第31話
軽く話をしてみた感じでは、そこまで凹んでいないようだった。一安心。俺が愚痴を聞くだけで話は済むなら、それでいい。後、三週間もすれば、夏休みだ。そこまで逃げ切ればしばらく冬歩と関わることはなくなるだろう。
「でもさぁ、一度フラれたわけでしょ?また告ってもフラれるだけなんじゃない?」
あんパンを食い終わった灰銀が俺たちの会話に混ざってきた。しまった、もう口を塞げるものがない。
「……何が言いたいのかしら?」
「告白を成功させたいなら何かを変えないとでしょ?そのためには相手の好み、性癖を把握し、自分をそこに合わせていく努力をしなきゃいけないの」
今年の流行語大賞は『お前が言うの?』に決定だな。審査員も満場一致だろう。
だが、一理あるのは確かだ。冬歩は、灰銀と違って、すべてのステータスが勝っているのに、敗北したのとはわけが違う。
進条冬歩と叶甘音ではベクトルが違う。業腹だが、冬歩は美人系。それに対して、叶は可愛い系だ。
社会的なステータスを見れば、小説家の冬歩に軍配が上がるが、それを加味してもすべてが勝っているわけではない。
そもそも春樹の趣味がそっちにあるならいくら美人系の土俵で戦っても仕方がないというわけだ。
「へ~、知能指数はチンパンジー以下のように見えたけど、中々良いことを言うじゃない。見直したわ」
「え?私、そんな風に見られていたの?」
気持ちはわかるぞ、冬歩。
すると、冬歩が俺たちを真剣な眼差しで見てきた。
「今度の日曜に千寿パークで兄さんと『後輩』がデートをするっていう情報を掴んだのよ」
「ほ~ん」
女子の恋愛方面の探偵力の高さは灰銀の時に知っているから、驚くことはない。
「付き合いなさい、瑪瑙」
「は?俺?」
「当たり前でしょう。どうせ、予定なんてないんだろうから、つべこべ言わずに付き合いなさい」
「いや、面倒なんだけど……」
そんなものに付き合う義理はない。
「へぇ……私、今回の件を全く許していないのだけれど?」
そう来るか。だが、フラれたのは冬歩の責任で俺は何も悪くない。
「両親は悲しんでいたわ。私と兄さんが結ばれるのがなんやかんや嬉しかったのよ」
「へ、へぇ……」
「それが誰かさんのせいでフラれちゃったなんて知ったらどうなるかしらね?あ、私は事実を伝えるだけよ?」
「……」
ちなみに二人の両親と俺の仲は悪くない。だが、少し関わりたくない。ユニーク過ぎるのだ。
「もし手伝ってくれたら、この件は水に流してあげてもいいわよ?」
つまり、俺に逃げ道はないわけだ。俺は抵抗することを諦めた。
「……降参だよ」
「そう。いい返事ね」
また、尾行に手を貸すことになるとは思わなかった。
「あ、それじゃあ私も手伝うよ!」
いたのか灰銀。静かすぎて忘れてたわ。
「結構よ」ニコ
「なんで!?」
「五月蠅、じゃなくて、やかま、じゃなくて、うるさいからよ」ニコ
「いい笑顔でそんな酷いこと言わないでよ!」
冬歩は若干キレてるな。あんなずけずけ言われたら、怒るのも気持ちはわかる。だが、今は灰銀の力が必要だ。
「冬歩、こんなんだけど灰銀さんはストーカーのスペシャリストだぞ」
「これが……?」
冬歩が信じられない物を見る目で灰銀を指さした。
「おい、貴様ら。温厚な私でもキレる時はキレるぞ?」
とはいってもマジだし……
「前例もあるし、灰銀さんが優秀なのは確認済みだ。冬歩がNTRを完遂させたいなら、使えるものは使っておくべきだろ?」
後、単純に冬歩と二人で一緒に居たくないというのがある。灰銀はいい感じに場をかき混ぜてくれるから、マスコット的な立ち位置でいて欲しい。
「……それもそうね。瑪瑙に言われたのが気に食わないけれど、今はそんなことを言ってる場合じゃないものね」
「一言余計なんだよ」
「いいわ。それじゃあ次の休みに駅前集合よ。遅れないで頂戴ね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます