第21話 チョコ餅は量産不可



一瞬妖精たちにバレて、食べられたのかと思ったのですが……お皿ごとありませんでした。


後々発覚しましたが、チョコ餅は夜食をご所望された殿下のスイーツだと判断されて、勝手に持って行かれてしまったのです。


つまりあのお菓子は、私も食べることが叶わず、妖精たちがこのお菓子の存在を知ることもなく、殿下のお腹の中へと消えていったわけです。


だから私と殿下以外このお菓子のことを知らなくて当然なのです。



「私がいない時の夜食だったそうなので、このお菓子のことを知らず……、探すのが大変でした。」



「知らない食べ物を探すのは大変だったのでは?」



「おかげさまで、一度食べただけのお菓子が忘れられないと、ごねる殿下を宥めるのは大変でしたよ。」



「そ……そこまででしたか?」



「いや本当、口では言い表せないほどに大変でした。」



心中お察しします。



「しかし、そのような状況で、よく製造者が私だと行きつきましたね。」



「調べて分からないなら、製作者オリジナルのお菓子だと見当はつきました。そんな時、彼ら妖精たちからチラシをもらい、皇宮のパティシエが独立した話を思い出しましてね。」



「このお菓子が出てきた時期も、そのパティシエがやめた時期と一致してたから、そのパティシエがこの菓子の製作者に間違いないと思ってな」



未だ餅を食べている殿下はもぐもぐしながら、お付きの人の言葉に同意しました。


それを聞いた私は、大袈裟に言ってお二人がまるで何かの謎を解き明かす名探偵に見えました。


たかだかチョコなんですけどね。


……たかがチョコ餅で壮大な推理をしなくても……


皇宮ってそんなに暇なんですかね。



「これは、そなたにしか作れないのか?」



「そうですね……餅自体は餅米を持ってきた国にも存在すると思いますが、このチョコを混ぜたチョコ餅は……この世界にはないかと……」



チョコ餅が初めて発売されたのは確か平成の世になってからのはず(リサーチ不足でもっと昔からあったらごめんなさい)


この世界の時代背景を見るに、おそらくこの時代には存在し得ない食べ物かと思うので、おそらく作ったのは私が最初でしょう。


しかしそんなことを聞いてどうしようというのでしょう。



「これは商品化はしないのか?」



「無理ですよ、材料がありません。」



「このくらい、いくらでも取り寄せるぞ」



皇子、よっぽどチョコ餅にハマったようです。



「しかし、お金がありません。」



「君は元子爵令嬢だろ?子爵から援助はないのか?」



簡単に言ってくれますね……世間知らずの坊ちゃんが。



「どこまでご存知か知りませんけど……私は濡れ衣を着せられた身。ほぼ追放された状況なので」



それに、そうでなくとも、こちとら没落しかかってる子爵の家のでなんです。

支援なんかもらえるわけもありません。


というか、ほぼ縁切り状態支援なんかするわけがありません。



「ですので、量産予定も販売予定もございません。」



私はキッパリとそうお伝えしました。

しかし、皇子は諦めたくない様子。



「これを量産するなら支援でも」



「皇子ともあろうかたが、一つのお店に肩入れするのは反対です」



流石にお付きの人からストップが入りました。

そりゃそうですよ、なんの理由もなく支援されてあーだこーだ言われたくありません。



「それに金銭的支援いただいても、単純に人手が足りないんですよ。このチョコ餅……他のお菓子より少し手間がかかるので、これ作ってる間、作るお手伝いか、お会計のお手伝いお願いしないと。」



「それを頼める相手はいないのか?」



「人を雇う余裕もありませんしね……まぁ一応、対応策はなくもないのですが……」



ガッチャーン



そう言った直後、厨房の方から音が聞こえました。



「あ、少々お待ちを」



厨房で何かがあったことを察した私は、様子を見るために、二人にお断りの言葉をかけ、厨房の方を覗き込みました。


音の原因は、やはり妖精たちでした。

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