第61話

夏休み前の最後の土曜日。日曜日が休みだから、土曜日の無敵感はとてつもない。積んでおいた漫画とネット小説を読み漁る。夜更かししようが何しようが誰にも怒られることがないのは最高だ。


「お・に・い・ちゃ・ん・し・ん・で・♡」


「酷くない?」


琥珀の理不尽すぎるモノ言いに一応反論しておく。


「せっかくの土曜だっていうのに、こんな時間までゲームと小説で時間を潰すなんてなんて……ニートを介護する親の気持ちを少し実感しちゃったよ」


「俺は高校生だ。ニートじゃない」


「へぇ、家のことはほとんど私に任せて自分は一人、趣味に没頭するんだ。私、受験生なんだけど?」


「本当にすいませんでした……」


すぐに土下座をする。琥珀の善意に甘えてしまった。ただ、言い訳をさせてくれ。琥珀の家事は完璧なんだ。特に飯はうますぎるから毎日食べたい。


「大体さぁ「ピンポーン」……ちっ、クソ邪魔が」


「俺が出るよ」


誰か知らないが、いいタイミングで来てくれた。おかげで琥珀の説教を躱せる。そして、玄関を開けると、そこにいたのは灰銀だった。


「おっぱっぴー」


「それ挨拶ちゃう」


相変わらずふざけた人だなぁ。


「アレ!?唯煌ちゃんだ!」


琥珀がひょっこりと顔を出してきた。


「ごめんね~、琥珀ちゃん。こんな時間に」


「いえいえ、唯煌ちゃんならいつでも歓迎ですよ~」


さっきクソ邪魔とか言っていたような気がするが……


まぁ言わない方がいいか。それにしても一体夕飯時に何の用事だろう。


「それでどんな用事ですか?」


「うん。ちょっと、瑪瑙君に用事があってね。借りてもいい?」


「どうぞどうぞ~!煮るなり焼くなり好きにしちゃってくださいな!」


「俺の意志は?」


「妹のヒモになってるクソニートに人権などあるはずがないだろうが。さっさと行ってこいや」


「はい……」


琥珀がブチギレてる。次からは琥珀に甘えないようにしっかりと家事をしたいと思います。



「改めて、ごめんね、こんな時間に」


「いやいいよ。あのまま琥珀に怒られるのは辛かったから丁度良かった」


玄関の外で灰銀と一対一で話すことになった。それにしても本当に何の用事だろう。


「一応、昨日のことについて伝えておかないといけないと思ったからさ」


「ああ、そういうこと」


昨日のことというと宮内たちとのことだろう。確かに結末は気になる。


「仲直りができたから、今日、遊びに行くことになったんだよ。めっちゃ楽しかった」


「へぇ。それは良かった」


「みんないい子で愉快な子達だった。私は一体何を疑ってたんだろうね……」


灰銀が弱々しく笑った。


「瑪瑙君にも謝ってたよ」


「俺?」


「うん。特に玲美なんてしおらしくなっちゃってさ。今度の学校で直接謝罪するって」


「いやいや、必要ないって」


むしろ俺が謝る側だ。金髪ギャルで強面とはいえ、女子を机に押し倒したんだ。山本にはしっかり謝罪しようと思う。


髪を剃っていくべきかな……?


「そんなわけなんで問題は解決しました。君のおかげで友人を手放すことがなかったよ。ありがとね?」


「……俺、余計なことしかしてなくない?」


灰銀のお礼をまっすぐ見れない。それに俺がいなくても灰銀なら勝手に解決していたと思う。


「うん。余計なことをたくさんしてくれたじゃん」


これは本当に感謝されてるのか……?


