404 not found

灯刳さん。

E01

 附属女子高等学校に通う一人の生徒が、父・母・姉と共に住む豪邸に放火し、三人は逃げ遅れて遺体となって発見された事でニュースになっている。彼女は、警察の取り調べに対し『間違いありません。』と、現住建造物等放火の罪を認めている。いずれも、彼女に対して死刑か無期懲役の判決が下される予定であり、施設での更生は今のところ認められていない。大抵の未成年者は少年院に入れられるのだが、世間が彼女に対して重い刑罰を望んでおり、また、彼女自身もそれに同意をしている。

 未成年者に責任は無く、こういうのは大抵、生きていれば家族が、そして学校側が、記者会見の場で深々とお詫びをする。それをテレビ局などが連写したり、その部分だけをループしてテレビに流す。事実を伝える側が、取り上げる番組側が、キャストによって、事実は時に偏向報道と変わっていく。そうして、一般市民に誤解を生むような発言をし、ニュースや記事を見た人との理解の差が出来て、何故か犯人に対する誹謗中傷では無く、家族に対してや、学校側に対する苦情などが出てきて、また、偏向報道した側にも飛び火ができ、こうしてネットでは大炎上するのである。

 大抵、インタビューを受けた近所の住民や学校の友人達は同じ言葉を口にするのである。『とても優しくて、真面目で、いい子でした。』と。家族に対する印象も同じような答えで、結局、人間というのは表面上でしか知らないのだ。





「えー、井上美歌いのうえみかさん。現在、高校二年生です。彼女は、昨日の深夜に、火が燃えやすいリビングに放火をし、燃え広がる前に家を飛び出て、父親と母親、そして姉の三人を残して逃走。三人は就寝しており、寝ているところを狙って、最初から家族を殺すつもりで放火している可能性があり、現在、家族関係や学校での様子を詳しく調査中です。」


 俺は、曽根原健一そねはらけんいち。捜査一課に所属している独身の中年男性だ。趣味は酒を呑むこと。誰かと飲みに行くというのは好まず、大抵は家の中でビールを飲みながら、俺が自分で雑に作ったつまみを食べる。それが今の生き甲斐だ。俺が警察になった理由わけを、部下も上司も聞きたがって来るが、俺の過去の話を聞いても何も得しない。偉人のように何か良い名言を残した訳でも無く、良い成績をあげたとかでも無い。ただ、未だに後遺症が残るこの右腕が全てを物語っている。

 今回、高校二年生という若い娘が逮捕された。

 取り調べは、俺と部下の二人で行った。

 すれ違った上司から、『相手はあのお嬢様だぞ。失礼の無いようにな!がはは!』と、俺の肩を強めに二回叩いて去っていった。お嬢様だろうが何だろうが、相手はただの人間であって、俺のような警察は誰に対しても平等に接して、彼女がより刑務所で自分の行いを深く反省出来るよう助言をするのが仕事だ。

 人間っていうのは、俺も含めて残酷な生き物だと、この仕事を長年していてそう感じている。どんな理由であれ、彼女がした事は法律上、世間上では絶対認められない行為であり、実の家族をあの炎で殺したのだと思えば、世の中世知辛くなったものだ。

「お前の担当をする事になった曽根原健一だ。この場では、私に対して事実を述べるよう約束して欲しい。当然、この取り調べは録画と録音、そして、あそこにある防犯カメラにも記録されている。・・・・・・カツ丼は出ない。」

「初めまして刑事さん。私、脂ものは好まないの。」

「そうか、それなら良かった。」

「ところで、刑事さん。今更ではあるものの、私がしてしまった罪は放火と殺人でして?」

「嗚呼そうだが。否、罪を認めているのだろう?自分がした事を今更"記憶が無い"と言うのか?」

「果たして、私は本当に家族を皆殺しにする計画を企てていたのでしょうか。」

「・・・・・・何を言っているのかわからない。」

「確かに、放火をした事には罪を認めます。ですが刑事さん。私がいつ、"家族が憎くて仕方が無かった。"と、刑事さんに伝えましたか?」

「だがしかし、君がやった事はどちらにせよ殺人でもある。これは立派な犯罪なのだ。それは、エリートな君でも十分理解しているはずだろう。」

「ええ。私の家は何せ、先祖から全員医療関係に携わっています。他の職業を自分の意思で決めてはいけない。せめて、看護師になりなさいと幼少期から聞かされていましたから。」

「だったら何故、大切な家族を殺した。」

「では、刑事さんに問います。復讐はどうしてしてはいけないのでしょう。」

「質問に答えろ、井上美歌!」

「私の質問にも応じてくださいませんか、曽根原刑事。人間、誰しも恨む相手はいるでしょう。殺意だって湧くでしょう。当然の感情に法律を作って、犯罪をしてはいけないという風潮、とても矛盾しているとは思いませんか?」

「っ・・・・・・。」

「何故、警察という組織が作られたかご存知ですか?治安を維持し、国民生活を安定させる為に作られたのです。そう、比較的治安の良いこの国でも犯罪は繰り返し行われている。どうして犯罪をしてしまうのか、それは考えてみれば簡単な話です。警察が正義なように、彼ら、私も含めて【善人】だと思ってやっているから。なので刑事さん。残念ながら、犯罪そのものは一生無くせないのです。いくら、警察の皆さんや国民から非難されようとも、私達犯罪者というのは、あなた方から見れば【悪人】なのでしょうが、私達からすれば【善人】あるいは【正義】として行っているのです。ですから、私が放火をしてしまったのも納得がいくでしょう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

404 not found 灯刳さん。 @lume_re2024

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