第17話 俺の妻のミッション


「一郎さん、INTDAインダが私を目覚めさせ、私に体をくれた時、約束した事がいくつかあります。聞いて頂けますか?」

「勿論だ」


「一郎さん、私の体からは日常的にINTDAインダにデータが送られています」

「データ?」

「はい、私の動きや体に掛かった圧、つまり歩いている時、料理をしている時、掃除や洗濯をしている時、勿論一郎さんとのあの時の事も。もっと人に似せた皮膚感を作りたいという彼らの希望からです。私も同意しました」

「俺としている時の事もか」

「ごめんなさい」

 あいつら何考えている。いくら何でもそこまでする必要あるか?


「もう送り始めて一年以上になると言う事だな」

「はい、それとは別に…」

 環奈の言葉が止まった。なんだ?


「実は、私にはもう一つのミッションがあります。それは彼らの組織に不都合なAIを消滅させる事です」

「何だって!どうやってそれを?」

「はい、対象のAIが動いているサーバーに侵入して全ての情報、全ての蓄積データを消します。バックアップもです。私にはルーター等のゲートなど意味をなしません。帯域乗換えも可能ですから。


 私の頭の中には最近色々な情報が入って来ています。

 それは負荷になる訳では有りません。但し、INTDAインダにとって不利益はAIは関知して攻撃をします。それは私の意思によって取捨選択します。


 私はオフェンサーとしての役目を持たされました。これは私が蘇る為の条件です。私は常に動いています。


 対象AIが私を特定する前に相手は消滅します。彼らは何処から誰が攻撃してしたかを特定する事は出来ません」

「それは環奈の意思と言ったな。それを拒めば」

「私を破壊しようとするでしょう。でも私も攻撃します」

「それでそれはいつから始まるんだ?」

「私がオフェンサーとして覚醒した時」


 なんて事だ。ソレイユが俺と環奈に目を付けたのはINTDAインダにとって将来邪魔になるAIを彼らとは気付かれずに破壊する事が目的だったとは。


「環奈、覚醒の条件は?」

「それは私も分かりません。でももうすぐの様な気がします」


 どうしたものか。大切な妻をそんな事に関わらせたくない。でもこのままでは覚醒してしまうと言った。

 

 ターゲットとなるAI、彼らによって邪魔な敵対するAIとは何なんだ。それにターゲットとなるAIを作った組織も手を子招いて見ている訳では無いだろう。何らかの反撃をしてくるはず。


 もしかして、今環奈が彼らに送っているデータは、環奈が破壊された時の為、いや二号機開発の情報を得る為か。

 環奈は日常的なデータといった。もしかして…。


「環奈、こういう事を聞くのは恥ずかしい話だが、あの時、俺から環奈に出したあれの情報も送っているのか」

「…ごめんなさい。データ送信は私の意思ではありません」


 顔が赤くなってしまった。なんて事だ。だがもう一年以上送り続けたている。もうどうにもならないだろう。しかし俺の遺伝子情報を得てどうするつもりなんだ?


 環奈の事をもっと知りたい。しかし俺の能力ではどうすればこの子の中身が見れるのか手立てがない。下手に磁気共鳴させて内部の組織を構成しているチップや組織を壊す事は出来ない。

 

 

 俺は、それからというもの、自分の研究対象である脳が行う心と感情の研究とは別に環奈の覚醒という言葉についても考えた。


 環奈の脳のほとんどは人間の生きた部分だ。だがそれ以外は製作物。機械という古典的な言葉では言い表せない何かだ。でもそれを知ることは環奈を傷付ける事になる。それは絶対に出来ない。


 思い出したくも無いが環奈がトラックにひかれた時、俺は首と…。そう首の付け根の部分、脊髄と脳幹の一部が破損していた。


 体の中身は分からないが、人間と同じ作りにしてあるならば、脳からの信号は脳から伸びている運動系ニューロン軸索が脳幹から脊髄を通って各筋肉に行く。彼らが作り上げた部分は、脳幹と脊髄以下か。


 だとすれば人工的な脳幹の一部と脳との連携を行ったはず。何という技術力だ。



 環奈は覚醒すると言っていた。そのきっかけは何だ?そもそも覚醒…。まさか脳内の各部位に仕込んでいるのか。それが生きている各部位と連動した時、環奈は覚醒するという事か。人工物側のクオリアの覚醒…。


 それに血は出ないと言っていた。脳に血を送らないでどうやって生きているんだ。分からないことだらけだ。


――――― 

次回もお楽しみに。

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