第22話
「灰銀唯煌です!アイドルやってました!よろしくお願いします!」
「存じているわ。けれど、こうして話すのは初めてね。
「あ、じゃあ、そうする~。よろしくね。進条さん」
「ええ、唯煌さん。さて」
灰銀と親交を交わした冬歩が俺を見てきた。
どんな奴であったとしても、挨拶をしないというのはいただけない。
「久しぶり」
「どちら様……?」
不思議そうな顔をして俺を見てきた。
「俺だよ、
「私の知り合いに『俺』なんて人はいないわね。人違いじゃないでしょうか?」
「そっちじゃねぇよ……」
冬歩との会話は疲れる。さっさと用事を片付けて、話を終わりにしよう。
「春樹から伝言。今日は部活の奴らと飯を食ってくるから夕飯はいらないってさ」
「その程度のことなら瑪瑙に伝言を託す必要はなくないかしら?」
そこだけは百パー同意。
「さぁ、春樹の意図は分からん。ってか名前覚えてるじゃねぇか」
「あら、うっかりしてたわ」
冬歩との会話は疲れる。どうして、俺の周りには普通にコミュニケーションが取れる人間がいないのだろう。
ビジュアルもいいので、美人小説家としても売れているようだ。
ついでにうちの学校の生徒会書記だ。
「……楽しそうだね、瑪瑙君」
灰銀がジト目でこっちを見ていた。
「ごめん、存在を忘れてた。後、楽しんでない」
冬歩と話していたせいで、周りが見えなくなっていた。
「ほーん、瑪瑙君、君は私の心を揺さぶる天才だね。特に怒り方面に」
「だから、悪かったって。そんなことより、冬歩に悩み相談があったんだろ?」
「そんなのどうでもいいよ!」
じゃあ帰ろうぜ。悩み解決したじゃん。
「瑪瑙君、進条さんに会うのめっちゃ嫌がってたじゃん!それなのに、会うやいなやイチャイチャ、イチャイチャ!私は一体何を見せられとんねん!ちゃんと関係を教えろや!」
「イチャイチャなんてしてないし、誤解だ」
灰銀は何が何だか分からないが、怒り心頭なようだ。
「とんでもない風評被害だから、しっかり誤解を解いておくわね」
「頼む。俺から説明するよりもいいだろ」
俺よりも現役売れっ子小説家の方が説明に説得力があるだろう。
「瑪瑙は私のことが好きなのよ」
「おい待て」
「ほら!」
いきなり嘘を教えるな。後、『ほら』ってなんだ。
「あら?中学時代に、私を見て欲情してたのは誰だったかしら?」
「え?瑪瑙君……?」
「誤解だ」
中学生の頃に冬歩に見惚れたのは事実だ。可愛い子がいるなぁと思って後ろ姿を眼で追っていたら、冬歩だったというだけだ。その時に照れたりしなければこんな目に合わずに済んだのに……!
それにしても疲れた。
冬歩に話させると余計なことを言いそうだから、俺が説明しよう。
「俺と進条兄妹は小学生の頃からの知り合いなんだ。春樹とは親友なんだがな」
「親友…ゴク」
その、ゴクっていうのは聞かなかったことにしよう。『腐』の匂いがするし。
「ついでに冬歩と知り合ったというだけ。別にそれ以上でもないし、それ以下でもない」
「はい、ダウト!それだけなら、進条さんと仲が良いことの説明になっていないと思います!」
「仲は良くない」
が、余計なことだけ鋭い。ヒドインのくせに生意気だ。
「瑪瑙の言った通りよ。訂正するとしたら、私は瑪瑙のことが大嫌いなのよ」
大嫌い……
冬歩に言われても、何もショックは受けないが、無性に腹が立つ。
「でも、兄さんがこの男を気に入ってるの。だから、仕方なく関わってあげてるの」
「俺も春樹の顔を立てて、仕方なく付き合ってやってるんだよ」
「あら?ツンデレかしら?」
「その属性付けはやめろ」
「……仲、良いじゃん」
灰銀が全く納得しないが、これ以上話すと色々不味い。強気に出ているが、冬歩は俺キラーだ。
「本当に何でもないのよ?瑪瑙が私の小説の登場人物のモデルになってるとか、私の小説のファンで書店特典は全部買うとか、私のサイン会に来たとかそれだけの関係なの」
「言うなよ!マジでやめてくれ!」
「え?大好きじゃん」
違うんだって……これがあるから冬歩に会いたくなかったんだよ……
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