第25話

灰銀が晴れて俺と同類となったところで、俺たちは帰ることになった。俺はチャリ通学だが、灰銀と冬歩は歩きだ。帰り道は意外と重なっているので、途中まで一緒に行くことになった。


「う~」


「諦めなって。冬歩に相談しようとした時点でこの未来は決まっていたんだよ」


警戒心Maxな灰銀が俺を挟んで、冬歩を見ている。アレだけのことをしでかしたって言うのに冬歩は全く悪びれる様子がない。とんだ悪党だ。


「瑪瑙君……知ってたんでしょ?」


「何が?」


ジト目で見られる。


「私が小説のモデルになることだよ!気付いてて冬歩ちゃんを止めなかったでしょ!?分かってるんだからね!?」


「それは冤罪ってものだ。俺は灰銀さんが真剣に悩みを相談しているからそれを尊重しただけだよ。小説のモデルになったのは結果論でしかない」


「嘘だ!その顔は悪いことを考えてる人の顔だもん!」


そんなことを言われても困る。俺は灰銀のためを想って何も言わなかったんだ。すると、冬歩が上品に笑った。


「瑪瑙を責めないであげて頂戴」


「冬歩ちゃん……?」


灰銀の警戒心はMaxだ。猫みたいに威嚇しているが無理もない。まさか自分が小説のモデルになるなんて夢にも思わなかったのだろう。


「瑪瑙は私のことが大好きなの。貴方がモデルになった小説が読みたくて仕方がなかったのよ。ね?」


「コメントは差し控えるが、俺は『魚屋通いの猫』さんが好きなだけだよ」


「つまり、冬歩ちゃんが大好きなんじゃん!なんだよ、このバカップル!私のフラれた話を出汁にしてイチャイチャしやがって!」


「「カップルじゃない」」


「声も揃えておいてそれは無理があるってもんだろうが!」


このヒドイン、五月蠅すぎるぞ。


どうやって黙らせようか考えているとボールがバウンドする音がした。


「ん?」


振り返ると、そこには春樹がいた。


「あ、春樹「兄さん!」グへ!」


声のした方を見ると春樹がいた。灰銀が話しかけようとしたら、冬歩に灰銀が吹き飛ばされた。なんというか、残念度がますます増してるな。このスーパーアイドル。


一言くらい謝ってやれよと思うが、今の冬歩には春樹しか視界に入っていないのだろう。


「どうしたの?もう部活終わり?」


「いや、瑪瑙と冬歩が見えたから、挨拶に来ただけだよ」


「うん!今日も私と瑪瑙は仲が良いわ。ね?瑪瑙?」


「ソウダネー」


心にも思っていないことだったので、棒読みになってしまった。そして、俺のことを忘れて、冬歩は春樹と話し始めた。


袖が引っ張られる。後ろを見ると灰銀がいた。そして、冬歩に指を向けて、無心で俺を見てきた。


「誰アレ?クールが里帰りしてんぞ?」


謎の語彙センスを発揮するなよ……


灰銀が冬歩と春樹に聞かれないような声量で俺に聞いてきた。


「見ての通りだよ。冬歩は春樹の前でだけは猫を被るんだ」


ちなみに灰銀の判断は正しい。もし、冬歩の本性が春樹に知れると、翌日に報復される。春樹に冬歩の本性を何度ばらしてやろうかと思ったが、怖くてやっていない。


「ねぇ、兄さん。瑪瑙から聞いたんだけど、今日、夜遅くなるの……?」


「あ、ああ」


春樹が俺を見ている。どうせ、俺を『精神高揚部』に行かせる方便だったのだろう。すると、冬歩が分かりやすく落ち込んだ。


「今日は早く帰ってこれない?大事な話があるの……ダメかな?」


灰銀が冬歩を指さしながら俺を無心で見てくる。


「マジか。分かった。部活が終わったらすぐに帰るよ」


「うん!ありがとう、兄さん!大好きだよ?」


「ははは、俺も大好きだよ」


灰銀が(ry


「春樹先輩!どこでサボってるんですかぁ!」


大きな声が聞こえてきた。後輩マネージャーの叶だろう。


「あっ、いけね。サボってるのがバレちまった。それじゃあ、またな」


「うん!頑張って!」


冬歩は完璧な笑顔で、春樹を見送った。そして、俺たちの方を見ると、


「さて、帰りましょうか」


いつものクールな冬歩が戻ってきた。おかえり。

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