第22話 妖精さん 手伝い 欲しい
「オーナー」
「ごめんなさい」
「色々壊した」
厨房に入ると、中は予想通り大惨事でした。
ボール、泡立て器、麺棒、まな板、菜箸、お玉、型抜き、包丁、お鍋。
ありとあらゆる調理器具がひっくり返り、中に入っていたり、何かに乗っていた生地たちは、作業台の上やら床やらに散らばっていました。
「オーナー失望させた」
「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」」
妖精ズがっかり。
すっかり落ち込んでしまいました。
「皆さん気にしないでください、無理なお願いをしたのはこちらですから。お片付けしましょう。」
私は箒とちりとりを持って、粉を掃いてまとめます。
妖精たちは各々自分サイズの雑巾を持って床掃除をします。
そのお掃除のせいで、殿下とお付きの人を大変お待たせしてしまったようで……
「妖精に手伝ってもらっているのですか?」
二人が中に入ってきてしまいました。
「本人たちがどうしてもというので。」
おかげで金平糖の配布率が急増中です。
そんな私たちの様子を見た妖精達は、掃除の手を止めて、こちらにやってきました。
「お貴族様きた」
「違うよー太客だよー」
「ふと客だー」
「こら」
どんどん無礼な物言いになっていく彼らを軽く叱ります。
しかし肝心の殿下は、そんな物言いを逆に気に入ってしまい、自分によってきた妖精たちの頭を指でぐりぐりしていました。
しばらく殿下は妖精達との戯れに忙しそうなので、話はお付きの人とつけることにしました。
「フェアリーイーツなるものなどで、宣伝活動、接客活動の手伝いをしていることは存じておりますが、まさかお菓子まで……」
「あぁ、いえ。彼らがお菓子を作るのは今日が初めてなんです。今後のことを考えて、シミュレーションというか……」
「シミュレーション?」
「えぇ、フェアリーイーツを彼らが始めてから、お届け用のお菓子の製造が間に合わないので、なんとか人手を増やせないかと思いまして……それに頭を悩ませておりましたら、有志が集まったのでとりあえず。」
「この惨状を見るに、失敗したみたいですね。」
「そうですね、オーブンの見張りとか、型抜きくらいなら大丈夫なのですが……やはり材料を入れたり、混ぜたりという作業は、人間用の調理器具でやるには大きくて……こうなってしまったみたいです。」
「いっそ妖精サイズの調理器具を作るというのは?」
「やってみましたが、とっても小さなお菓子ができただけでした。」
猫の手も借りたい、なんてことわざがありますが、実際に借りたとて、それで何か作業が片付くわけじゃないのですよね。
私はこっそりため息を吐きました。
「なるほど……だからチョコ餅の量産は無理なのですね……」
「面目ございません。」
あれこそまさに作れる人は私しかいない上に、賞味期限が短い。
レジをやってくれる人が現れない限り、お店に出すことは不可能なのです。
「殿下ががっかりしそうです。」
私は殿下の方に顔を向けます。
「お貴族様、お菓子いるですか?」
「僕らの賄いならありますで」
「差し上げますが?」
いつの間にか、貢物をされる程度には妖精と殿下の仲は深まっておりました。
「いいのか?昨日もとったのに……君らの賄いだろ?」
殿下は一応断ります。
というか、お餅を食べて結構お腹が膨れているのでは?
まだ食べるのですか?お夕食大丈夫ですかね……
しかし妖精達はそんな気は使いません。
「一人一個以上の量があるので」
「残ってる分で満足です」
「そもそも人間用のは量多いので」
「どうってことないです。」
「お嫌でなければ?」
「ありがとう」
もらってしまいました。
そして食べてしまいました。
王宮のシェフの顔が思い浮かびます。
王宮でパティシエ修行していた私は、当然シェフの顔を知っています。
お夕食食べてもらえなかったら、泣くだろうな……。
まぁそれが困るお付きの人は、賄いを食べようとした殿下の首根っこを掴みました。
「あなたはさっきおやつを食べたでしょう、いい加減にしてください」
普通に怒られていました。
「いやぁ……思いの外こいつらとの話が楽しくてな。オーナー殿のこのマカロンもうまい」
「それはありがとうございます。もしよろしければ、またいつでもおいでください。餅米持参いただければ、チョコもちもオーダーメイドで作りますので。」
私は褒められたお礼とチョコ餅についてのお話を軽くしてお帰りのご挨拶として結んだつもりでした。
「量産はできないのか?」
「ここ、私一人で切り盛りしてますし、人でも足りなければ餅米もないので」
お付きの人に説明した話をさらに短く一行分のセリフ量で済ませました。
これで諦めていただければと思ったのですが
「餅米と、人手不足解消が解消すればいいのだな」
思わぬ返事が返ってきました。
「人がいないなら、連れて来るが吉だな」
「心当たりを探してみましょうか。」
オーナーの私を無視して、貴族と皇族の2人が話を進めました。
それに妖精たちが食いつきます。
「職人増えるですか?」
「職人というよりはお手伝いでしょうが」
「従業員」
「そっちの方が近いな」
「仲間が増える?」
「増えると言っても、1人が限界ですけど」
「そんでもええやん!」
「ふえるぅーー!!」
「「「「「「バンザーイ、バンザーイ」」」」」
オーナー以外が知らないところで、客と妖精が話を進め、大喜び。
気がつけば、オーナーである私の、拒否権は消えていました。
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