第14話 妻との再会
極冷凍温度で保存していた最愛の女性環奈の首を
俺の仕事はトラムV3の構築だ。携帯デバイスに当たる二頭身ロボの開発も順調だ。体自体は大した技術は必要ない。手足の動きをコンシューマが満足できるレベルに仕上げればいい。飛び跳ねる事も走る事も出来る。
頭の部分も全て人工物。人間の脳を真似した疑似脳を作る。自立した意思は持たないが日常の受け答えは全て出来る。
その辺はトラムV2の技術を改良した事で実現可能だ。量子チップの小型化高速化も進んでいる。
顔はオーダーメイドで好きな人の顔に出来、人工音声を発生させる。完成の目途はついている。
だが、俺に取ってはもっと重要な研究が遅々として進まない。意識と心の発生を脳の動きから見つけることが出来ないのだ。
何処が動いているかは分かる。神経細胞との連携も分かる。だが何故それが意識となり心となるのか分からない。
人間の脳内に在る神経伝達物質も全て調べ上げた。脳の全ての部位の分子構造も調べ上げた。なのに…なんでこれらが心になるんだ。ただの元素じゃないか。何かを見落としているのだろう。全く分からなかった。
彼らは環奈の生きているニューロンと疑似ニューロンを結び付けると言っていた。確かに環奈の脳は生きている。
しかしそれに神経細胞を繋げ人工の体の各部位、内臓などは無いので主に人工筋肉だがそれに指示が出せるのか?俺には流石に分からなかった。彼らの言っている事が本当なら後一ヶ月でそれを知ることが出来る。
場所は変わり国際最新技術構築協会
見た目には大きな五十階建てのビルが三つあり、周りには一棟三百メートル近い建物がいくつも並んでいた。
その大きなビルの一室に理事長トーマス・ソレイユと何人かの研究主任達が楕円形のテーブルに座って居た。
「試作機からデータは常時送られて来ているか」
「理事長、全く途絶える事無く送って来ています。試作機の行動は全て把握しています」
「そうか、ミスター金瀬と試作機の関係はどうだ?」
「予定通りです。ただ、我々が想像していた大きさより大きくて途中までしか入っていないようです」
「ほう、そうかね。それもしているのか。結構な事だ。ちなみに遺伝子情報は送られてきているだろうな?」
「問題ありません。予定通りです」
「ならば結構だ。一号機のそれは少し大きくしてやれ」
「分かりました」
「頭の方はどうだ?」
「彼女の生きたニューロンを冷凍状態から覚醒させる事が出来ました。ただ、本人が驚いたようで一時混乱していましたが、ミスター金瀬の画像を見せたり試作機の事を伝え、後一ヶ月で自分が試作機と替われると説明した所、落着いたようです。今は、我々に協力的です」
「そうか、それで開発の進捗は?」
「現在、脳幹から脊髄に至る部分が欠落している為それを作っています。そこから体の人工筋肉に疑似神経細胞を繋げば完成です」
「あれを入れているだろうな?」
「勿論です。それが主目的ですから」
「良かろう。後どの位掛かる?」
「三週間あれば」
「結構だ。そのまま続けてくれ」
「「「「「はっ!」」」」」
§理事長トーマス・ソレイユ
俺は、研究主任達が出て行くのを見てから自分のデスクに戻った。一号機が出来れば、この世に存在する我々にとって邪魔なAIを排除する事が出来る。
そして我が社のAIでこの地球を占めるのだ。先ずはそこまでだ。それまではミスター金瀬と一号機となるミセス金瀬は仲良く過ごして貰わないとな。
俺は最近少し早めに帰る様になった。理由は環奈モドキの所為だ。彼女との会話は極冷凍温度で保存カプセルに入れて目を閉じていた環奈を見ている時より感情的に充実さを感じる。相手はロボットだと分かっているが、仕草が環奈に似ているのだ。
一緒にお風呂にも入れる。体の柔らかさは人間の女の子そのものだ。だから試作機とは思わぬ方向に進んでしまったが、する度に人間らしい声をあげる。益々環奈の事を思い出してしまった。彼らを信じて待つしかない。
それから一ヶ月ほど過ぎた。俺がアパートメントの地下駐車場にマクラーレンF40を停めようとした時、見覚えのある車が二台停まっていた。
俺が車から出た時、相手の助手席のドアが開いて、えっ!
「あなた!」
「環奈!」
彼女が走って来て俺に抱き着いた。
「環奈なのか?」
「うん、本当の環奈。あなたの妻です」
俺も嬉しくて環奈の細い体を抱きしめてしまった。
「コホン!感動の再会の所を申し訳ないが…」
「理事長か?」
「約束は守ったぞ」
「礼は?」
「そんなもの必要ない。私達は君達夫妻が元の様な生活をしてくれればいい。そして君の頭脳を世の中の為に使ってくれ」
「上手すぎる話しの様だが」
「なるほど、確かに上手すぎる話しだ、だが事実だ。あえて言うなら君を我が機構に招待したいのだがね。でも君も早々にグローバルマンディを辞める訳にはいかないだろう」
「当たり前だ」
「それはいい。もし気分が変わったら前に渡したナンバーの所に連絡をくれ。それとこれは一号機、失礼ミセス金瀬の説明書だ。見た目普通の人間と全く変わらないが、そうではない部分もあるのでね。
これで君から声を掛けられるまで君と会う事も無いだろう。ミセス金瀬を大事にしてくれ。ちなみに彼女のバッテリーは五十年持つ。十分だろう」
「俺が死んだらどうするんだ?」
「ミセス金瀬の意思に従うさ」
「俺の部屋にいる試作機は?」
「失礼だが君がいない間に回収させて貰った」
「何だって!入れたのか?」
「言っただろう。この世界に完璧などというものは存在しないと。ではごきげんよう」
それだけ言うとソレイユは一緒に来た他の車と共に駐車場から出て行った。
「一郎さん」
そう言うと背伸びをして来て目を閉じた。まさかとは思うが唇を合わせると全く生きていた時と同じ様に唇を強く付けて来た。そして信じられないが彼女の目から涙が流れた。ゆっくりと離れると
「一郎さん、会いたかった。本当に会いたかった。嬉しくて堪りません」
「環奈!」
彼女をもう一度抱き締めた。
―――――
次回もお楽しみに。
書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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