第21話 一号機が変わった理由


§国際最新技術構築協会INTDAインダ

「理事長、連絡が入っています」

「繋いでくれ」


 俺は、最近起こった一号機の行動を分からないまま時間が過ぎて行く事が嫌で仕方なかった。


 一号機は、この世に在るAIの中で飛びぬけて優秀だ。エネルギーも十分だろう。


 あれに太刀打ち出来る二号機を作るには、何故我々が意図しない動きになったのか解明できなければ対策の立てようがない。だが原因はあれから数ヶ月が経つのに未だに分からなかった。


「ソレイユだ」

「理事長、一号機が意図しない動きになった原因が分かりました。B-12号棟に来て頂けますでしょうか」

「分かった」


 この組織の施設は、表向きと中身は違う。地上にある施設は市販用AIモデルを作っている。しかし、その地下には一号機を作り上げた研究所、開発施設がある。


 自分のオフィスから直通エレベータで地下十階まで降りると各施設を繋ぐ地下通路上のキャリアに乗ってB-12号棟の下まで行った。


 入口に技術主任が待っている。キャリアを降りると

「理事長、ご足労頂きありがとうございます。直接見て頂く事が肝要かと思いご連絡しました」

「案内してくれ」

「はっ!」



 地下七階まで上がると人造人間の開発ルームがある。そこに着くと見た目には気持ちの良くない人間の首と人造人間の首から下が、まだ保護膜が施されないままに置かれていた。その体からは数えきれないほどのケーブルが外部機器に繋がれている。


「理事長、今見ているのは、人間の脳幹と人工脳幹を接続した状態です。各脳部位のチップの動作が、こちらのパネルに表示されます」


 パネル数は百近くあるが、その内五十二か所のパネルがオン状態になっている。


「この人間の目に普通の可愛い猫の映像を見せます」

 人間の生きた目は幸せそうに穏やかにしている。


「単に脳が幸せを感じているだけじゃないか。軸索からの信号も変化がない」

「しかし、この映像を見せますと…」


 その映像は自分が首だけになった理由。真正面から大型トラックが突っ込んで来る。


 人間の生きた顔にある目が大きく見開かれると偏桃体のチップが作動し、脳幹に繋がれたニューロンの軸索が強烈な信号をそう予定以上の信号を送り出した。


 そして生きた人間の脳幹に取り付けてあるチップが予定以上の強い信号を受け、そのまま人工脳幹のチップに信号を送った時、


「何だと、どういうことだ?」

「はい、御覧の通り、人工脳幹に取り付けたチップの処理が改変されています。その信号が各脳部位の五十二か所のチップに反映され、攻撃対象を選択する人工抑制ニューロンの機能が迂回されてしまいました」

「これが我々の組織に害するAI以外も攻撃の対象になった原因だと言うのか?」

「はい、不味い事にこの流れは、我々のAIも動き次第では攻撃に対象になります」

「……………」


 なるほどな。こいつは盲点だったな。優秀過ぎるが故に我々に不都合な狂った処理を生み出してしまったのか。


「これを修正する事は出来ないのか?」

「二号機ではこの動きが出来ない様にする事が可能ですが、既に覚醒している一号機には改変が出来ません」

「何か方法が無いのか?」

「出来るとすれば一号機に誰かが近付いて、首から上を破壊つまり強力な電磁波を浴びせて処理チップの機能を停止させるという処置だけです。脳内のチップの改修は不可能です」


「一号機を破壊しろと言うのか?」

「我が組織に影響が出る前に対処するにはそれしか方法が有りません」

「二号機を利用できないのか?」

「二号機は一号機をターゲットとして認識できません」

「分かった。一号機の様にならない二号機の開発を急いでくれ」

「はっ」


「トラパシーの開発主任の所に行くぞ」

「はっ」



 俺は、同じ地下七階にある別棟の研究ルームに行った。

「トラパシーの進捗は?」

「はっ、概ね予定通りです」


 トラパシー、一号機の様な人造人間型AIの監視用に開発しているロボットだ。もっとも見たい目は人間だが、生の部分が無い全て人工物だ。


「いつ稼働できる?」

「後三ヶ月すれば地上に送り込めます」

「分かった。急いでくれ」

「はっ!」


 一号機の破壊はトラパシーが完成した後だ。破壊は…ふふふっ、あいつもそれが本望だろう。


 俺は、エレベータを使って自分のオフィスに戻ると

「理事長、我々にとって不都合なライバル会社のAIが一つ消えました」

「そうか」


 一号機が本来の仕事をしている様だ。このままで済めば破壊する必要も無いのだが。


――――― 


次回もお楽しみに。

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