、そして純潔貞操隊の情報操作や洗脳、それらを解いて誤解をなくすのです」



「人間の男女に組み込まれた遺伝子には、互いに惹きあい、補い合い、愛し合うという自然界が定めた素晴らしい設計図が組み込まれています。それはこの学園の女たちにも、そしてあなたたち男たちにも」


いや、確かに全くその通りだ。


そうか、僕たちはこの学園にいるから頭が変になってしまってるんだ。




「そこで作戦としては、あなたたち男子は臆することなく、自由にのびのびと個性を発揮し、青春を謳歌してください。その魅力が、男女の青春と恋愛が普通にある、健全な世界を作り上げるのです。


そして〈純潔貞操隊〉の攻撃に負けず、全ての刺客を返り討ちにするのです。敵は全12クラスのトップたちです。下から順に1クラスづつ撃破し、女子達を洗脳から解放していくのです。


そして味方を増やし、最後に学園に共学化の恩恵と平和をもたらすのです」


なるほど、光と道筋が見えたよ、ありがとう源さん。




「そしてお気づきでしょうが今回の入試からすでに攻撃は始まっているのです。募集要項には男女半々とあったでしょう?」


そう、それが疑問だったんだ。



「過激派勢力が各中学校に手を回して、進路指導部で男子を受験させないよう誘導したのです。さらに入学案内を印刷した工場を倒産させ、パンフを裁断したのです。他にも、、、」


なんて奴らだ!




「さすがに半分が男性だと過激派達も苦戦します。だから事前に敵の戦力を最小限にし、自陣に引きずり込んだ上で、なぶり殺しにして見せしめとし、二度と男子が受験したくなくなるようにと、お膳立てをしているのです」


「そんな奴らに対抗できるのか・・・僕達は」




「マッドサイエンティスト佐藤くん!」



えっ?どうしてそれを?


「IQ1000の天才エンジニア、飛び級で世界最高峰の研究室へ招待されている・・」


「あなたなら、あの男子達の才能を活かし、勝利できます」



そういえばこの娘は、天才ハッカーと言われたあの・・・


何かが繋がったような気がした。





その後しばらくは、平穏な日々が続き、クラスの違和感も少しづつ無くなっていた。


そして12人の怒れる男子は肩寄せ合って互いの人となりを知り、バラバラで癖のある濃ゆい連中は、熱い友情と親睦を深めていったのだ。


源さんから聞いた極秘情報を男性陣で共有し、純潔貞操隊の攻撃に用心しながら。


源さん達の内助の功のおかげで、12組師走は男子のいるクラスとして、お互いに慣れてきたと思ったその矢先のことだった。




「来週より、新入生歓迎会が始まる!そして今回は、各クラスがそれぞれ企画したイベントを公開し、互いに観覧するというものになった!」


委員長の武者小路が吠える。


「特に男性陣は前日に、しっかりと首を洗ってくるように」


副委員長の伊集院が、意味深に冷徹な笑顔で補足する。12組師走の出しモノは、24対16で〈武道大会〉に決まった。



「きやがったな・・・」





「武道で武者小路に勝てる生徒はいません。武者小路はその名前の通り、武芸百班に秀でた、戦いの申し子なのです。


そして脇を支える伊集院もかなりの強者で、腕力バカの方とは違って、こちらは頭も冴えます。そしてあと3人の要注意人物が、過激派の仲間でしょう」




「源、1回戦は弓道、2回戦は薙刀、3回戦は合気道、4回戦は空手、5回戦は剣道、決勝戦は勝ち抜き戦で柔道とのことだ」


3人のタイプの違う美少女達は、平、北条、足利さん達だ。源さん同様12組師走の決死隊のメンバーで、いずれも凄腕のサイバー使いで諜報戦にはうってつけだ。




「最後に勝ち残った一人がなんでも一つ、このクラスを自由にできるということみたい」


「王様ゲームですね・・・」



圧倒的不利な無理ゲーの前に、勝機はあるのか・・・




「不可能などありません。男の魂次第です。今こそ男の魂を奮い立たせ、女の園に男魂注入するのです!」



12人の男達は円陣を組んだ。


「今こそ、男のタマシイを奮い立たせろ!女の園に男魂注入!我ら男魂部ここにあり!」






「フッ、よくぞ逃げずに現れたな!今日が貴様ら男どもの命日だ!

