第18話 妖精さんと注文
15時、閉店直後。
いろいろありましたが、疲れを癒している暇はありません。
「これ見て」
ドンっ
帰ってきたフェアリーイーツ部隊10名のうち1人が、リュックから注文票を取り出しました。
そしてこのドンっという音は、その注文票が机の上に置かれた音です。
効果音がおかしいって?
おかしくありません、その注文票の束……一枚や2枚じゃないんです。
枚数が分かりませんが……注文票の束の高さが、2cmくらいあるのです。
「これの量を……明日の閉店後に作れと」
「オーナーならできる!」
「ありがとうございます。」
応援されるのは嬉しいですが、自信はありません。
甘かったです……出前をしたところで、こんなに顧客を取れるはずがないと思っていたので、空いた2時間でお菓子作る余裕があると判断したのですが……
これの半分でもちょっと多いのに……フェアリーイーツを気軽に許可するべきではありませんでした。
一人で切り盛りするこのお店でこの量を2時間で……なんてハードがすぎます。
でも、物は考えようです。
当日分しか店頭に並べないのでこのお菓子は今日作ることはありません。
明日までに作戦を考えればいいのです。
よし、一旦この注文の量のことは忘れましょう。
私は注文票の束を、カレンダーの隣におきました。
そして拝みます。
『明日の閉店後、この量のお菓子が作れますように』と。
さて、拝み終わったところで、もう一つの案件の問題も確認しないとなりません。
「確か……トカードよね?昨日のお貴族様に配達したの」
「はいですに〜」
「例の品物は、渡してくれました?」
「もちのろん」
「お貴族様、反応どうでした?あのお菓子であってました?」
製作者としてはドキドキのタイミングです。
まぁ、しかし奇跡というものは起きないもので……
トカードはフルフルと首を横に振りました。
「え、違った?」
「みたいです。」
まずい、昨日のお貴族様はそんなDV気質な方ではございませんでしたけど、お貴族様が怒ったら何をするかわかりません。
最悪首を刎ねられても文句は言えません。
「なんかいってたの?」
慎重になってトカードに質問します。
「何も言ってないですが、お貴族様に商品渡して中身を確認したら、すぐにしゅんって落ち込んでしまった。」
確信。
間違いなく別の品物だったらしい。
……返金したほうがいいかな、と思ったのですが
「でも美味しそうにむしゃむしゃ食べてました。チーズのもチョコのも美味しかったのでぜひ商品化するべきと伝言預かりました!」
思いの外お気に召していただけたようです。
なら、私の命は保たれますね。
しかし、オーナーとして、違う商品をお渡ししてしまったのは致命的です。
ポンディケージョのなかにチョコとチーズを入れたものではないとなると……
「一体なんでしょう、他に該当のお菓子なんて……」
「オーナーでもわかりませんか?」
「絶望的?」
「オーナーも食べたことないお菓子?」
「でも……私は王宮で一年お菓子を作ってたんですよ?伝統的なもの、流行りのもの、国外のお菓子、なんでも一通り作りました。」
その私が知らないお菓子なんか……ありますでしょうか……?
そんな私の独り言を聞いて、トカードは何かを思い出したようで手をポンと叩いてこう言いました。
「王宮といえば、頼んだお菓子を作るのに必要な材料があれば言ってくれとのことです。なんでも手配すると」
「ん?」
私はその言葉に引っかかりました。
後半ではありません。
お貴族様なら、お菓子の材料くらいなんでも取り寄せられるでしょう。
男爵の人間だってできます。
問題は一番最初。
トカードが思い出したきっかけのワードが『王宮』と言うことです。
「トカード、あなた……どこまで行ってきたんですか?」
私は恐る恐る、トカードの方に首を向けます。
「オーキュー!」
それを聞いた瞬間、私は倒れそうになりました。
あの人……皇子殿下か……!!!
ただの貴族ではなかった、何しにきたこんなところまで。
言いたいことはありますが、それを書き記すにはかなりの分量を使います。
文字数の無駄なので、このくらいにしておきましょう。
まぁ……相手の素性が割れたおかげで、今前あえて外していた選択肢が増えました。
なるほど……それなら一度だけ王宮で作ったことがある。
そして、使い方をもてあましているはずなので、まだ残っているはずだ。
「皇子様が、なんでも材料頼めって言ったのですね?」
「はいです」
「じゃあ……こめ」
「はい?」
「餅米もらってきて。」
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