第13話 環奈モドキとの生活
俺は目の前にいる環奈モドキに
「俺の事が分かるのか?」
「はい、一郎さん。湯船には浸かっているんですか?」
「何でその事を知っている?」
「私は環奈です。一郎さんの事は何でも知っています」
どういう事なんだ。俺と環奈の私生活の事なんて分かるはずが無いのに。
「一郎さん。ここの設備を私にインプットさせて下さい。家事などが出来る様になります」
「いや、俺は一人で暮らしている。自分の事は自分でする」
「環奈、寂しいです。何かお手伝いさせて下さい」
「分かった。取敢えずここに居てくれ。俺はシャワーを浴びて来る」
「はい」
俺は、バスルームに入って体を洗い終えるとバスローブを着てリビングに戻った。環奈モドキは立ったままだ。
「座って居れば良かったのに」
「一郎さんから命令されない限り、次の行動には移れません」
なるほど、トラムV2よりAIのレベルは高いが、自律的な思考をしている訳ではなさそうだ。
「ここの設備を教えよう。来なさい」
俺は、バスルームの設備、キッチンの設備、調度品など一通りの事を説明した。
「ありがとうございます。明日の朝から料理可能です」
「いや、それはいい。本部の食堂で食べれる。ここには碌な食材が無い」
「トラムV2にオーダーします」
「俺はいつも帰りが遅いんだ。土日もなく仕事をしている。だから…」
「分かりました。一郎さん。明日私の洋服とか下着とかオーダーして良いですか?」
「はぁ?洋服、下着?」
「はい、実を言うとこの洋服の下は…。恥ずかしくて言えません」
「……………」
どう言えばいいんだ。相手はロボットだろう。
「一郎さんと一緒にベッドに入りたいです」
唖然とするとはこういう事か。さっきこいつを触った時人肌と同じだった。まさか…。
「お前は寝ないのか?」
「寝る必要はありません。でも寝ろと言われたら目を閉じます」
「参ったな。お前の体のメンテナンスはどうするんだ?」
「はい、バスルームで体を洗います」
「はぁ?」
「あの、一郎さん。私の事は環奈と呼んで下さい。お前とかは寂しいです」
俺が想像していた以上だ。何なんだこいつは?とにかく寝るか。
「寝るぞ」
「はい、でも下着が」
確かめてみるか。
「全部脱いでみろ」
「はい」
スカートもシャツも全て脱ぎ終わった。動作は人間そのものだ。こいつ本当にロボットか。試作機なんて言っていたけど本当は人間なのでは?
でも驚いた事に洋服を脱いだ環奈モドキは俺が覚えている環奈そのものだ。あそこに毛まで生えている。人工毛だろうけど。
「もういい、それで良いから寝るぞ」
「はい」
一人用とはいえ、俺のベッドは大きい。小柄な環奈モドキが俺の横になっても問題ない。だが、こいつが近付いて俺の体を触って来た。
「何しているんだ」
「一郎さんの体をインプットしているんです。全て触らせて下さい」
「勝手にしろ」
寝ようと思ったが、あそこまで触って来やがった。その触り方が…。
「これで一郎さんの体がインプットされました。ではお休みなさい」
§トーマス・ソレイユ
初号機は上手くやってくれている様だ。これでミセス環奈を蘇らせれば、彼は我々の組織に入れる事が出来る。心も体もな。
俺は、次の朝、いつもの様に目覚ましで起きるはずが、
「一郎さん、おはようございます」
なんと環奈モドキに起こされた。何も着ていないこいつは目に悪い。下着買ってあげるか。洋服も必要か。
起きて顔を洗って着替えると
「環奈、俺は会社に行くがお前はどうする」
「一郎さんの命令に従います」
「そうか、それではここで待って居ろ。後、洋服と下着は買って良いぞ。トラムV2を使えば搬送ロボが持って来てくれ…。受け取れないか。分かった。搬送ロボの到着を二十一時にしてくれ。俺が受け取る」
「分かりました」
「ところでトラムV2の使い方は?」
「はい、分かっています」
「では、行って来る」
「行ってらっしゃい。一郎さん」
おかしな感覚だな。ロボットに見送られるなんて。環奈大丈夫だろうか。
俺はニューヨーク本部に着くと自分のオフィスに一度行ってから二十九階に在るレストランに行った。
このビルは八十階建てだ。極東方面本部の様に周りが壁だらけではない。きちんと窓も付いている。いつもその景色を見ながらモーニングを食べるのだが。
いや、変な事は頭から退けるか。
俺はいつもより早くオフィスを二十時半に出るとそのままアパートメントに帰った。今日は怪しい車は付いてこない。
アパートメントの地下駐車場に車を停めてエレベータで自分の部屋に行き、中に入ると
えっ?部屋が掃除されている?
「環奈、これ君がやったのか?」
「はい、昨日設備を説明して貰いましたので」
「そうか、ありがとう」
「はい」
やがて二十一時になると搬送ロボが彼女の洋服と下着を運んで来た。それを受け取ると
「環奈、欲しかったものだ」
「嬉しいです」
環奈モドキは箱を器用に開けると中から下着とパジャマを出した。
「一郎さん、湯船あります。ゆっくりと入って来て下さい。私はもう体を綺麗にしてあります」
何を返していいか分からないが、バスルームに行くと確かにバスユニットに適温のお湯が張られていた。参ったな。
今日は湯船に入った。忘れていた感覚が体に蘇った。確かにお湯に浸かるのはいい。ゆっくりと入った後、バスローブを着てリビングに戻ると、何と環奈モドキがパジャマ姿になっていた。
「一郎さん、何か飲みますか?」
「いや、自分でやる」
「私が致します」
「分かったよ。ビールを取ってくれ」
「はい」
冷蔵庫から缶ビールを取出して俺に渡した。この子の頭が環奈だったら。ビールを飲んでスッキリとした後、ベッドに入った。環奈も一緒だ。
酔いの所為か。何とはなしに隣に横たわる環奈モドキを触ってみた。全く人間と同じ柔らかさ。胸も人そのものだ。まさか、手を下に延ばすと
「あん」
「えっ?!」
「一郎さん、良いのですよ。私は環奈です。感受性も全く同じです」
―――――
次回もお楽しみに。
書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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