余が直々に引導を渡してやるゆえ、震えて眠るがよいわ!」


武者小路が吠える。



もはや隠すつもりもないか、単細胞なのか。





「1回戦は弓道!種目はウイリアム・テル!」

伊集院が宣言した。



「参加者は各自ペアになり、一方はリンゴを頭の上に乗せ、射手はこれを見事射抜けば、勝ち残りとなる!3本とも外せば失格だ」




「冥土の土産に余が手本を見せてやろう!伊集院!」


「オウッ!」




「この通り矢尻は本物の鉄じゃ!貫通すれば即死である!」




おい、待て、こいつらマジキチかぁっ!!!




「シュートォッー!!」




武者小路の矢は、見事に伊集院の頭の上のリンゴを貫いている・・しかも3本ともだ。




「これが我らの実力だ」


伊集院がこともなげに言う。もちろん他の女子の矢尻は吸盤で安全だ。




「大丈夫、逝きましょう」


源さんの勝算にかけた男魂部の実弾が、嘘のようにリンゴを貫く。電磁波が矢尻と引き合うようICチップが組み込まれたリンゴを。




『フッ、貴様らもやるではないか!」



ここで、矢が届かなかった男子2名、女子6名が脱落した。




「2回戦は薙刀だ!頭の上に重ねた2個のリンゴを、両端の真剣で1回転で切ってみよ!」


おい、ちょっと待て・・・・




「伊集院!」


「オウッ!」




「テヤアッッーー!!」


武者小路の武は、見惚れるほど、見事としか言いようがない。




「貴様らの悪運もこれまでじゃ!このリンゴ同様、頭と胴体を切断して逝くがよいわ!」






源さん、、、?


「大丈夫です。先ほど同様ICチップを組み込んだリンゴと薙刀の刃は引き合います」




薙刀を振り回せなかった男2名、女子4名が脱落。




「なんとしぶとい奴らよ!3回戦からは肉弾戦じゃ!運では勝てぬぞ!」




その言葉通り、合気道は年季がものを言う。男魂部の男たちは、力任せに武者小路と伊集院に向かうも、妙な技で次々と吹っ飛ばされていく。




「フッ、かなり減ったようだな」



奴ら、汗ひとつかいていない・・・バケモノか?





「4回戦は空手だ!伊集院!」



「オウッ!」



「ドリャァァッーー!!」




伊集院の頭上につまれた瓦10枚を、武者小路の手刀が真っ二つに叩き割った。しかも伊集院は無傷で平然としている。


さすがの男魂部も怪我人続出で、恐れを隠せない。


あれは女ではない、可愛い顔をしたゴリラだ・・・




「5回戦は剣道!伊集院!」


「オウッ!」


クールビューティな伊集院が凛々しい構えを見せたその矢先。


「チェストォッーー!!」


高速一閃の突きが伊集院を場外まで吹っ飛ばす。


も、当然のように無傷の伊集院。


一瞬、男たちの脳裏に真面目に死亡遊戯が映された。





「決死隊、男魂部、緊急連絡です!」


源さんがついに温存していた作戦を繰り出す。汗ひとつかいていないあのモンスターに、どうやったら勝てるのか!?




