第33話
フォローしたのに冬歩にキレられた。女心は全く分からん。
「それより来たわよ……」
冬歩がベレー帽を深く被って視線で俺を誘導する。そこには、春樹がいた。しかも、めっちゃカッコいい。普段は面倒くさがって髪のセットをサボってた春樹がしっかりセットをしてる。ただのイケメンがスーパーイケメンになってる。
「朝から、美容院に行くと言っていたけど、格好良すぎね」
「盗撮はやめろ」
冬歩が無音カメラで連写してる。
「へ~、中々カッコいいじゃん。春樹君も本気だね」
地味子が乱入してきた。一週間ぶりの地味子さんだ。
「どちら様…?」
冬歩が混乱している。
「え?私だよ。灰銀唯煌」
「嘘……」
無理もない。マジで地味子だからな。ギャップ堕ちに相応しい見た目だ。これで冬歩も灰銀がストーカーのスペシャリストだって分かってくれただろう。
「それより、春樹君の彼女ってどっちなの?」
「どっち?」
意味不明なことを言ってきたので、春樹の方を見てみると、女性二人組が春樹に話しかけていた。あの感じは大学生だろう。
「お兄さんカッコいいね!」
「今、暇かな?」
ここまで声が聞こえてくるが会話の内容的に……
「アレはナンパね。全く、兄さんったら。私がいないとすぐに女を引っかけるのよね」
「ちょっと待て」
「何よ」
冬歩が春樹の元に行きそうになったので腕を掴むと、こっちを睨んできた。
「冬歩が出て行ったら、尾行が終わるだろうが」
「そうですが何か?」
ええ……こいつ嫉妬で目的を忘れてやがる。
「冬歩ちゃん。貴方の気持ちはわかるよ。でも、今は我慢しないとだよ。NTRを成功させたいんでしょ?」
灰銀が会話に混ざってきた。
「目の前で好きな人が別の女とイチャイチャしているのを台無しにするのは簡単だよ。ただ、それは未来につながる行為なのかな?」
「それは……」
「NTRを成功させるためには相手の好みを知らないといけないの。今日はそのための尾行でしょ?未来で春樹君の隣に立ちたいなら、ちょっとのことでいちいち気にしてちゃダメだよ」
珍しく灰銀が良いことを言っている。ブーメランが刺さりまくっている気がするが、せっかく冬歩が落ち着いたんだ。何も言わない。
「そうね……自分を見失ってたわ。それに唯煌さんのことも誤解してたわ」
「知ってるよ。少しは見直したでしょ?」
「ええ。評価を改めるわ。馬鹿で阿呆で女子力皆無なダメドルと思ってごめんなさい」
「大幅に見直せよ?マジで」
その認識で間違ってないと思うぞ?俺も同じ印象だし。
ただ、冬歩と灰銀の仲は少し改善されたようだ。二人の仲が悪いんじゃ俺も居心地が悪かったが、この感じならどちらかがやらかさない限り大丈夫だろう。
「春樹先輩!何してるんですか!」
「あ、甘音」
改札をダッシュで抜けてきた叶が春樹の腕を取って猫のようにお姉さんたちを威嚇している。
「この人は私の彼氏です!どっか行ってください!」
「「ごめんなさい!」」
叶が来るとお姉さん二人組はすぐにどっかに行ってしまった。それだけの迫力があった。そして、お姉さんたちがいなくなると、叶は春樹の方に向き直った。
「セ~ン~パ~イ!」
笑顔で詰め寄る。アレはキレてる時の顔だ。春樹の顔が引きつってる。
「あ、甘音?」
「なんで~、私という彼女がいながら、他の女にデレデレしてやがるんですかぁ?」
「甘音!ヒールが突き刺さってる!痛い」
「ふん、春樹先輩が他の女を見るからですよ。馬鹿……」
うん、叶が可哀そうだ。もっと踏んでやれ。
「悪かったよ、甘音……もう二度とこんなことにはしない」
「分かればいいですよ分かれば」
それにしても、今日の叶はかなり気合が入っていた。肩まで伸びた髪を、頭の後ろのところでまとめていた。化粧一つとっても、かなりの時間を要したことが分かる。俺たちの後輩というよりもかなり大人な印象だ。俺は勝手に可愛い系に括っていたが、今日の叶は美人系だ。
こんな気合の入った彼女を放っておいて、女にナンパされてるんだから、そりゃあ怒られても仕方がない。
「それにしても今日の甘音は世界で一番可愛いな」
「なっ!?」
不意打ちに叶も顔を真っ赤にしていた。
「俺のために頑張ってオシャレしてくれたんだろ?ありがとな?」
「い、いえ。これは私が好きでやっていることというか」
春樹に褒められた叶は忙しなくもじもじとしている。そして、春樹を見るとすぐに視線を逸らしりと中々にいじらしい。
春樹は時折誰よりも察しがよくなるんだよな。本当にズルいわ。
「そ、そんなこと言ったって私から返せる物なんてありませんよ……?」
「いやいや、可愛い彼女がいてくれるだけで俺は大満足なんですよ」
「も、もう!やめてくださいよ!それより行きますよ!」
「あ、待てって」
「え?」
叶が前をずんずん千寿パークまで向かおうとしたとき、春樹が叶の手を握った。
「せっかくなら一緒に行こうぜ?初デートだろ」
「……ズルいですよ」
そういって二人でバカップルを演じていた。そして、千寿パークに向かって仲良く歩いていった。
俺のおかげなんていうことはないけど、あいつらがうまくいったのを見ると、嬉しくなる。親にも似た気持ちだな。満足したし帰るか。これ以上ここにいたら、馬鹿になってしまう。
「どこに行こうというのかしら?」
負の遺産があることをすっかり忘れていた……
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