第16話 妖精さんとフェアリーイーツ


「なんですか?そのフェアリーイーツとは。」



聞いたこともない謎のサービスについて私は妖精に質問をすると、妖精たちは答えました。



「お菓子の出前です。」



「出前?」



「配達ともいいます。」



「オーナーが閉店後に余力で作れるお菓子と」



「閉店までの間に売れ残ったお菓子」



「これを出前するです。」



私に負担のあるサービスですね。



「でも、出前分のお菓子を朝作る余裕は」



「そこはダイジョーブ!」



「フェアリーイーツは閉店後に稼働します」



「出前お届け注文は前日までの完全予約制!」



「追加で作るお菓子はあらかじめ数量決まってるです」



「前日までに注文していただければ、材料もオーナーの体力も持つかと」



なるほど、開店時間内に売れ残っても、取りこぼししないというわけですか。

次から次へと、よく色々思いつくものですね。



「話すどころか、見るのすら初めてですが……妖精というのもなかなか優秀ですね」



「お褒めに預かり光栄です」



お付きの人に褒められて、妖精たちは喜びます。

そしてそれを受託と受け取りました。



「なのでお貴族様、こちらのサービスご利用いただければ、明日お届けにあがります」



「だから住所書いて」



「じゅ……住所か……」



ありがたいサービスではあったのでしょうが、お貴族様は書きしぶります。

もしかしたら、お忍びできているのかもしれません。


もしくは、庶民に住所を知られるのに抵抗があるのかも……いや、でもお支払いはどこどこ邸へ……ってよくありますけどね。


やっぱりお忍びか……こういう時に無理強いはいけません。



「気持ちはありがたいが……」



案の定断ろうとしていますが……そんなもの彼らに通じません。



「送りますです」



「いや、だから」



「書いて」



「送る」



「書いて」



我が店の名物、妖精の押し売り。

野心あるつぶらな瞳で、自分たちの意思を通します。


彼らに悪気はありません。


妖精は自由な生き物、いいものを誰かに勧めたいと思う気持ちを、素直に強引に表しているだけなのです。


人間だったら引かれてしまいますが、あの可愛らしい二頭身のぽてっとしたボディーと、愛らし顔で詰め寄られて仕舞えば、誰だって押し負けします。



「……はい。」



ほら、あんなに嫌がっていたお貴族様が折れましたよ。

妖精さんのあの愛らしさには敵いませんでしたか。


昔の人は言いました。

『可愛いは正義』と。


こうして、お貴族様に変わって、お付きの方が妖精からペンを預かり、住所を書きました。


その際、こんなことを言われました。



「本当に優秀な妖精ですね、押し売りできるなんて。妖精は怖がりなんじゃなかったでしたっけ?」



「あ……あはは……」



紙から視線を外さずに、わざわざこんなことを言うということは、この言葉の真意を訳すと、おおかたこんな感じでしょうか。


訳:怖がりな妖精を、特殊訓練で押し売りできるよう教育するとは何事だ


もしくは


訳:どんな教育をすれば、妖精にこんなに押し売りするようになるんだ、教育はしっかりしろ!


といったところでしょうか。

平たくいうと、私の従業員教育にクレームを入れられているわけです。


押し売りスキルについては、彼らが勝手に身につけたので私は無関係なのですが、オーナーである以上、私が責任負わなきゃダメですかね。


そんなことを考えている間に、お付きの人が住所を書き終え、それを見た妖精たちはそれを回収します。



「それではこちら、受理いたします」



「明日お届けに参ります。」



「楽しみにしている」

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