「男魂部は武者小路からとにかく逃げまくってください、討たれるまで。源、平、北条、足利の4名は、純潔貞操隊の4人をここで討ち取ります」




そして先鋒の平が勝利、足利、北条が要注意人物の2人と相討ち、源さんは激戦の末、あの伊集院から一本取ったのだ。


男魂部は汗だくになって武者小路から逃げに徹し、多大な犠牲を払って、陰キャの加藤、ドSの吉田、マッドサイエンティストの佐藤だけが生き延びた。




「すまぬ、武者小路」

と伊集院。



「ハアハア、、かまわぬ、源は強敵じゃからな。決勝で仇を討ってやるわ!それにしても男どもの情けないこと、逃げ回るだけでかかってこぬ。おかげで追いかけ回して汗だくになってしもうた。喉が渇いて仕方がないわ。伊集院、水をたんまりとよこせ!」



「最終決戦は柔道!日本精神に恥ずかしくないよう、正々堂々とこの武道館で雌雄を決するのだ!ルールは一本勝ちで決着、敗北宣言か、場外に出た時点で負けとみなす。


ここで余から提案じゃ!圧倒的弱者である貴様らにハンデをやろう!



5人順番にかかってくるがよい!余はここから一歩も動かぬ。貴様らの血反吐で、神聖なるこの畳を汚すのも忍びないでな!


貴様らは公衆の面前で余に公開処刑されるのじゃ!あまりの恐怖にチビってしまういそうじゃろうが!」





先鋒は陰キャの加藤、人見知りが激しく武者小路に近づけない。いたずらに時間が過ぎていく。何度も指導が入り、組み合った瞬間、加藤がもんどり打って地に沈む。



「空気投げ・・・恐るべし。次鋒は私が行こう」

平さんが前に進む。



「平、作戦通りに」


「うむ」


何やら秘密兵器でもあるのか?




