第35話 妖精さんたちと叩き売り
広場にたどり着くと、信じられない光景が目に映り、絶句しました。
ある一角に、人だかりができていました。
「いらっしゃいましー」
「ましましー」
「お菓子屋さんのお菓子でっせー!」
その中央に、かれらはいました。
即席出張お菓子屋さんができていました。
そういえば、閉店前に妖精たちが、チョコ餅の在庫欲しがってましたっけ……注文って言ってましたけど……これだったんですね。
まぁ、テーブルの上にチョコ餅が並んでるだけなのですが。
まぁ、そのテーブルをどこから出したって話ではあるのですが。
まぁ、妖精たちが勝手にやっているのはいつものことなのですが……
問題はそちらではなく
「安いよ安いよー、というか無料だよー、よってらっしゃい見てらっしゃい!お菓子屋さんのチョコもち試食で一箱プレゼントー!」
なんで殿下がこの出張お菓子屋さんで、販売員として活動してるかなのですよ。
お忍びで来てるならまだいいんですけどね…身なりが王侯貴族のそれなので一発で分かりますし、なんなら自分で
「皇子自ら、好物を贈呈しにきたぞー」
なんて自分自ら身分を明かしてますし。
妖精たちがなんか黄色い紙で作った冠かぶせてるんですよね。
冠にはこう書かれてます。
『本物王子降臨☆』
あ、これは逆に本物感薄れていいかもしれません。
安心しました。
まぁ、そもそも前から思ってたんですけど、殿下の口調って皇族どころか貴族っぽくないんですよね…なんっていうんでしょう、庶民の近所の兄ちゃんみたいな。
いいえ、批判ではありません。
そういう性格だから、あんないかにも怪しい『皇子好物無料配布』なんて手書きの木製看板が置かれていても、人が集まるんでしょうけどね。
それがいいことか悪いことかは考えたくもありませんが。
「太客の好物だよ〜!」
だからと言って、庶民の皆様の目の前で堂々と一国を担うトップの皇子殿下にそんな失礼なことを言うものではないですよ妖精たち。
今更ですが。
もちろん本人に直接いうのも問題ですが。
でもやはり国のトップが看板になると、やはり客寄せがいいです。
もちろん妖精人気もありますが、妖精たちは以前のように自分たちが前に出て宣伝しているわけではなく、あくまで殿下のサポート、つまりお菓子の受け渡しに特化しています。
となると…やはり殿下の力は偉大です、権力って恐ろしい。
「あーオーナーだ!」
「オーナー何しに来たのー?」
「お店もういいのー?」
あまり仰天光景に言葉を失って呆然と立ち尽くしていると、私に気がついた妖精たちが3人ほど私の足元にやってきました。
「あぁ、はい。お店はもうクローズしました。お店の方は、今アンナが練習してます、待機組妖精さんたちは、餅つき大会してますよ?」
「餅つきってなんぞ?」
「響きは楽しそう」
そうか、杵と臼を作って提供したのは、クローズした直後のこと。
その時にここにいた妖精組にはまだ情報が行き渡っていないのですね。
「今お店戻れば、まだ混ざれますよ?どうします?」
私は彼らに尋ねました。
楽しいことが大好きな彼らは、すぐに喜んで飛びつくと思ったのですが、少し悩んでヒソヒソと相談をし始めました。
そして
「「「あしたやるー」」」
これが結論でした。
「意外ですね、すぐに楽しそうな方に行かないなんて」
「もちろんそちらも魅力的ですが」
「今はこっちが楽しいので」
「なんならみんなに声かけて、明日そちらに連れてきます」
明日は厨房が混雑することでしょう。
「あぁ、そうだ。お付きの人に言われてこれを殿下に渡してほしいと頼まれて、ここにきたのですが…皆さんは何をされてるのです?殿下も混ざってるみたいですが…」
「太客が混ざってると言うより」
「僕らが混ぜてもらった」
「殿下が発案なのですか?」
「うーん」
「発案というより…」
「みんなで餅食べてたらこうなった。」
彼らから詳しく聞いた話を聞くとこういうことだそうです。
なぜか大量にチョコ餅の在庫を大量に抱えた殿下が、広場のベンチで腰をかけてチョコ餅を食べていたそうです。
さっきも言った隣に謎の看板を『皇子好物無料配布』立てて。
うちの店に来る途中だった妖精さんたちは、殿下を見つけて声をかけたらその在庫のうち、1箱分を贈呈されたそうです。
みんなでベンチに座り、もちもちタイムを楽しんでいたところ、興味を持った裏若い女性の二人組が目の前に現れて声をかけてきたのだとか。
殿下はその女性たちにまた一箱贈呈したのだとか。
要はまぁ……それの繰り返しです。
そして、気がつけばこの人の山だったと。
「でも、無料配布してるのですか?」
「はいなり」
「試食用として」
「無料配布でお店の宣伝」
「でも、利益が出ないじゃないですか」
「事前に購入したもので、代金支払い済みだとかなんとか。」
そういえば、フェアリーイーツで皇宮当てにいくつか多めに注文ありましたね。しかも連日。
殿下のおやつかと思ったら、庶民にサンプル配ってたわけですか。
ポスターや新聞で宣伝したのかと思ったら、まさかこんな握手会戦法のような方法だったとは。
「僕らが後から持ってって追加分についてですが」
「後で太客が払ってくれるとのこと」
それは逆に申し訳ない。
それだと殿下を只働きさせてることになるじゃないですか。
それもなんの変哲もないお菓子を売るためだけにそんなことをさせるわけにはいきません。
懐は痛いですが、必要経費なので仕方ありません。
「オーナーどーする?」
「戻ってお金調達します?」
「それならそのお品物、お預かりします」
「それとも自分で渡す?」
そうですねぇ…まぁ、どのみち殿下に給金をいくら払うかとかいうのは相談しないといけませんし、戻ってお付きの人に相談しても良いのですが、本人の意思は確認しませんと。
この国のトップなんですから。
たとえそう見えなくても。
「わかりました、私がこれちゃんと渡します。」
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