第23話 妖精さんと人手不足問題解消
翌朝、開店1時間前
「今日からお世話になります!アンナと申します!」
昨日のの宣言通り、同い年くらいの女性が従業員としてやってきました。
殿下に連れられて。
ネギを背負った鴨ならぬ、餅米を背負った従業員って感じでしょうか。
連れてこられたアンナというなの突如現れた従業員もやる気満々、妖精達も大喜びです。
「従業員だって」
「やったねオーナー、人手が増えたね!」
おいバカやめろ。
「なかよーしてーな!」
妖精たちからの好感度も抜群です。
正直、猫の手だろうが妖精の手だろうが借りたいこの状況で、人間の手が借りられるのはとても助かりますが、皇族の方が、こんな小さなお店に肩入れするのは良くありません。
お店は味以上に、評判がものを言います。
裏で繋がってるとか言われたら、色々面倒です。
「おことわりしま……」
「彼女元々パティシエ志望でして」
聞いちゃいない。
「修行したいという旨を常々聞かされていたのですが。突然皇宮というわけにも参りませんので……こちらに彼女を派遣する、という形で尽力させていただきたく。」
「派遣だって」
「派遣だったらいいじゃない」
「雇ってくんろー」
お付きの人が行った言葉に、妖精たちも便乗します。
全く、彼らは派遣の意味ちゃんとわかってるんですかね。
でも、確かに私もいきなり王宮行ったわけではありませんし、貴族令嬢だとおいそれ庶民のお店まで修行しに行くわけにも行かないですしね。
紹介者が殿下では断るに断れないじゃないですか。
しかも……
「私、お菓子も妖精も大好きなんです!ここで働けるならならなんでもいたします!」
見てくださいこのキラキラとやる気に満ち溢れた目の輝きを。
こんなの見せられたら断る私が悪者じゃないですか。
でも、お店の名誉のために、一応理由を探ります。
「……そこまでして、うちに肩入れするのはどうしてですか?もしかしてこの子達ですか?」
私は自分の前でキャッキャとアンナに群がる妖精たちを指さします。
正直ここ数日の繁盛は妖精たちのおかげなので。
しかしお付きの人は首を横に振ります。
「確かに彼らは魅力的ですが、金になりません。」
「失礼なー!」
「お金にならないとはー」
「侮るなかれ、僕らの魅力!」
お付きの人の言葉に妖精たちが反撃します。
しかし、そういうことではないようです。
「もちろん、彼女の派遣は無条件で行うものではありません。お願いしたいことがございます。」
「オーナーにお願い?」
「なになにー」
「オーナーにできること?」
「彼女にしか頼めないことです。」
妖精とお付きの人の会話の内容を聞いて、少し気になってしまいました。
私にしか……そこまで言うということは、意外にも深刻な内容なのでしょうか。
いえ、想像に難しくありません。
「……もしかして、昨日話に出ていたチョコ餅の量産の件ですか?」
「そうだ、正直これは売れると思うんだ。ズバリ、チョコ餅名物化作戦!」
殿下の出したその作戦名、控えめに言ってダサいです。
「ありがたいですけど、庶民のお菓子を、そこまで祭り上げる理由はどこに……?」
「国の名物菓子にしたら毎日食べられる!」
なんと私情に塗れた目論見。
皇子様のわがままから始まる商品販売。
そこまでして食べたいですかチョコ餅。
「国の代表的なお菓子と言いますけど、餅米を輸出してる国には、すでにある物なのでは?」
「何も『餅はこの国発祥!』なんて烏滸がましいことを主張するつもりはなく、友好国発祥の食材と、この国の食材を掛け合わせて生み出された『友好の証の名菓子』という謳い文句でアピールする予定です。」
オーナーの私に相談もなく、アピールポイント勝手に決められました。
まぁ、別にいいんですけれども。
でも、そんなうまくいきますかね?
「変に改造しやがってー」とかなりません?
まぁでも、確かに前世でも、外国の料理が魔改造されることはよくありましたっけ。
ナポリタンスパゲッティーとか、パイナップルのピザは以外にも日本人の魔改造による物ですし、日本の寿司だって、海外ではカリフォルニアロールになってたりしますし。
インドのカレーがイギリスに来て進化を遂げカツカレーができて、今やイギリスに逆輸入されたとか。
そう考えれば気にすることもないのかもしれません。
とはいえ、無料の従業員も、チョコ餅の製造もやはり気が乗りません。
「やはりお断り……」
「こちらの要求を飲んでいただけましたら、彼女の給金はこちらが持ちましょう。」
「アンナさん、これからよろしくお願いいたしますね。」
手のひらクルックルとはまさにこのこと。
お付きの人の誘惑に勝てず、提案を受け入れることにしました。
人手とお金確保のためなら、なんでもござれ。
本日付で、アンナはうちの従業員になりました。
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