第25話 俺の敵


 俺はカイラの死亡が理解出来なかった。

 俺はあの後警察に連れて行かれたが、カイラの死体は無いという。お前達が持って行ったじゃないかと言うとそんな事はしていないと言っている。


 そしてカイラの死体が行方不明になった。でも警察は探す事もしない。俺がいくら頼んでも断られる。どういう事なんだ?


 カイラがトイレで無くなっていた時のあの匂い。明らかにたんぱく質が焦げる匂いだ。生き物を焼いた時の生臭い匂いだった。


 だとすれば、カイラの首から上を一瞬であそこまで黒焦げにする方法。一体どうやれば。



 一週間休暇を貰った後、ニューヨーク本部の自分のオフィスに戻ったが、やる気が全く出なかった。


 三年前に俺を捨てた女、一郎が作ったトラムV2で俺の職が奪われた。あれは恨んでもいなかった。一郎のお陰で今の俺がある。だから恨みどころか恩を感じていた。


 でも今回もこじつけとは思いたくないが、トイレにあいつの彼女と一緒に行ったカイラが謎の死亡をして死体も消えた。


 別にあいつが悪い訳じゃないのに、俺が好きになった女が消える時は必ず一郎が絡む。

 関係無い筈なのにどこかにこの気持ちをぶつけたいという思いがこんな変な考えを生んでいるんだろう。


 今日も午後六時にはオフィスを出た。セクレタリが気を落とさない様にと声を掛けてくれるが、そんなに簡単に立ち直れるものじゃない。


 俺がニューヨーク本部から出てRDCで自分のアパートメントの前に着いた時、


「ミスターゴードン」

 何だこいつ?


「誰だ、あんた?」

「私はこういう者だ」

 俺に渡してくれたカードには、国際最新技術構築協会INTDAインダ理事長トーマス・ソレイユと書いてあった。そしてフォーンナンバーも。


「こんなお偉いさんが俺に何の用だ?」

「この度のカイラ・マルフィックさんの事はお悔やみ申し上げる」

「何でそんなこと知っている?」

「彼女は、我々の機構の人間でね。君と仲良くなれたと喜んでいたよ。だがこの前、死亡したと聞いて、いや殺されたと聞いて驚いたよ」

「カイラがお前の所の人間?殺された?どういう事だ」


「ここでこのまま立ち話をする事でもない。私の車の中で話さないか?」

 後ろに大型のワンボックスカーが停まっていた。


 俺は注意しながら車の中に入ると

「ゴードン君、これの写真を見たまえ」


 何気なく渡された写真を見て、俺は息を呑んだ。桐生環奈が写っている。

「これがどうした」

「カイラを殺したのはこの子だよ」

「何言っているんだ。こんな小さくて可愛い子がどうやったらあんな事出来る?」

「ふふっ、そこまではまだ知らなくていい。でもこれだけは言える。君の素敵な彼女が君の前からいなくなる時、必ず金瀬一郎が関わっているという事だ」

「何を言いたい?」

「言った通りだよ。もしもっと聞きたければそのフォーンナンバーに連絡してくれ」

 

 それだけ言うとドアが外側から開けられた。俺が降りようとすると

「ミスターゴードン。今日君と会った事はミスター金瀬には言わない様に。君の命も危なくなる。では連絡を待っているよ」


 二台の大型ワンボックスカーが立ち去った。


 俺は、自分の部屋に戻ると直ぐにシャワーを浴びて冷蔵庫からビール缶を取った。


 分からないことだらけだ。カイラを殺したのは一郎の彼女だと。しかしあの時彼女は妊娠していて飲食すら出来なかった。


 そんな人がどうやって一瞬にカイラの頭を焼け焦げに出来る。それにカイラの右腕の不規則な曲がり方。


 とんでもない力で折られたと言った方が良い。彼女がそんな事出来る訳ない。でもソレイユは彼女がやったと言った。

 誰かがやった事をあんな可愛い子に押し付ける必要があるのか。それになんで写真を持っていた。分らないことだらけだ。


 ソレイユは一郎にこの事は話すなと言っている。それも分からない。俺の頭の中では理解出来ない事ばかりだ。



§国際最新技術構築協会INTDAインダ

 トーマス・ソレイユが楕円形の大きなテーブルに座り、その周りに各セクションの主任が集まっている。


「理事長、我が組織と敵対する組織のAIが攻撃を受け消滅しました」

「攻撃したのは一号機か?」

「はい」

 今の所は大丈夫か。


「トラパシーの開発はどうなっている。あれからもう三ヶ月経つぞ」

「はっ!試作機は出来上がっています。今は外側に偽装を取り付けて完了です」

「いつからリリースできる」

「二週間後には」

「よし、完成次第リリースしろ」

「はっ!」

 これで一号機の動きはもっと分かる様になる。


「開発主任、二号機の進捗は?」

「はい、完了間近です」

「二号機を一号機が攻撃出来るように変更するにはどの位掛かる?」

「えっ?一号機を攻撃で出来る様に、ですか?」

「そうだ」

「工程を二ヶ月ほど戻さないといけません」

「もっと早くならないのか?」

「脳内チップの交換が必要となりますので」

「分かった、早くしろ」


 一号機が我が組織のAIを攻撃する前に感知して二号機に攻撃させる。それにはトラパシーと二号機の連携が必要だ。まだその気配はないが。


――――― 


次回もお楽しみに。

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