第24話
灰銀と二人で何とか冬歩の誤解が解いた。始まる前からなぜ、こんなに疲れなければならないのか……
ようやく相談スタートだ。
「実は好きな人がいたんだけど、彼女がいるってフラれちゃって」
「そうなのね」カタカタ
「私はミラカノ、とはいえ、今カノに嫉妬しないわけではないの。だから、できるだけ早く私の元に帰ってきてほしいんだけど、今カノと仲良くしてて……」
「なるほど、ミラカノとしては今カノが彼氏君と仲良くしているのは許せないわね」カタカタ
『今カノ』の反対って『元カノ』じゃなかったのか。未来の彼女、略して『ミラカノ』。生まれてはじめて聞いたぞ。
それにしても、ツッコミ不在だと、会話が無法地帯過ぎる。冬歩も光速のブラインドタッチに熱中していないでその辺ツッコめよ。
「そうなんだよ!だけど、私もどうすればいいのか分からないの。私はTier1筆頭人権キャラだけど、今カノは戦闘力5のゴミヒロインなんだよ!?何もかも勝っているのに、私は金城君の彼女になれないの!私は一体どうすればいいの!?」
「そうねぇ。これは難問だわ」カタカタ
灰銀もヒートアップしてきたのか身を乗り出して机を叩き始めた。
「金城君はイマカノに夢中だし、私のことが大好きな瑪瑙君は私の心を揺さぶってくるし、私、もうどうすればいいの!?夜も八時間しか眠れないし!」
「俺を巻き込むなって。後、よく寝れてるじゃん」
悩み相談だからツッコまないように我慢していたが、俺を巻き込み始めたのなら話は別だ。
「瑪瑙君は黙って聞いてて!私は進条さんに話をしているの!」
俺必要ないし、帰っていいかな?
「とりあえず瑪瑙は死刑ね」カタカタ
「なんでだよ」
「異議なし!」
「黙れ、ヒドイン」
「ヒドイン!?やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ!」
やっべ。ついにバレてしまったか。
「そんなことより、冬歩。灰銀さんの悩みは解決しそうか?」
「そんなこと……?」
俺に矛先が向いてしまったが、無理やり冬歩に話を戻す。人気小説家にすべてを託せば、良いことを言ってくれるだろう。
「そうねぇ。私の中で答えは定まったわ」カタカタ
「え?早く教えて!今すぐ金城君を寝取ってくるからさ!」
「落ちつけよ」
それにしても、そんなに都合の良い答えがあるのだろうか。人気小説家に期待を寄せる。
「でも、これは私の口で言ってはいけないものなの」カタカタ
「そ、そんなぁ」
灰銀が絶望していた。この答えは予想できたので、驚きはない。
「そもそも答えは唯煌さんは既に持ってるはずよ」カタカタ
「え?」
「答えは教えてあげられないけれど、ヒントはあげられるわ。胸に手を当てて眼を閉じて見なさい。そして、心の声を聞くのよ」カタカタ
「私の心……」
灰銀が自分の胸に手を当てて、目を閉じる。心の声でも聞いているのだろう。一分くらいそうしていただろう。その間、冬歩のブラインドタッチの小気味の良い音が響く。すると、スッと灰銀が瞳を開いた。
「うん……」
灰銀の顔つきが変わったので、俺も少し興味が出た。
「何か分かった?」
「いや、じぇんじぇん」
「何を聞いてたんだよ」
思わせぶりな態度はやめろ。ズッコケそうになったわ。
「でも、やることは決まったよ。私はNTRに励むだけだってね」
「それでいいのか?」
「うん。私、欲しいものは妥協できないんだ」
「そうかい……」
悩みが消えたようで何よりだ。ただ、結論としてやることは何も変わっていないらしい。
「冬歩ちゃん、ありがとうね。おかげで、悩みが消えたよ」
冬歩を名前呼びしている。灰銀の中で冬歩の評価が上がったらしい。
「そう。けれど、私は貴方の話を聞いていただけよ。貴方は勝手に自分の問題を解決したの」カタカタ
「本当にな」
悩みを解決って言うから何をするのかと思ったら、本音を聞くだけだった。いや、実は人間の悩みなんて口にしたら、どうでもいいものだらけなのかもしれない。
「いやあ、本当に楽になったよ。お礼に何かしたいんだけど、して欲しいことある?金は唸るほどあるから、どんどん言ってよ」
「現金で解決しようとするのはは良くないからやめなさい。それに金を払う必要どころか冬歩にお礼を言う必要すらないぞ。なぁ、冬歩」
ブラインドタッチが終わると、俺のスマホに通知が来た。
「ええ、そうね。とっても素晴らしい時間だったわ」
「え?そう?だけど、私が愚痴を言っただけだよ?」
「いえ。素晴らしかったわ。スーパーアイドルと話せる機会なんてめったにないもの」
「えへへ。いやぁ、私、元スーパーアイドルだもんね。そうかそうか」
「そうね。とっても素晴らしい時間だったわ」
冬歩がとってもいい笑顔をしている。俺は蚊帳の外だから、スマホに入った通知を見ると、俺の予想通りだった。
━━━冬歩は冬歩だってことだ。
「それにしても、冬歩ちゃん、さっきからパソコンで何をしてたの?」
「そんなの決まってるじゃない。患者のメンタル状態を記録してるのよ。もし、唯煌さんみたいなひとが来たらそれを参考にできるじゃない」
「お、おお。本格的だね」
灰銀が驚いているが、そろそろネタバラシをしてあげないと可哀そうだろう。
「嘘をつくなよ。冬歩」
「あら?何かしら?」
「嘘ってなんだよ!瑪瑙君」
「だって、灰銀さんの今の話が冬歩の小説投稿サイトに載ってるぞ?」
「え?どういうこと?」
灰銀が人に見せてはいけない顔をしている。俺のアカウント名でブックマークしている『魚屋通いの猫』さんに新着の短編小説が更新されていた。俺はそのタイトルを灰銀に見せる。
「タイトルは、なになに~、え~と『枯れた俺とアタオカお姫様~国民的アイドルがフラれていたので慰めたら、友人から始めることになりました~』……おい、なんだこれは……?」
ギギギと首を動かしながら冬歩と俺をを見た。
「何もクソもないよ。灰銀さんも俺と同じく冬歩の小説のモデルにされたんだよ。ご愁傷様です」
冬歩は悩み相談なんてする気はない。むしろ悩み相談に来た奴を小説の参考にすることしか考えていないはずだ。だから、ここに来たくなかったんだ。
「冬歩ちゃん……?」
「だから言ったじゃない。お礼なんていらないって。とってもいい小説が書けたわ。もう、100ポイントも行ったわよ?」
ちなみに俺もポイントを付けた。中身は後で見るけどどうせ面白いに決まっているんだ。
「騙したのか……!?」
「人聞きが悪いわね。私は貴方の悩みを聞いてあげたでしょう?だから、これは正当な報酬よ」
「この悪魔めええええええええええ!」
本日二回目の。灰銀の絶叫が響き渡る。
━━━ようこそ、灰銀。『進条冬歩の被害者の会』へ
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