第4話 癖のあるユニット長と設計部のメンバ

 

 俺は、金剛本部長と食事をした後、各ユニット長を会議室に集める前に一度商用AIスペクトラム設計部に顔を出した。


 十二階にある設計部門は、このビルのワンフロアの半分を占めている。俺が小岩井セクレタリと桐生さんに連れられて中に入ると部員が一斉に俺達の方を見た。


ーねえ、新人かな?

-その割には年食っているよね。

-でもイケメンだから良いんじゃない。


-馬鹿かお前ら。あの人は今度のユニット長だぞ。

-うっそーっ。だって博士号三つも持っているって聞いたから眼鏡かけたおっさんかと思っていた。

-しっ、聞こえているぞ。

-えっ!


 俺は、それを無視して小岩井セクレタリと一緒にユニット長室に入った。桐生さんは自分の席に座った。このユニット長室から近い場所だ。

 部員からはスモークで見えないが、この部屋からはフロアが見える様になっている。


「小岩井さん、各ユニット長を至急会議室に招集してくれ」

「分かりました」


 

 それから三十分後、十二階の十二人は座れる会議室に各ユニット長が集まった。金剛本部長も同席している。最初金剛本部長から


「聞いていると思うが、彼が今日から設計ユニット長に就任した金瀬一郎君だ。彼はCEOから商用AI改良の全権限を与えられている。私も金瀬君を全面的に支持する。

 彼の言う事が全てだ。君達は彼から指示された事を達成する事だけに集中する事。

 反対意見は自分の退職届けにサインするのも同じだ。では、友倉君から自己紹介してくれ」


 金剛本部長の言った事に各ユニット長の顔が変わった。面白くないという顔がほとんどだ。


 金剛本部長の右側に座る男が立ちあがると

「AI総合企画ユニット長の友倉栄蔵ともくらえいぞうだ。宜しく」

「AI量子チップ製作ユニット長の長嶋健吾ながしまけんごです。宜しく」

「設備管理ユニット長の八塚覚司はつづかかくじです。宜しく」

「購買ユニット長の市村誠二いちむらせいじです。宜しく」

「品質管理ユニット長の奥平友三おくだいらともぞうです。宜しく」

「市場調査ユニット長の兼重孝雄かねしげたかおです。宜しく」


「金瀬君、各ユニット長だ。上手くやってくれ」


 金剛本部長はそれだけ言うと俺の顔を見た。代われと言う事だろう。俺は椅子から立ち上がると


「今、紹介された金瀬一郎です。早速ですが、俺はCEOから直接、商用AIスペクトラムの改良の全権を与えられている。


 特に市場RFPを上回るならばそれ以外は俺の自由にしていいと言われている。私は市場RFPを見たが、このスペックでは改良が終わった時には、他社が同じ物を出している。そこでだ。私は最初からこの市場RFPの二倍のスペックを実現する」


 流石にざわついた。AI総合企画ユニット長の友倉が

「なに、好き勝手な事を言っている。そういう事はまず私に相談してくれ」


 それを聞いた金剛本部長は

「友倉君、君は耳を持っていないのかね。それともこの場で辞表を書くかね」

「しかし、本部長…」

「友倉君、もう一度だけ言う。これが最後だ。金瀬君はCEOから直接全権限を委ねられスペクトラムの改良を任されている。君は金瀬君の言う通りに動く事が君自身の仕事であり首にならない条件だ。分かったかね」

「はい」

 今迄AIの改良は全て私が決めて来た。何でこんな新参の若造に…。


 友倉が唇を噛みしめながら思い切り俺を睨みつけて来た。そんな事は気にせず、

「今日はここ迄で充分です。明日以降、必要に応じて会議を招集します。以外でも個別に声を掛けます」


 それだけ言うと各ユニット長が会議室を出て行った。金剛本部長が

「彼らに遠慮する事は微塵もない。君の本領を思う存分に発揮してくれ」

「はい」


 最後に本部長が出て行った。


 §AI総合企画ユニット長の友倉栄蔵

  偉そうな事言っているが、どうせ口先だけだろう。今にボロを出すさ。


§AI量子チップ製作ユニット長の長嶋健吾

 噂が本当なら久々に楽しい時間が過ごせそうだ。口先だけで無い事を祈りたいものだ。


§設備管理ユニット長の八塚覚司

 面白い奴が入って来た。今後が楽しみだ。


 §購買ユニット長の市村誠二

  CEOが認めたんだ。従うしかなかろう。


 §品質管理ユニット長の奥平友三

  少し位、他社に優位だからと言って胡坐をかいている様な輩には丁度良い。期待したいが噂の実力が本物かどうか。


 §市場調査ユニット長の兼重孝雄

  面白い。CEOが直接スカウトに行った男だ。期待させてもらうか。



 俺は設計部に戻ると早速小岩井セクレタリに

「小岩井君、部内の主任クラスを集めてくれ」

「分かりました」


 五分後、部内の主任以上が、会議室に集まった。俺は集まったメンバを一通り見まわすと

「今度商用AIスペクトラムの改良を任された金瀬だ。CEOから改良の全権を与えられている。諸君は非常に優秀な人材と聞いている。期待しているぞ。それから俺を呼ぶ時は肩書は要らない金瀬でいい。それでは自己紹介してくれ」

 そう言って桐生さんの顔を見た。


 金瀬さんが私の顔を見た。私から自己紹介して良いのかな?

「桐生環奈です。脳内記憶素子担当主任兼総合監修主任です」

仲居喜一なかいきいちです。疑似ニューロン本体担当主任です」

華城美香はなぎみかです。疑似軸索担当主任です」

「チョウ・ホンソです。疑似樹状突起設計担当主任です」

「マルチネス・ベアラです。疑似グリア細胞担当主任です」


「早速だが、ユニット長との挨拶の時にも話した事だが、今回改良するスペックは市場RFRの二倍のスペックとする」


 全員が目を見張ったが、直ぐに落ち着いた。桐生さんが

「私達も市場RFPは読んでいます。全員、金瀬さんの意見に賛成です。あれでは出来上がった時は他社も同じレベルの商用AIを市場に出しています」

「ほう、全員がそう思っているのか。それでは早速、その実現について考えたい所だが、取敢えずこれを見てくれ」


 俺は手元にあるデバイスから壁に組み込まれているディスプレイに脳内の各部位に必要な量子チップのスペックを表示した。


 疑似ニューロン本体担当の仲居が

「えっ?!これでは現在のチップの全面改良が必要になります。一からの設計では、リリースに間に合いません。それに…我が社の技術ではこのチップを作る事は出来ません」


「その通りだ。現状のチップの改良は考えていない。今のチップの使い方が悪いんだ。だからこういう方法をとる」


 会議室に居る全員が驚いた顔をしている。無理もない。この子達のレベルというかこの会社の技術力では想像出来ないだろう。

 

―――――

次回もお楽しみに。

書き始めは皆様のご評価☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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