第20話 ターゲットになるAI


「一郎さん、私はいけない事をしているのでしょうか?」

「環奈、今はその事を考えない方がいい。自分の意思でない以上」


 妻が俺の傍に来て手を俺の腰に回して

「一郎さん、私は再生されない方が良かったのですか?」

「何を言っているんだ。俺は君がこうして生きていなかったら俺も生きていなかったかも知れない。環奈は俺の大切な人だ」


 俺は妻をジッと見つめた。

「一郎さん」


 妻は俺の腰に回した腕を思い切り握りしめると顔を上に向けた。そして少しずつだが段々と涙が目から零れ落ちた。

「環奈、絶対、俺が守ってやる。何が有っても地球の全てが君の敵になっても俺が絶対守ってやる。だから君に課せられた事で悲しむ事は止めてくれ」

「一郎さん」


 環奈が俺に抱き着いて腰に回している腕を強く抱きしめて来た。

「痛てて」

「あっ、ごめんなさい」


 環奈の力は俺より数段強い。俺は環奈をお姫様抱っこ出来ないが彼女は俺を片手で引き上げられる。いやもっと強いかも知れない。



 やっと理解出来た。環奈の脳幹は半分人間、半分人工物だ。環奈の覚醒はあの映像を見た時、恐怖を司る偏桃体にあるチップが覚醒してそれが脳幹を通して脳の各部位に信号を送った時、脳幹内で計算外の事が起こったんだ。


 それが、環奈が嫌な感情と言っているターゲットAIを示しているんだ。これは奴らでも計算外だったはず。


 だがそれはINTDAインダのAIも当然ターゲットになる。奴らがそれに気が付いた時、どう出て来る。



 §ニューヨーク本部に在るグローバルマンディニューヨーク本部の会議室。

「情報部、今回の件、説明しろ」

 CEOが怒りを露わにしている。


「はっ!それが…」

「それがとは何だ、役立たずが。外事公安部」

「はっ!それが…」

「えーい。誰か今回の事を説明できる奴はいないのか?」


 シーン。

 全員が下を向いている。


 会議室で発言する人間はいない。俺はあくまでもオブザーバーとして同席しているだけだ。ライラックも同じ。


 ライラックは俺に視線を寄こすと俺も分からないという顔をした。ここでの発言は命取りになる。


「もういい。情報部、外事公安部は我が社の取引先全てを今回の件に関与していないか徹底的に調べろ。


 保安局は、社内に不穏な輩が居ないか徹底的に調べろ。疑わしきは片っ端から捕まえて取り調べしろ。工場管理の掃除人までもだ。


 警備部は過去の入館者の調査を行え、怪しい人間が居たら拘束しろ。

 各ユニット長は部門内に怪しい行動をしているもしくはした疑わしい人間がいないか注意しろ。


 外部からの入室者はこの件が明らかになる迄入館禁止だ。

 諸君、今回の件については何処の国、何処の組織、何処の企業が行っているか全く分からない。


 全てが関与を否定している。そして消滅させられた組織も理由は分からないとしている。全員が一致して今回の脅威に立ちむかうのだ。商用AIスペクトラムを絶対に守り通せ」


「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」


 グローバルマンディニューヨーク本部の中枢とも言われるメンバが顔を強張らせながら戻っていった。俺も会議室を出るとライラックが近付いて来た。


「一郎、今回の件どう思う」

「分からないと言うのが本音だ。そもそも名立たるAIが何故消滅したのか。どうしたら完璧に消し去る事が出来るのか。ITスペシャリストなんて連中には想像もつかない事だ」

「お前でも分からない事があるのか?」

「おい、過大評価しすぎるぞ。俺の専門分野ではない。それよりライラックはどう考えている?」

「同じ意見だ。分子生物学の分野では無いよ」

「ああ、俺も同じだ」


 妻の環奈が実行しているなんて命に替えても言えない。しかし、この半年で消えたAIは百を超える。一体何が理由なんだ。


 環奈は言っていた。地球に害するAIを消すと。今の所、INTDAインダの関係するAIに攻撃は加えられていない。


 我々のビジネスに関係する組織もだ。攻撃を受けたAIを所有する組織は全てテロ組織や戦争を行っている国や組織。今のままなら問題ないのだが。


§国際最新技術構築協会INTDAインダの会議室

「技術主任、まだ分からないのか?」

「はっ!ですが今消滅させられているAIは我が社のビジネスには関係なく…」

「馬鹿者!それを今直ぐこの後も保障出来るのか!何をしている役立たずが!」

「も、申し訳ございません」


 技術主任の顔から血の気が全く見られない。解決出来なければ彼には極低温永久睡眠モードカプセルが待っているからだ。この組織の中枢を知る者が外部に口を漏らす事は絶対に出来ない。


「とにかく一刻も早く一号機の覚醒理由とターゲットAIを攻撃した理由、そして今回の行動について何が原因か調べろ。

 我が機構が一号機から攻撃を受けた時の防御対策を至急取りまとめて実行に移せ。上長内部監査は必要ない」


 これ以上の動きは我々の組織にとってもマイナス要因だ。AIビジネスが下火になれば計り知れない損失を生む。


 もし我が組織のAIが攻撃を受ける様な事が有れば…。破壊するしかない。ミスター金瀬諸共な。取敢えずトラパシーの稼働を急がせるか。


――――― 

次回もお楽しみに。

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