「どうした、平!貴様も逃げか!」


武者小路が吠えるが、平さんは陰キャの加藤同様、逃げに徹しながら適度に急所にヒットを入れていく。




「デヤァッー!!」


ついに平さんが殺られた。




「平、よくやりました」


「源、あとは任せたぞ」




「中堅 源、前へ!」



ついに大本命の源さんだ。もうあとがない。




「さすがじゃ源、よく耐えておるな!」


動きを封じられているはずの、武者小路の猛攻に苦戦する源さん。




「あともう少しで、、」




源さんが何かを待っている。




「ドゥッ!!!」




大本命が敗れた。戦慄する吉田と佐藤・・・







「トドメはあなた達が刺してください。実は、、、」





ここで源さんが、衝撃の作戦の内容を説明してくれた。



「ゴー・トゥー・ヘル!」



源さんが立てた親指を下に向けて、首をちょん切るジェスチャーを見せた。



「二度と立ち上がれぬように、徹底的に壊してやってください」


なんだか源さんの目が怖い。





「副将 吉田、前へ!」

さっきまで子犬のように怯えていた、ドSの吉田の目が燃えている。



「フッ、最後のゴミクズ掃除か、吠え面かかせて、阿鼻叫喚の地獄を見せてやるわ!」


吉田の眼に黒い炎が宿ったその時・・・



「ウッ!」


突如武者小路の下腹部にツンと冷たい刺激が走った。




「まさか、、」




「どうした、女?吠え面かきやがって。ああ、そうか、、これから始まる阿鼻叫喚に震えているのか」




「違う!これは武者震い・・」




「武者小路だけにな」

突如、吉田が優勢になった。




「乙女みたいに何をもじもじしてんだ?」





「あのう、ちょっとタイム、、」




「聞こえねえ」


「いや、、」





「逃げるのか?」


「たわけ!」





「一歩でも動けば敗北だぜ」



「くぬぅ、、」




「言ってみろ」





「お、」




「お?」





「お小水を、、、」





「イキがった女の敗北は美しい」



「黙れ、余は貴様らなど、、」






「畳を男の血反吐で汚す?笑わせるな、てめえのションベンの方がよっぽど・・」



「おのれぇっ!余を嬲るかァッー!!」





「行けよ」


「はぁ、貴様?」




「ただし、ごめんなさぁい!男に負けておトイレにぃ!って、叫びながら許しを乞え!」



吉田が動けない武者小路の下腹部をポンポンと叩く。





「公開処刑されるのはてめえの方だなぁー!?」

吉田のサディズムが炸裂した。




「き、貴様ぁぁーーッ!!この鬼畜外道がぁッ!!」




武者小路の怒りに燃えた、渾身の一本背負いが、ドS吉田を畳にめり込ませた。武道館は沈黙に包まれていた。





「武者小路・・」


「笑ってくれ、伊集院・・・もう余は、お嫁に行けぬ体になってしもうた」




最後のコールが鳴り響く。




「大将 佐藤、前へ!」




無敵の武者小路を倒すため、源さんの恐るべし綿密な作戦で、佐藤はこの日のために、超即効性のある強力な利尿剤入りのペットボトルを開発したのだ。



防具に包まれた剣道で、汗だくにしてこの水を飲ませ、効き目が現れるまで時間を稼ぐ。なんとかギリギリ間に合い、トドメはドSの吉田が刺したが、まだ勝負はついていない。





敗北よりも、精神的な死を選んだ、真の武人がそこにいる。



びしょ濡れになった、放心状態の武者小路を抱き抱え、佐藤は歩き出した。



「勝者 大将、佐藤!」



「き、貴様というヤツは、、、」



「情けは無用と言ったのに、佐藤くんはシュガーのように甘いですね・・」



優しい笑顔の源さん。敵はとんでもなく強かった。奇跡的な勝利だった。





激動のイベントを終えた教室で、勝者である佐藤には王様としての特権が与えられた。



「勝者の命令は絶対じゃ。煮るなり焼くなり好きにするがよい」

武者小路が少し赤くなりながら必死で強がっている。



「敗者には語る弁などありません」

と押し殺した声で屈辱にわななく伊集院。




「我が12組師走は男女平等、みんな仲良く平和に、健全な異性交友と青春を楽しむこと!」

佐藤の命令は絶対だ。






「なんと!こんな余らを許すと言うのか、、信じられぬ」

武者小路が驚愕する。


「まこと天晴れな男じゃ!よい、ならば余が貴様の番になってやろう!余を公衆の面前で辱しめた責任を取るがよい!」




いや、それは吉田だろう・・・





「武者小路、あれは私のものだ!」


僕はモノでも景品でもないんだが・・・




「いや、結構です」

即答する佐藤。




「貴様ァッー!、サトウのくせに塩対応とは!」

武者小路が真っ赤になって激怒する。



「フッ、世の中、そう甘くはネエな」

ダンディな高橋がつぶやく。




こうして激動の新入生歓迎会が終わり、僕たち12人の男達は、女神様達に助けられ、無事に生き延びることができたのだ。


次なる刺客に備えて、しばし戦士の休息を楽しむとしよう。


内助の功で支えてくれた源さんたちと、勝利を喜びあい、お互い照れながら軽いハグを交わした男達に、新たな希望が見えたひと時であった。







・・・「御屋形様、12組師走の男子ども、未だ健在とのことです」


「なに!?あの武者小路が破れたと言うのか?しかも伊集院まで・・・」


「なんと、、」


秘密の部屋にどよめきが起こる。


「おのれ、男どもめ」




「ホッホッ、そ奴らなかなかに、わらわを楽しませてくれるようじゃのう。まあよい、その方が嬲りがいがあって良いではないか」


頭領らしき女がほくそ笑んだ。



「残り11組、果たして攻め上がってこれるか見ものじゃのう。しからば次の刺客を放つのじゃ!次はしくじるでないぞ!」


新たな密命が下された。


「ハッ!」


「御意に!」


ここに男子殲滅を目論むエリート女子勢力と、個性豊かな12人の男子との熱い学園バトルがスタートしたのであった。


次々と襲いくる恐ろしい刺客達。果たして男達は生き残ることができるのか?そして乙女たちの誤解と洗脳を解き、健全な異性交友、男女共学は実現できるのか?


戦え!男魂部!



学園に真の男女平等を、そして愛と平和を取り戻すその日まで!

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