第24話 環奈とカイラ
ライラックが俺に連絡を取って来た。
『一郎、ライラックだ』
『珍しいな。最近連絡も無いし早く帰っているそうじゃないか』
『ああ、ちょっとな。それで今度会わないか。会わせたい人が居るんだ。一郎もいい人が居るんだろう。一緒に飲もうぜ』
そういう事か、ライラックは環奈に会っていない。前は会わせるのは不味いと思ったが、今の彼女は人間そのものだ。分からないか。
『いいぞ、いつ会う?』
『今度の日曜日何てどうだ?』
『構わない』
『じゃあ、いつものバーに十七時で』
『分かった』
俺は家に戻ると環奈に
「環奈、今度の日曜日、俺の友人と外で食事をする事になった。一緒に行こう」
「嬉しい、でも私は食事出来ないですよ」
「先に食べて来たという事にしよう」
「でも何も食べない、飲まないでは」
「そうだな。体調が悪い事にするか」
「はい。嬉しいです。一郎さんの友達に紹介して貰えるなんて」
「初めてだからな」
俺達は日曜日。RDCでライラックと約束のバーに来た。自宅のアパートメントから十五分位だ。渋滞とか有る訳では無いので結構遠い。
店に入るとライラックと綺麗な女性が座って待っていた。近付いて行くと
「一郎、久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだ。ライラック、今俺がお付き合いしている桐生環奈さんだ」
「初めまして、ライラック・ゴードンです」
「初めまして、桐生環奈です」
環奈には結婚前の彼女の旧姓で挨拶するように話した。
「ライラック、紹介してくれ」
「隣に座って居るのは、今俺がお付き合いしているカイラ・マルフィックさんだ」
「カイラ・マルフィックと言います。宜しくお願いします」
これが一号機、人間と寸分も違わない。話し方や素振りなど、ソレイユから聞いていなかったら判別付かない。
「一郎、早速食べようぜ」
「いいとも。でも環奈は先に食べて来たんだ。それに体調があまり良く無くてな」
「えっ、まさか?」
「まあ、想像に任すよ」
「羨ましい限りだな。じゃあ、俺達だけで食べるか」
「ごめんなさいゴードンさん」
「いえいえ。おめでたい事です。全然構いません」
どうやらライラックは環奈が妊娠していると思ったらしい。まあ本当なら嬉しい限りだが。
§カイラ
上手く逃げたわね。一号機が妊娠する訳ないじゃない。
環奈は何も飲まず何も食べなかったが、ポーズでおトイレに行くと言った。
「一郎さん、ちょっと」
「ああ、分かった」
「あら、私も」
一号機の後を付いて行く。後ろから見ても人間そのものだ。流石我が組織の秀逸品だ。でもここ迄ね。その姿もバレる。
二人でトイレのドアを開けて中に入ると
「一号機、もう終わりよ」
「えっ?!」
私はバッグから単一指向性強電磁波発生装置を取出して彼女の顔に向けた。
グン! ボキ!
ぎゃあーっ。
こんな事だろうと思ったわ。私に単一指向性強電磁波発生装置を向けて来るなんて身の程知らずね。私の前には首から上が丸焦げになった女性が横になっていた。
私の力は人間の二十倍以上の力とスピードがある。構える前にその腕を取り、彼女の腕を折って顔に向けさせてスイッチを押した。
マイクロ波だけでも十分焼け焦げになるのにその千倍も強力な強電磁波だ。人間など一瞬で焼けこげる。私もこれを食らえば同じ。
ドンドン。
「お客様、悲鳴が聞こえたのですが」
私はドアを開けると女性の店員が物凄く驚いた顔になって鼻と口を手で覆った。
「あっ、良い所に。コンパートメントから出たらこんな事になっていて」
「えっ?!」
店員が直ぐにトイレから離れて誰かを呼びに行った様だ。私は直ぐに単一指向性強電磁波発生装置を拾うと自分のバッグに戻した。そして一郎さんの所に戻ると
「ゴードンさん、マルフィックさんが大変な事に」
「何だって!」
一郎さんとゴードンさんが、女性トイレに駆けつけるともう人だかりだった。ゴードンさんが人をかき分けて中に入ると
「えっ!カイラ、カイラ。どうしてこんな事に?」
首から上が黒焦げになったカイラを抱き上げた。匂いが凄まじいがそんな事は如何でも良い。
俺は右腕が不規則に折られているのが不思議だったが、今はそんな事より
「桐生さん、彼女はどうしてこんな事に」
「はい、一緒にトイレに入って、私はそこのコンパートメントに入ったのですが、その後、凄い音がして彼女が悲鳴を上げたので直ぐに出たんですけど、その時はもうこんな状態で。もう驚いて直ぐに呼び行ったのです。女性の店員も見ています」
その後は警察と医療関係者が来て、彼女を連れて行った。何故か私には何も聞かなかった。
§国際最新技術構築協会
「理事長、マルフィックが失敗しました」
「何だと。どうしたんだ?」
「一号機の破壊を試みましたが、逆にやられたようです」
「マルフィックの馬鹿が。無理しなくても後で何とかなったものを。それで死体は?」
「はい、こちらで現場に本物が駆けつける前に我々が回収しました」
「ご苦労だった」
「はっ!」
一号機を甘く見たんだろう。あれは我が組織の傑作品だ。人間一人倒せる訳がない。次の手を考えるか。
俺と環奈は、長いは不味いと思い、そのバーを急いで出た。ライラックは放心状態で後からまた来た警察に連れて行かれた。先に来た警察と医療関係者はなんだ。
俺と環奈はアパートメントに帰ると
「環奈、何が有ったんだ?」
「これを見て下さい。彼女はこれを私の顔に浴びせようとしました」
「何だこれは?」
「単一指向性強電磁波発生装置です。非常にコンパクトですが、人間一人位なら一瞬で丸焦げになります。勿論私がこれを浴びても同じです。頭の中のチップが全て停止します」
「何だって?!」
「彼女がこれを私に浴びせようとしたので、反対に浴びせました。後はこんなもの置いて有ったら面倒なので私がバッグに仕舞ったんです」
「そういう事か」
しかし、ライラックに近付いたマルフィックという女。環奈を攻撃して来るとは。まさか
とにかく気を付けないと。もしかしてこのアパートメントも危ないかも知れない。だが連中は何処に行っても分かるだろう。意味はないか。
―――――
次回もお楽しみに。
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