第20話 妖精さんに内緒のお菓子



私はそもそも、きな粉餅を食べたかったのです。



しかしこの国は、ライス料理の心得はありますが、餅米の扱いは心得ていませんので、お餅なんか作れません。


むしろ料理長が「なんだこのネバネバした米は〜!」と怒り出す始末。


この1俵のコメの処理に困ったシェフ・パティシエたちは、放置するということが決められ、倉庫の奥底に封印されました。

当時王宮でパティシエ修行していた私は……餅米をくすねることにしました。


いえ、修行の身として、研究として、食材を借りるのは問題ないんです、申請すれば。

でもほぼほぼ破棄予定の餅米を1合使うくらいで申請もめんどくさいので……餅米をくすねることにしました。


でも、妖精さんたちにみられると、密告される可能性があったので、夜、厨房の片付けが終わった後に、こっそり作っておりました。


それはさておき、転生してから、お餅なんて食べてなかったですからね。

ルンルンですよこちらは。


そして、米を蒸して、ボールと麺棒でぺったんぺったんお餅をつきましたとも。きな粉餅を食べるために。


そして、餅がつき終わった後に気づきました。





この国に、きな粉がないことを。




失念しておりました……この国には大豆がないことを。

ならばあずき?きな粉がないのに大豆があるわけないじゃないですか。


この国にある豆はグリンピースとかインゲン豆。


ずんだ餡子とか白餡だったら、もしかしたら作れたかもしれませんが、前世で小豆のあんこすら作ったことないんですから、あんこの概念のないこの国で、餡子を作る方法が学べない以上、私があんこを作る術はありません。


じゃあ醤油?


もう一度言います。

大豆がありません。


あったとて醤油の作り方なんか知りませんし、発酵させなきゃいけないはずなので時間がかかります。


前世で作ったきな粉餅や餡子もちは、全部既製品を購入しただけ。使える知識は皆無。


餅米があるんですから、これを持ってきた国ならきな粉も小豆もあるかもしれませんが、土産でもらって、手元にあるのはお米だけ。


なら輸入すればいい?

待てばいつか輸入できるでしょうね。


しかしお餅はつきは終わってしまいました。

このまま放置したら、1時間も放置してしまえば固まってしまいます。


間に合いません。


まぁ、餅だけで食べることもできるのですが……あまりにも味気ない……何かは付け合わせに欲しいです。


私は食糧庫で何かいいものがないか漁りました。

正直砂糖を溶かして絡めるとかでもいいかなーと思ったのですが、生クリームとチョコレートを発見。



「これなら、チョコ餅を作ることができます!」



バレンタインの時に作っててよかったです、おかげでレシピも覚えています。奇跡ですね。


え,彼氏に作ったのかって?

いませんでしたよー、死ぬまで。


じゃあ友チョコ?

1人で食べたに決まってるじゃないですか。


察せ。


いいですか、バレンタインとは、年に一度世界各国、ショコラティエが腕を振るったチョコレートを食べたり、バレンタインを口実にチョコレート菓子を作る日なのです。


友達とチョコレートを交換したり、意中の相手にチョコと一緒に愛の告白をする日ではないのです



バレンタインは男性も天と地に分かれるそうですが、女性だって、楽しいばかりじゃありません。


恋人や友達がいなければ、ただのチョコを食べる日なのです察せ。


まあ、経緯などなんでも良いのです。

大事なのは、私がチョコ餅の作り方を知っていたということです。


そしてチョコ餅を作り終え、綺麗にお皿に盛り付けた私は、お菓子作りに使った調理器具と、無断で使った生クリームが入っていた容器をバレないように処理するために、食糧庫へ一度引っ込みました。


これが大失態でした。


私が片付けをしている間に、厨房に置いてあったチョコ餅が姿を消したのです。

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