第27話
「冬歩ちゃんのおかげで私は分かったよ。NTRの真髄が……!」
「また馬鹿なことを言いだして……」
一体何を悟ったんだよ、このヒドインは。
「今の話から何も得られないなら、瑪瑙君は相当愚かってことだよ。あ、成績は私の下だったかwwwごめんねwww?」
「そこまで言うなら教えてもらおうかね」
ここまで煽っておいて大したことを悟っていなかったら、大笑いをしてやろう。
「NTRって言うのは未来を見せることなんだよ」
「未来?」
「うん。今カノごときでは見せられない楽しい未来をミラカノが見せることなんだ。今カノと四畳半で風呂もなく、汚い畳の上で暮らすよりも、ミラカノとタワマン最上階で、『人がゴミのようだ』って言いながら暮らす方がいいでしょう?私なら後者の未来を見せることができるよ」
夢宮の扱いが酷すぎるのは一体おいて置いて、確かに灰銀の言っていることは一理ある。灰銀と付き合えば輝かしい未来は簡単に描ける。
だとしたら、余計に灰銀に同情する。金城はそんな将来性抜群の女を捨てて、夢宮を選んだんだから。
「おみそれしたよ。今のは確かにNTRの真髄だ」
「でしょう!?私、この方針で『悪女:夢宮』を打倒する方法を考えてみるよ!」
「頑張ってくれ」
灰銀がいつか気付いてくれることを祈って、俺は優しい言葉をかけることにした。
交差点に差し掛かると、冬歩が止まった。
「ごめんなさいね。私はここを左に行くわ」
「あ、うん!告白頑張ってね!」
「ええ。ありがとう、唯煌さん」
ブンブンと手を振る灰銀から背を向けて冬歩が歩き始めた。冬歩の軽快な足取りを見た時、俺は言わなければならないと思ってしまった。
「冬歩!」
「何かしら?」
冬歩が振り返ってきた。
「本当に告白するのか……?」
「ええ。そうよ」
冬歩の瞳には覚悟が見て取れた。もう、俺が何を言っても止まらないだろう。それなら俺も覚悟を決めるべきだ。
「頑張ってこいよ。うまくいかなかったら、骨は拾ってやるから……」
「瑪瑙君……」
灰銀が隣に呟いている。そして、冬歩が俺を見て驚いていた。
「ありがとう。貴方のそういうところ。大嫌いよ」
「嫌いなのかよ」
そこは好きっていう場面だろうが。
「そうだ唯煌さんに言い忘れてたわ」
「何かな?」
「私の書いた小説読んでくれるかしら?悩みへの解答は文章に綴ることにしているの。私口下手だから、文字に起こすことしかできなくて……ごめんなさいね」
「冬歩ちゃん……まぁせっかく書いてくれたんだし、見ておくよ」
「ありがとう」
イイ感じにまとめているが、『灰銀チョロ!』って思ってる顔だな、アレは。そもそも、投稿した時点で確信犯だろ。
「それじゃあ行くわ。また、精神高揚部に遊びに来てくれると嬉しいわ」
「うん!また、明日行くよ!いい結果教えてね?」
「ええ。じゃあ、また」
「バイバ~イ!」
冬歩は軽快な足取りで直線を歩いていていく。見えなくなったところで、俺たちも背を向けた。
◇
灰銀の様子が変だ。俺を見ては目が合うと逸らして、灰銀が忙しない。
「何かついてる?」
「い、いや!そんなことないよ!全然」
どうせ、NTR関連の話だろう。話したくなったら勝手に話してくれるだろうから俺は待つだけだ。
「冬歩ちゃん、うまくいくといいね」
「……ああ、本当に」
灰銀が俺を見て驚いていた。何か意外なことを言っただろうか?
「瑪瑙君……やっぱり」
「やっぱりって何だよ……」
「ううん。だけど、先輩からのアドバイス。想いは伝えておかないと後で後悔するぜ?やった後悔よりやらなかったときの後悔はもっと酷いから」
「?忠告ありがとう」
俺に何をしろと言っているのだろうか。意味が分からないがとりあえずお礼を言っておく。
「だから、とりあえず告白してきなって。骨は拾ってやるぜ?友達だし」
「何を言ってるんだ?」
「何って、冬歩ちゃんが好きなんでしょ?今からでも追いかけて告白してきなって」
灰銀の意味深な言葉の意味がやっとつながった。また、酷い勘違いをしている。
「勘違いしているようだから、訂正しておくけど、俺はマジで冬歩に恋愛感情はないよ」
「嘘だぁ。それじゃあ、なんでそんなに苦しそうな顔をしてるの?」
一瞬迷ったが、灰銀も冬歩の被害者だし言っても平気か。
「最近、春樹に彼女ができてな」
「そうなんだ━━━は?」
灰銀の笑顔が固まった。言わんとしていることはわかる。だが、一応、俺は続きを言うことにした。
「しかも、アイツらをカップルにするために、俺は、その、春樹の彼女の方を応援しててな。いや、くっつくとは思わなかったんだ。だけど、彼女が想像以上に頑張って、その、カップルになりまして、はい」
「……」
「つまり、死ぬほど、冬歩に恨まれるのが確定しているというか……」
「……」
灰銀は無言で無機質な瞳を俺に向けていた。
「だけど、まだ希望の光があるんだ。冬歩と春樹が結ばれる可能性だってなきにしもあらずだろ?」
「いや、ゼロだろ」
寝取りを狙う女が希望を完全に打ち消した。
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