第49話
「それじゃあ、夢宮ちゃん改造プロジェクトを始めたいと思います!」
「お、お願いします」
夢宮と灰銀が向かい合って座っている。
「といってもまずは夢宮ちゃんのステータス確認だね。どれだけの能力があるかを知ることで、必要なこともやれることも変わってくるからね。例のモノは持ってきてくれたかい?」
「あ、はい」
机の上に数枚の紙が置かれた。冬歩がそれを受け取って、灰銀がそれを真横からみている。俺も後ろから、それを確認する。
「中間期末試験の結果に、これは体力測定かしら?」
それだけじゃない。身体測定や自己紹介シートもあった。自分で書いてきたのだろう。
「はい。ただ、私、本当に勉強も運動もできないので結果は惨憺たるものですが……」
長距離の1000M走に関しては二桁タイムだし、50Mも測定不能。
「測定不能ってどういうこと?」
測定に数字以外があることに驚いて、興味本位で思わず聞いてしまった。
「こけて足を捻ってしまって、棄権させていただきました……」
「な、なるほどな」
短距離で棄権をしてしまうほど、運動ができないのか。一応数字が付いているのものを確認すると、どれも惨憺たるものだった。
あ、長座体前屈だけは結構良い。
「小学生の頃は運動も苦手というほどでもなかったのですが、中学で引き籠ったツケがこんなところに来てしまいまして……」
「ごめん、それは俺が悪かった」
「い、いえ、引き籠ったのは私の責任なので……」
夢宮の過去に配慮ができなかったのは俺のせいだ。
気まずくなった俺はテストの成績にも目を通したが、どれも赤点ギリギリだった。
「勉強はしっかりやろうぜ?模試ならともかく、定期テストは範囲が狭いんだからさ」
「は、はい」
「……」
灰銀が呆れながら夢宮を見た。誰だこいつ?
後、灰銀は気付いていないようだが、密かに冬歩もダメージを受けている。そりゃあ赤点ギリギリの夢宮に比べて、冬歩は赤点をしっかり取っているからな。
「灰銀さん。どっかで悪い物でも食べた?」
「どういう意味だコラ」
そのまんまの意味だ。灰銀が正論を吐くなんて、どこか身体の調子が悪いに違いない。もしくは別人だ。
「テスト期間になると、真君が私のために家庭教師をしてくれるんです。彼氏と一緒にいれる口実ができたと思って甘えていましたが、これも直さなければいけませんね」
「……そうだね」
夢宮も容赦がない。正論に対して、天然でカウンターを入れた。つくづく夢宮は灰銀キラーだと思うわ。
すると、灰銀は無心で俺を見てきた。
「私も勉強ができない方がいいのかな?」
「大丈夫だ。灰銀さんはそのままでも十分魅力的だって」
「だ、だよね!瑪瑙君は分かってるなぁ~」
「当たり前じゃん」
灰銀は天才とお馬鹿の相反する二つの性質を持っているのだから、そんな無駄なことをする必要はない。むしろ勉強ができなくなって、ただの馬鹿になったら余計に惨めだ。
「冬歩ちゃんも、そう思うでしょ?ってどうしたの?」
さっきから会話に入ってこない冬歩が夢宮のステータスを一心不乱に見つめていた。灰銀の言葉でダメージを受けているのかと思ったが、そういうわけではなさそうだった。
そして、夢宮を見ると、怪訝な顔をした。
「夢宮さん、ちょっと、姿勢を正してもらっていいかしら?」
「え?今すぐですか?」
「ええ」
「え、ええと」
夢宮は何か戸惑っている。姿勢を正すというのはそんなに難しいことなのだろうか。
「夢宮ちゃん、猫背過ぎだよ。ほら、お腹に力を入れて、背筋を伸ばそう」
「え、その、あの」
「立派な『お姉さん』を想像してみ。猫背の人はいるかい?」
「え、あ、その」
「姿勢の良さは『お姉さん』への第一歩だよ。Are you OK?」
「わ、わかりました。そ、それじゃあいきます!」
何か覚悟が決まったのか、夢宮は深呼吸をした。そして、背をピンと伸ばした。
そこで俺は冬歩が何をさせたかったかよくわかった。
「マ、マジかよ……?」
灰銀が声を震わせながら、驚愕で目を開いていた。そして、冬歩も灰銀ほどではないが、同様の表情をしていた。かくいう俺もとてつもなく驚いた。
何が、とは言わないが、デカすぎた……
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