第17話 妖精さんと公開朝礼

翌朝。



「今日も今日とて行列ですね。」



お店の開店準備でお店の前の掃き掃除をしているのですが……、ずらりと行列ができていました。

この行列は今日も今日とて妖精さんの押し売り営業の成果です。


とは言っても、昨日ほどの人数はいません。



「今日も整理券お配りしてきます。」



「整理券は昨日と同じ15時までですので」



「よろしゅうお願いします。」



私は5人の妖精にお辞儀をすると、彼らは昨日と同じように押し売り営業とともに、整理券を配り始めました。


やはりこのくらいの人数の方が私としてもとても楽です。



「オーナー」



と思っていたのですが……


振り返ると、そこには小さな三輪車に乗った妖精が何人か一列をなして……



「ちょっと待って!」



「なんでしょう」



「あなたたち、何人いるの!?」



「いっぱい」



こっちも行列ずらり。

妖精三輪車の一列を目で追いましたが……終わりが見えません。


どうりで整理券配って押し売りする妖精が少ないと思った。



「今日からフェアリーイーツ始まるです」



「あぁ、昨日言っていた……三輪車で配達するんですか?」



「はいです」



「お貴族様の注文しかないので、それを届けたら宣伝してくるです」



「そんで事前予約取ってきます。」



「お貴族様の注文の品はできてますか?」



やる気満々。

まぁ、フェアリーイーツについては昨日聞いてたので、もう止められそうにないですね。


しかし、こんな大人数を三輪車で国内走られては困ります。

こういう時は、何かしらのというのが必要になります。



「集合」



私は終わりの見えない妖精三輪車の列にそう呼びかけました。

しかし一度では誰もピンと来ていないようなので、もう一度声をかけます。



「今ここにいる妖精全員集まって」



ようやく私のその声に、妖精たちは嫌がることなく私の声に従いました。

そして列をなしていた一列の行列は、一瞬で形を変え、私の足元に三輪車に乗ったまま円陣をかくように集まりました。二重にも三重にも、いや、それ以上に円陣が重なっています。



「どうしましたオーナー」



「今日から賄いとは別に金平糖を配りますが……こんな人数分ありませんし、人数把握ができません。お金よりは金平糖生み出す方が簡単ですけど、限度があります。」



「でもみんな、出前やりたいです」



それはそうでしょうね。

だから列の最後尾が見えないくらいに並んでたんでしょうから。



「だからと言って希望者全員雇う余裕はないのです。マネーより準備はしやすいですが、金平糖も無限ではありません。ということで、おふれを出します」



私は店の中に入り紙とペンを取ると、サラサラと以下の内容の文章を書き、外で待つ妖精たちに見せました。





『本日より、以下の業務をこなす妖精は従業員とみなす。


整理券を配る妖精、一日5人限定早い者勝ち


フェアリーイーツ、お菓子の配達及び宣伝活動を担当、一日10人まで早い者勝ち。


一日上記の15人の妖精は業務終了時に金平糖を配布しますので、参加希望者は毎朝9時までに参加者リストに名前を書くこと(イニシャル可)


上記に該当しない妖精は従来通りのお手伝いが可能。賄いも出ますが金平糖なしです。』





そしてその後に参加希望者リスト(というなのただの白い紙)を妖精に渡しました。


とはいえ、今日はもう出動準備万端で早いもの順ともいかなさそうなので、じゃんけんで10人決めてもらいました。


案外簡単に決まった本日の参加者達は拇印ならぬ掌印を押してもらいその隣に名前を書いてもらいました。

『KY、GI、HT、PTA、CB、NW、DD、MTD、TKG、ND』

この10人のイニシャルがかかれました。



「それではみなさん、この決定に意義はないですね」



「「「「「「はーい」」」」」」」



このこたち、本当に物分かりが良くて助かります。



「それではフェアリーイーツ出発ですー」



「金持ちのユーザーゲットです〜」



「「「「「「レッツ・ゴー!」」」」」」



そして、名前をあげた10名のうち9名の配達員はキコキコと三輪車のペダルを漕ぎ、前進していきました。


出動の際、彼らは



『ふぇ、ふぇ、フェアリーイーツ、フェアリがツイツイツイ〜』



という合唱をしながら自転車をこいでで行きました。


どっかで聞いたことがあるような、ないような。

微妙にアウトなメロディーな気がしますが、スルーしましょう。


触るのは危ない気がします。


だんだん遠くなっていく妖精三輪車ことフェアリーイーツをしばらく眺めていたのですが、一人がまだ残っていることを思い出しました。



「あれ……あなた確か……」



私は今日の参加者リストの名簿に視線を落とします。



「TKGです」



「そうよね、たま……」



いけない、思わず直感で訳した『卵かけご飯』が頭をよぎってしまった。

違う違う、この子は確か前に名前をあげた子のはず。



「『トカージ』って名前あげた子よね?」



「覚えていただけたようで、光栄です〜」



やはり名前は大事です。

忘れかけていたとはいえ、名前をあげた子の顔は見覚えがあるくらいの認識はできますし、思い入れも変わります。


本当はみんなに名前をあげれたらいいのですが、3桁以上いる妖精全てに名前をあげるのは辛いし覚えられませんから仕方ないですね。


そんなことよりお仕事の話です。



「トカージ、あなたフェリーイーツ参加名簿に名前書いてますよね。みんなと一緒に行かないんですか?もうあんなに遠いですよ?」



いつの間にか、胡麻粒ほどにも見えなくなっています。



「僕一個別のお仕事しますので」



「別のお仕事?」



「お貴族様のところにお菓子配達しないと。だからお菓子くれないといけないです、だからお菓子もらわないと……」



あぁ、しまった忘れてた。

そうだ、このこたちが運んでくれるのですよね。



「すぐ持ってきますね。」



私は店の中に戻り、慌てて厨房に置いたままの商品を手に取り、急いで元の場所に戻ると、トカージにそれを渡しました。



「これであってるかわかりませんけど。」



「とりあえず渡してみるです」



「持てる?結構量あるよ?運べる?」



私は商品が入った袋を渡しますが、普通に妖精の大きさを遥かに超えています。

この企画、無理があるのではと思ったのですが……



「お任せあれ、これになんでも入るます」



そう言って、商品を受け取ると、小さなリュックの中にそれをスポンッと入れてしまいました。



「あ、ほんとだ入った、いとも簡単に。このリュックどうしたの?」



「なんでも入る鞄魔法で作りました」



なるほど、彼らは妖精。

妖精というからには魔法が使えます。


そしてたまに魔法で作ったアイテムは時たま見せてくれます。


このリュックもそのうちの一つということなのでしょう。



「どういう仕掛けなのですか?」



「四次元空間なので、スペース無限空間、名付けて『四次元リュック』」



青いたぬきロボットが見えるのはなぜでしょうね。

これも触るのはやめておきましょう。


準備ができたトカージは、今度こそ「行ってきマンモス」と言って自転車をキコキコと漕いでいくのを見守りました。



しばらくそれを眺めていると、今度は整理券を配っていた妖精たちがやってきました。



「オーナー、整理券終わったー」



「お店開けなくて大丈夫?」



「お客さん、今のやりとり全部見て待ってたけど?」



その声にハッとして行列を振り返りました。

確かに私の方に視線が集まっています。


しまった、本来スタッフルームでやる朝礼のようなものを、お店のお客様のみならず、町の皆様の目に晒してしまいました。


恥ずかしい。


顔から火が出そうです。



「お、お待たせいたしました!もう店開けますので!」



今の私にできるのは取り繕って、店の営業を始めることだけでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る