第7話 最愛の妻の死

 

 トラムV2が発表された。次に行うのは俺のやりたい事だ。このトラムの能力を使って俺が実現したいのは、より強力な人工知能に引き上げる事。


 今のトラムは人間と同じ脳構造をしているとはいえ、それはあくまで脳部位五十二か所が集積装置とはいえ分散された形で搭載されている。それをA系、B系、C系でバックアップするという運用だ。


 それはセキュリティやリスクヘッジとしても当たり前だ。だが俺はこれを一つの高性能小型装置に集約して人型の脳と同じ大きさにする。


 それを実現するには今の量子チップをもっと高性能にしなければならない。その為には量子チップの開発を行う必要があるが、今のグローバルマンディの資金力を持ってすれば十分に実現できる。その時は俺の友人ライラックにも協力して貰うつもりだ。


 だが、直ぐに着手は出来ない。独り身だったら明日からでも取り掛かりたいが、今の俺には最愛の妻、金瀬環奈がいる。


「一郎さん、今日は街のショッピングモールでお買物と食事です」

「ああ、もうすぐ支度が終わる。待ってくれ」

「はーい」


 俺と結婚する事で一段と可愛く綺麗になった妻の環奈の嬉しそうな顔を見ると堪らなく心が和む。

 二年前の俺だったら自分が信じられないだろうな。



 普段仕事では本部ビルとマンションの間は俺達専用のランドカーRDCを利用するが休日のプライベートにこれを使う訳にはいかない。


 だから、家の近くから出ているLRTを利用してショッピングモールまで行く事にしている。


 俺の準備が出来るとマンションの鍵を閉めた。直ぐ環奈が俺の腕を掴んで来る。このマンションでも有名になってしまった。


 マンションからLRTの乗り場まで五分も歩かない。道路は広く車道と歩道はガードレールで区別されているからゆったりと歩く事が出来る。


 信号が黄色から赤になった。待っていると大型のトラックが反対側二車線の内側を向こうから走って来る。


 この辺は住宅街。トラックそれもあんな大型車が走るなんてと思って見ていると信号近くになっても速度を落とさない。


 人間が乗っている訳ではない。交通管制システムに制御されている無人車だ。そのトラックが速度を維持したまま交差点に突っ込んで来た。


 交差している道路を走っていたRDCを吹き飛ばし向きが変わった大型トラックがこっちに突っ込んで来た。そして


 ゴーッ!


 グシャ!


 俺の右側に立っていた環奈の姿が消えた。トラックはそのまま歩道を突っ切って住宅に突っ込んで止まった。


 一瞬の出来事だった。振り返ってみると環奈の体はぺしゃんこになり頭だけが残っていた。血の海なんて生易しいものではない。


 俺は言葉も発せずに環奈の首の傍に行くと


「か・ん・なーーーーーーっ!!!!」


 彼女の首と首から出ている少しだけの脊髄と血管、神経を地面から手繰り寄せると思い切り俺の胸で抱き寄せた。


 彼女の目は思い切り見開かれたままだ。片手でゆっくりと目を閉じてあげるとこれ以上で出無いと思う位の声で泣いた。




 

 あれからどれ位の時間が経ったのか分からない。俺の目の前には極冷凍温度で保存された環奈の首と脊髄から栄養補給の為に付いているチューブだけが目に映っていた。死んではいない。生きてはいる。でも何も話さない。



 後から聞いた話だが交通管制システムを制御しているAIが突然暴走したらしい。


 交通管制システムを制御しているAIと言っても一つや二つではない。多方面の交通システムを複数のAIが相互に連携しながら同時並行処理している為、どれがおかしくなったかなんて分からないと言っていた。


 同じような事故が各所で起こったそうだ。だが直ぐに自己修正されそれが何故発生したのか全く分からないと言っていた。


 俺は誓った。最愛の妻、環奈をこんな姿にしたAIを探しだし復讐してやると。




 俺を心配した金剛本部長や小岩井セクレタリが何度も俺の所を訪れたが、トラムV2自体は問題なく運用されている為、俺には気が落着くまで休暇を取って良いと本社からも連絡が有ったそうだ。


 だが小岩井セクレタリが、設計ユニットの全員が俺の事を心配している。何もしなくてもいい、出来るなら顔を見せてあげて欲しいと言って来た。俺は空返事をするしかなかった。


 二ヶ月ほどしてニューヨーク本部に居るCEOから来て欲しいという依頼が来た。あくまで命令でなく依頼だという事で俺の精神的な面を気にしての事だそうだ。


―――――

次から展開は第二フェーズに入ります。

次回もお楽しみに。

書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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