灰銀が何を考えているのか分からない。


すると、灰銀は頬を赤くして、咳ばらいをした。


「突然ですが、瑪瑙君。君は私から大切な物を盗みました。一体何でしょう?」


突然のルパンごっこが始まった。


「また【唯煌クイズ】かよ……」


「うん。今回は商品ナシね」


じゃあ、やる意味ないじゃん……


モチベが上がらないが、一応考えてみるか。


俺は灰銀から大切な物を盗んでしまったらしい。


あ、そういうことか。まさか、知ってたとはな。流石Tier1筆頭人権キャラ。


これでは俺と冬歩が気を遣った意味が全くなかった。それでもわざと騙されたフリをしていてくれたらしい。だとしたら、俺と冬歩が悪い。素直に謝罪しよう。


「夢宮さんが金城と熱い夜を過ごしたくて頑張ってたのを知ってたんだな。隠しててすまない……」


「え?何その話?」


「え?」


それじゃないの?


俺が何を言いたいのか分かって、灰銀は面白いくらい表情が変わった。


「……聞かなかったことにしてやる」


「寛大な処置、感謝いたします」


今日は頭を下げてばっかりだな……


「今度冬歩ちゃん共々責任を取らせるのは確定として、答えは?」


と言われても困る。映画だと答えは『貴方の心です』だけど、灰銀に向かって、それを言うのは恥ずかしすぎるし、黒歴史になるのは確定だ。


そもそも俺は灰銀から何かを盗んだことはないし、害を及ぼすこともしていない。今のが答えじゃないとするなら、俺に思い当たることがない。


「降参……皆目見当もつかない」


「え~、つまんないな~」


余計なことを言って黒歴史になる方が辛い。


どうせNTR関連の世迷言だろうから、さっさと答えを教えてもらうに限る。


「本当に何も分からないの?」


「分からん」


「はぁ……じゃあ、アレも素なんだね。まぁ瑪瑙君だから、そうだよね~」


「人の顔を見てため息をつくのはやめようか」


人の顔見て呆れるのはやめましょうね?失礼だよ。


「じゃあ正解は~ドゥルルル~」


「それ口でやるやつ初めて見たわ」


しかも、普通に上手い。ボイスパーカッションの才能もあるのかこの人。


そして、ピタッと止まって頬を赤くして俺を見た。


「━━━金城君への恋心だよ」


「え?」


恋心?一体何を言ってるんだ?


疑問を口にしようとすると、灰銀は出口の方を向いてしまった。表情が見えない。


「……これ以上は言わないよ。後は、自分で考えてみてね?」


「あ、ああ」


気付かぬうちに灰銀のペースに乗せられていた。


危ない。相手はヒドインなんだぞ?


「いつもの意味ありげで全く意味のない灰銀さんの戯言だろ?軽く流しておくよ」


「君は私の心を揺さぶる天才だね。本気で堕としに行くぞコラ」


とは言われても、そう思わせるのは灰銀の普段の行いが悪いからだ。俺は何も悪くない。


「じゃあね、瑪瑙君。また、学校で」


「じゃあ」


もう夜も遅いから送っていこうと思ったが、灰銀は走って行ってしまった。結局、最後まで表情は見えなかったが、一体何が言いたかったのだろうか。


灰銀がいなくなって、扉を開けると、琥珀がニヤニヤしながらこっちを見ていた。ドアスコープで覗いていたのだろう。悪い妹だ。


「お兄様、やりますなぁ」


「何がだよ……」


「気にしない気にしない!それより、今日はステーキだよ!」


「ご馳走じゃん。どうしたの?」


「こんないい日に普通の飯なんて食ってられるかっての!今日はお祝いじゃ!」


琥珀の態度がさっきとは打って変わってよくなっていた。何があったのかは分からないが、琥珀の機嫌が直ったのならそれは良いことだ。便乗させてもらおう。


━━━


ひとまず、ここまでで一章です!


ストックが切れたのでここからは不定期更新になります。申し訳ないです……


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俺の周りの美少女たちはメインヒロインではありません。せいぜいフラれたヒドインです~諦めきれない彼女たちのNTRに協力していたら、なぜか俺の好感度が上がってきたようです~ addict @addict110217

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