第23話 カイラ・マルフィック


「今日は良いのかな。ゴードンさん?」

「席は空いているからな」


 この女は俺が結婚する予定だった女に似ている。俺に辛い思いをさせた女だ。どうしてもその過去も一緒に思い出してしまう。


それに四十才をとうに過ぎた俺に近付いて来るんだ、俺が好みだとか白々しい事を言っているが他に目的があるはずだ。当分用心した方が良い。


「つれない言い方ね。マスターからゴードンさんは優しいって聞いていたのに。今日だって、一人でカウンタに座って居ても寂しいし、変な男に声を掛けられるのも嫌だからマスターに話し相手になって頼んだのよ。

そうしたらマスターからゴードンさんが私と話したいって言うから座ったのに。あなたにとって私ってそんなに嫌な女に見えるの?」


 よく喋る女だ。そう言えばあいつも勝手に良く喋っていたな。

「そんな事はない。とても綺麗だよ」

「だったらここに座って居てもいい?」

「ああ」

「少しはお話の相手になってくれない?」

「ああ」


「ふふっ、良かった。今日は楽しい時間を過ごしましょう。乾杯しない?」

「いいぞ」


 何となく女に釣られてグラスをあげるとカチンと合わせた。彼女はぐっと飲み込むと

「ふーっ、美味しい」


 俺も少し口につけると

「酒は強いのか?」

「強く見える?」

「分からないから聞いている」

「ねえ、もっと優しく言って。まるで怒られている様で」


「悪かった。ぐっと飲んだから酒が強いのかなと思って聞いたんだ」

「そっかぁ、うん、実言うと全然…って程じゃない。普通かな?」

「普通って?」

「ゴードンさんって何でも質問形式なのね」

「そんな事は無いが」

 調子が狂うな。女と話すなんて仕事上の事務的な事だけだ。随分女と飲むなんてした事無いからすっかり忘れている。


「ねえ、ゴードンさんってどんな仕事しているの。いつも遅く来てご飯食べてサッと帰ってしまうから」

「普通のビジネスマンだよ。商社に勤めている」

 嘘ではないな。


「へーっ、そうなんだ。じゃあ、ブラックだね」

 面白い事言う奴だな。


「だって、午後九時過ぎまで仕事させられているんでしょう?」

「商社なんて二十四時間動いているから仕方ないよ。俺なんか早い方さ」


 この時は食事を碌に取らずに飲んでしまった。




 気が付いて天井を見ると見た事がない。一体ここは何処なんだ。手を動かすと、えっ!なんで。


 俺の横には昨日の夜一緒に飲んでいた女が一糸まとわぬ姿で横になっている。俺も素っ裸だ。やってしまったのか?俺この子の事全然知らないぞ。どうしようかと思っていると目が覚めたようだ。


「うーん。あっ、起きたの?」

「俺どうして?」

「覚えて無いの。昨日一緒に飲んでゴードンさん寝てしまったのよ。でもお店に置いて行く訳には行かないから私の部屋に連れて来た。ゴードンさんの家知らないし。

 重かったんだから。なんとかベッドに横にしたら、急に眼を開けて、後はこの通り。好きな人だから良いと思ったけど、凄かった。私初めてだったんだから。見てよこれ」

「えっ、初めて?!」


 確かにベッドやタオルケットに血が付いている。これは不味い。

「責任取ってよね。こんな事する人だとは思わなかった」

「ごめん」


 確かに言い訳出来ない。それも初めてだったなんて。だってこの子もう三十超えているんだろ。


「なんか、失礼な事考えていなかった?」

「ソンナコトナイ」

「なんで棒読みなの?」


「どう責任取ればいい?」

「そんな事あなたが考えてよ」

「分かった」

 やっちまったぜ。三年以上女を抱いていなかった付けか。



 俺は結婚を迫られるのかと思ったら、まだ碌に性格も知らない男と直ぐに結婚なんか出来ないわよ。取敢えず付き合いましょうって言って来た。助かったのだが、


「ねえ、もっと」

「お、おお」


 どうもあっちが好きみたいで、毎日疲れている。最近、職場であくびしてセクレタリに笑われた。


 でもとても心地いい。しばらく忘れていた事を思い出させられる。彼女はモデルの仕事とシナリオライターをしているらしく、毎朝午前八時には俺の部屋から出て行く。仕事先が何処かは分からないが知っていても仕方ないと思い聞いていない。



 それから三ヶ月が経った。カイラとはほとんど同棲といってもいい生活が続いている。彼女のアパートメントは引き払ってしまった。家賃が持ったない無いという理由だ。


モデルとシナリオライターでは食べるのも大変らしい。だけど彼女の身なりとかアクセサリを見るととても食べるのも大変だという言葉が全然合っていない。


 気になって聞いてみると親が資産家でお金を毎月送って来れるからと言っていた。確かに彼女の口座には毎月結構な金額が振り込まれていた。




 §カイラ・マルフィック

 そろそろいいか。ライラックも私の体の虜になっている。心も私に向けられている。しかし、上手く行ったな。酒を飲ませてさせてしまえば、分からないと思ったがこんなに上手く行くとは。


 あそこの整形なんて我が機構の技術を使えば何度でも処女になれる。しらふだったら気付かれる可能性もあっただろうが、あの酔い方では何も分からなかったんだろう。


 私も初めての振りしていたが最近慣れた見たいって言ってサービスしてやると思い切り喜んで行ってしまう。


 頭は良いが、あっちは素人だ。まあいい。ミッションをコンプリートさせるのが私の仕事だ。そろそろ連絡を入れるか。



§国際最新技術構築協会INTDAインダ

「理事長、カイラから連絡です」

「繋いでくれ」

『ソレイユ、上手く行っているわ。ライラックはもうすぐ私の言いなりになる』

『そうか、ではセカンドステージに進んでくれ』

『分かりました』


 ここ三ヶ月一号機はAIの攻撃をしていない。半年で百台ものAIが消えて、各企業が自分の所のAIの動きに注意しているからだろう。

今の所、我が組織に危害は加えられていない。邪魔な組織が三つ消えただけだ。これでいい。今の内に対策をとれば。


――――― 


次回もお楽しみに。

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