第6話 トラムの改良は順調だが、俺も隣の住人に改良されている

 

 トラムの改良進捗も順調だ。購買ユニット長の市村さんが、全原料を一度で調達出来ないからと設備管理ユニット長の八塚さんと相談して調達できた原料を元に出来る部分から設備製作と変更をやってくれているからだ。


 AI量子製作ユニットの長嶋さんは、3DCADシミュレーションで改変するチップの工程を何回も確認している。


 ユニット長会議で面白くなさそうにしているのはAI総合企画ユニット長の友倉だ。

 そう彼にはやる事が無いのだ。企画は全て俺の設計ユニットがやってしまっている。むしろ彼のユニットにやらせる理由がない。技術的な事がわからないからだ。


 トラムの改良を始めて五ヶ月が経ち、試作が出来て来た。今となっては旧型となった商用AIスペクトラムV1とV2の比較を行っている。


 結果は、認識、思考、対応の全てにおいてV1の一万倍の速度が出た。これは当初V1の改良目標で有った市場RFPの三倍のスペックだ。しかし、これはあくまで第一リリース。


 商用AIと言っても用途は広い。第一リリースは、コンシューマー用だ。専用携帯デバイスを持っていればいつでもどこでも利用可能だ。

 

 一般利用者の健康やアスリートの状態を瞬時に判断して向こう一年分の食事のメニューを提案し、調達まで全て利用者が迷う事無しに出来る。これもトラムのほんの一部のサービスだ。


 第二リリースは医療用、人間だけでなく生物の病気と言われる状態判断や怪我の状態判断を瞬時にして行いその場で対策を立て、必要な薬もしくは必要な手術までも行う。


 ほぼ人間が医療に関わる事は無い。勿論寿命も分かってしまう。これを利用した保険も提供する事にしている。


 第三リリースが工場の稼働全般、特に必要な設備も自己製作する能力を持つ。あらゆる工場に人影はない。自動車、家電、食品その他の生産を全て自動で行い不足の設備は全て自己製作だ。


 これが二年後には全て実現している。



 第一次リリースの試作機をグローバルマンディの代表取締役社長兼CEOへ報告して現地視察に来た時は、目が飛び出るんじゃないかと思う位驚いていた。



 ここ迄は予定通りだ。俺の計画に一部の狂いも無い。だが、しかし…。


「一郎さん、お風呂早く入って下さい。そうでないとまた一緒になりますよ」

「わ、分かった、早く入る」


 そう、隣の住人だったはずの桐生さんが、何故か俺の部屋で同居している。彼女と知り合ってから五ヶ月、最初は苦手意識を持ちながらも優秀な頭脳と設計ユニットのまとめ役としての能力を高く評価していた。


 だから俺の生活面全般を見るという本社からの意向も仕方なく許していたのだが…。


 時間が経つにつれて、彼女の買い物に付き合わされ…こんな予定俺には無かった。


 いつの間にか彼女の可愛い面に心を奪われ…。


 いつの間にかキスをする様になり…。


 今はベッドを伴にする様になっていた。


 勿論この事は職権乱用?本当は逆だが…。と誤解されかねないので会社では知らない振りをしていたが、見る人が見れば分かるものでセクレタリの小岩井さんが


「金瀬さんの仕事に対する能力は高く、尊敬していますが、別の能力も高かったとは思いませんでした。

 我が設計ユニットのアイドル、マスコットの桐生ちゃんをまさか五ヶ月で落とすとは」

「いやそれは…」


「私がもっと早く金瀬さんを落としていれば…」


「小岩井さん、何か言いましたか、聞こえなかったんですけど」

「何でもありません。この後、金剛本部長との打ち合わせが入っています」

「分かった」



 そして第一リリースが発表された。発表には代表取締役兼CEOは勿論の事、ニューヨーク本部のお偉方や金剛極東方面本部長達が得意顔でプレスの前で俺が書いたシナリオを読んでいた。俺は後ろの方で立っているだけだ。

 

 この頃には桐生さんと婚約をしていて、後半年で入籍をする予定だ。勿論社内でも公表している。環奈ちゃんが婚約指輪を付けていたいと言ったからだ。


 後からの話では虫よけらしい。そんな事トラムにさせれば良いと言ったのだが、話が通じなかった。虫違いか?


 彼女曰く、トラムは人間の恋愛感情まではコントロールしていないという事だった。流石にそれはAI規約協定違反になる。


 だが発表後少しでは有るがその余波も有った。

 俺はそういう事には縁がない人間とほぼ全員が思っていたらしく、若い男性社員からは、妬まれて俺達のアイドルを横取りにしに来たとか、

 若い女性社員からは半分は冷たい目をされて、もう半分からは急にねっとりした目で見られるようになった。


 それから一年半後商用AIスペクトラムV2の第三リリースも発表され、少しの間の休暇期間に入った時、


 それは起こった!


―――――

次回もお楽しみに。

書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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