第44話
連れてこられたのは屋上だ。最近、何かと縁がある。
「すまんな。せっかくの昼休みに」
「いいって。それより、何か用か?」
「実は、桃花絡みのことでな相談があってな」
え?何この神妙な顔つき。まさか……もう別れたっていうわけじゃないよな?灰銀以外誰も喜ばないぞ?
「枯水は分かりやすいな。そんな重い話じゃないぞ」
「あ、悪い」
「いいさ。だからこそ枯水に相談しているわけだしな」
金城に信頼されてる感、嫌いじゃないが、金城の中で俺の評価がある場面などあったのだろうか。まぁいいか。
「桃花が女子力を上げたいらしい」
「は、はぁ……」
曖昧な返事をしてしまう。確かに女子力は大事だ。女子であったら必需品だ。だが、俺は高くはないぞ?
「それで、女子力向上のヒントを得るために『精神高揚部』に相談したいらしい」
そういうことか。
「俺に冬歩の取り次いでほしいってことだよな。伝えておくよ」
「話が早くて助かる」
金城の言いたいことは分かった。夢宮のしたいこともわかる。ただ、『女子力』と言われると、色々疑問が湧く。冬歩に女子力はあるのか……?
「俺は部活で一緒に行ってやれない。桃花は人見知りだから、枯水には相談の時にそれとなくフォローをして欲しいんだ」
「任せてくれ」
金城夫妻のデート中に灰銀に情報を流してしまった前科がある。冬歩が夢宮に罵声を浴びせようものなら俺が身を挺して守る覚悟です。
「ありがとな。それじゃあ教室に戻るか」
「ああ」
俺は金城と一緒に階段を降った。偶然、深井先生と遭遇して、授業に遅れかけたのは別の話。
◇
次の授業は日本史だ。定年間際のおじいちゃん先生がお経のように教科書を読んでいる。スマホをいじってもバレないだろう。
俺『今、いいか?』
すぐに既読がついた。聞いといてなんだが、授業中なんだが……
冬歩『何?』
俺『今日、俺のクラスメイトの彼女が『精神高揚部』に依頼があるらしい』
冬歩『了解したわ。どんな悩みか聞いてるかしら?』
俺『女子力を上げたいんだとさ』
冬歩『私の専売特許ね。任せなさい』
俺『分かった。冬歩では無理だと伝えておく』
冬歩『どういう意味かしら?(*^▽^*)』
冬歩『あ、ごめんなさい。少しだけ用事ができたわ』
冬歩『一時間ほど待たせてもらってもいいかしら?』
俺『いいけど、どうかしたか?』
冬歩『数学で赤点だったから、再々テストを受けてくるわ。今、通告を受けたのよ』
俺『スマホ消せよ』
そういえば、冬歩が勉強をできないのを忘れてた。
◇
「嘘でしょ。冬歩ちゃんって馬鹿なの?あの顔で?」
「本人に言うなよ?一応気にしているっぽいから」
灰銀が信じられない物でも見ているみたいだった。
逆に灰銀ができる理由が一番分からん。冬歩が遅れる理由を聞きたがっていたので、素直に再々テストのことについて教えた。うちの学校は順位がすべて張り出されるからいつかはバレるだろう。
「いやいや、さもなんでもできますみたいな顔してんじゃん」
「言いたいことはわかるが、そろそろ口を閉じろ」
春樹と同じ学校に入りたくて、冬歩は頑張ったのだ。ちなみに春樹はなんでも要領よくこなす。先生にも好かれてるし、内申点は良い。大学は指定校推薦を狙っているらしい。
運動部だから指定校推薦で行くのは良い選択だと思う。
それより、俺は何か大事なことを灰銀に伝え忘れているような気がする。
「瑪瑙君、私が好きだからって見つめすぎだぜ?」
「はは」
「鼻で笑いやがったな、貴様?」
だって、もう慣れたし。
コンコン
「どうぞ~」
『精神高揚部』が恐る恐る開かれると、ぴくぴくと動くピンク髪のアホ毛が部室に入ってきた。すると、灰銀が物凄い形相を浮かべて、ぜんまい仕掛けの機械のようにギギギと首だけ俺の方を向けてきた。
「おい、どういうことだ……!?」
灰銀の眼がこれでもかと見開かれた。
やっべ~……伝え忘れてた。
アホ毛の彼女は俺たちの方を見て、少しだけビクッとした後、頭を凄い勢いで下げてきた。
「ゆ、夢宮桃花です!きょ、今日はよろしくお願いします!」
夢宮桃花━━━完全無欠のアイドルの灰銀唯煌に唯一、敗北の味を教えた女だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます