第34話 妖精さんとアンナもお菓子を作る

翌日夕方、閉店後。


珍しく、お付きの人一人で、お店までやってまいりました。

そんな彼が厨房を見て一言、こんなことを言いました。



「今日は厨房が賑わってますね、差し詰め公園の砂場のよう」



言わんとすることはわかります。

ぐっちゃぐちゃですよね。


新人が慣れない手つきで、ボールの中の材料を勢いよく入れすぎた&混ぜすぎたおかげで、周りがそれらでグッチョグチョ。


その対面にいる妖精たちは…楽しいお菓子作りにウッキウキでハッスルしたおかげで、やっぱこちらもグッチョグチョ。


慣れてないとこうなるのは仕方ないので諦めてます。

まぁ全員お片付けを拒否しないでしょうし。



「何をされてるんです?」



「もちろんチョコもちを作ってるんですよ、みんな練習ですけど。」



「アンナの方はわかりますが……彼らは何を持っているのですか?遊んでいるようにしか見えないのですけど」



まぁ、お付きの人がそう思うのも無理ないでしょう。


彼らは木の器に向かって棒を叩きつけているのですから。


しかも…



「よししょー!」



「どっこらしょー!」



「ぺったんこー!」



「ぺったんこー!」



「のびーるのびーる」



「ストップ!」



こんな掛け声をしているのですから。



「あぁ、あの道具ですか?臼と杵です」



「キネ?」



当然のことではありますが、この国に杵と臼はありません。


もちろん、実物を数回見た程度の私に、実物大のそんな物を作るのは無理なので、ボールでちまちまやっていましたし、アンナにもその精製方法で製造をお願いしています。



しかし、なんとなくのイメージでも妖精さんサイズなら作ることができました。


形や重さに自信はありませんが、使う木材も少量で済みますし、彫刻刀、最悪刃物があれば、道具を加工することができますので、ちゃっちゃと作ったわけです。


まあまあ記憶の中の臼と杵に似ています。

何より問題なく妖精たちが餅つき大会を楽しんでいるので、大丈夫でしょう。



「安心してください、餅つき大会でお祭り騒ぎ中ですが、あれが正式な餅の作り方です。この餅米くださった国でもこのように作られているはずですよ?」



「にわかには信じがたい……」



まぁ、何も知らないと異様な光景かもしれませんね。



「妖精たちもお菓子を作るのですか?」



「いいえ、彼らにお菓子作りを頼んでも、人間のサイズの器具は扱えませんし、彼らサイズだとあまりにも小さいのでお店に出せないのです。」



「まぁ、彼らに物を売るわけにもいかないですしね」



「金銭感覚もない彼らと取引して何かあってはいけませんし。」



「まぁ、でも彼らがやりたいというなら拒否する理由もありませんし、アンナに関しましては、チョコ餅の需要が高まった今、人手が足りないのも確かなので、業務終了後にお手伝いをお願いしようかと。」



結果、餅つき大会が始まったわけです。


本当はもっと簡単なお菓子からお手伝いお願いしようかと思ったのですがね、いかんせん、今一番必要なのはチョコもち。


この世界には機械なんか存在しないので、自分で餅を作らなければいけません。

これを数作るためには猫の手も借りたい状況だったので、やる気のある人間を使ってやろうと、そう思ったわけです。



「チョコ餅というのは、簡単に作れるのですが?」



「何を持って簡単というかどうかはわかりませんが、お餅は蒸さないといけませんし、突かないといけないので力仕事ですし……ネバネバしているので加工が少し面倒です。」



「あぁ、だからアンナの隣の皿に泥団子のようなものが積まれているのですね。」



「あれでも頑張ってくれているのですよ。」



とはいえ、あの見た目では売ることができません。

大きさはバラバラ、綺麗な形になっていなかったり、中からチョコがはみ出てたり。


まぁ、でもここにくるまで実はもう何十回と練習したので、力加減や材料の分量はわかるようになったみたいですけど。


とはいえ、結局のところはやらなければお菓子作りなんて覚えられません。

それに、このお菓子は楽しくつくる…という条件は満たせています。


続けていただけなければ意味がないので、練習だと割り切れば及第点です。


まあ、小さすぎて売り物にはなりませんが、彼らに関しては各々楽しんでいただければOKです。



「まぁ、力仕事で面倒なお菓子ではあるのですが、実際売上も伸びてきてますし、パーティー当日のことを考えれば、作れる人を増やした方がいいかと思いまして……あと、お菓子を作りたいと……アンナから申し出がございまして。」



「アンナがですか……」



「はい、もともとパティシエ志望とのことでしたし、今回のパーティーでは自分も何か協力させて欲しいと。」



「それはそれは、我ながらなかなかいい人材を紹介できたみたいで」



「それはもう。」



私は、彼の目的であるお店の帳簿を渡しながら、そう返事を返します。




「…いただいた帳簿を確認する限り、売れ行きは戻ってきていますが、もう少し売れていただいた方がこちらも宣伝しやすいです。」



「その宣伝頭の殿下はどちらに?まさか、今日は真面目に仕事をなさって」



「広場におります」



なんだ、てっきり今日は真面目に仕事してるのかと思ったのに。



「広場で何をしてるんです?」



「最後のダメ押ししてるみたいですよ、彼らと一緒に」



「ダメ押し……まさか、これの宣伝を?」



「まぁ、要はそういうことです。」



「でも……この街の人たちは……」



「かといって、ここの街の住人の評判をスルーするわけにはいかないでしょう。見劣りしない売上を見込むには、このくらいしませんと。」



広場ということは



「大丈夫です、殿下を信じてあげてください。」



「……?」



信じろと言われましても……

何をどう信じればいいというのやら。


殿下のことを信用しないわけではありません。

でも、信じたところで、街の人の信用回復ができるかどうか…。


らしくもなくしゅんと落ち込んでいると、お付きの人が適当に数箱を選んで私に渡しました。



「なんです?」



「これ、購入させていただけませんか?」



「それ……試作品ですけど……?」



一応あんなのチョコ餅の大きさイメージの助けになるように、練習で作ったお菓子を詰めるようにいっていて、いつの間にか数箱積み上がっていたのですが、お付きの人はそれをとったようです。



「破棄の予定でもあるのですか?」



「いえ、数個を味見がてらおやつにしようかと、あとまだフェアリーイーツ用のがあるので、次戻ってきたら試食用に持たせようかと……」



「あぁ、それならやはり買わせていただきます。」



「毎度ありがとうございます。」



いわゆる研修状態の彼女の商品を売るのは少し気が引けたのですが、お客様が欲しいというなら、オーナーとして売らないわけにはいかないです。



「後もうひとつお願いがあるのですが、これを殿下に持って行ってはくれませんか?」



「差し入れですか?」



「まあいけばわかります。」



「はぁ……」



それにしても、殿下は広場で何をしているのでしょう。

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