第12話
イートインスペースにはTier4状態の灰銀がいた。俺を見ると、責めるような視線を送ってきた。
「遅いよ」
「面目ない」
「うん、これでいいかな」
一区切り着いたのかノートを両手で広げて、満足そうに頷いた。
「何を書いていたんだ?」
「夢宮桃花と私のステータスを書いてたんだよ」
また、訳の分からんことを……
「ネムレス君、今から質問するから、私か夢宮桃花か二択で答えて」
「まぁいいよ」
「それじゃあ質問。ルックスがいいのは?」
なんだこの質問……?
「灰銀さん」
「カリスマ性があるのは?」
「灰銀さん」
「綺麗な声なのは?」
「灰銀さん」
「運動神経が良いのは?」
「灰銀さん」
「世間的に好かれているのは?」
「灰銀さん」
「頭が良いのは?」
「灰銀さん……かな?」
「……おい、なぜ答えに詰まった?」
「悪い、喉の調子が悪くて」
直近では、少し疑っているのが態度に出てしまった。灰銀は調子を取り戻して、再び質問を始めた。
「性格が良いのは?」
「え?夢宮「私ね」おい……」
試験官が不正を始めた。
「そんで、金城君を一番好きなのも私。なんだぁ。私の方が夢宮桃花よりも全部優れてるじゃん」
俺にノートを見せてきた。『正』の字が灰銀側に書かれていた。途中、不正をしていた気がするがやぶ蛇になりそうだから、何も言わないでおく。
「でもさ。フラれたのは私なんだよね……」
ノートをパタンと閉じた。
「……私さ、今はこんなんだけど、中学の頃は根暗で声も出せない。目立つのなんて大嫌いな女の子だったんだ」
「嘘でしょ?」
思わず出た言葉が出てしまったが、俺はすぐに口を閉じた。今日は失言が目立つ。
「嘘じゃねぇんですよ。私、根はめっちゃ陰キャなんだぜ?」
ほっぺに指を付けて、ニカっと笑う。
「ただ、私の意思に反して髪がめっちゃ目立っちゃってね。ほら、銀髪って中々いないでしょ?そのせいでクラスで浮いちゃってたんだ」
灰銀は水を一杯飲んで、少し心を落ち着けた。
「自分の銀髪が大嫌いだった。何度、坊主にしてやろうかと思ったかな~」
そこまで追い込むほどか……
けれど、それと同時に疑問も浮かんできた。
「何かのインタビューで自分の銀髪が好きって言ってなかった?」
「ほ~流石、私を推してるだけあるね」
灰銀を推したことは一度もないんだが……
少なくとも、ここ数日間で灰銀の評価は大暴落中である。毎日、ストップ安だ。
「そうだよ。今は大好きなんだ。でも、そう思えるようになったのは金城君のおかげなの」
灰銀は自分の髪を愛おしそうに触る。
「私がクラスでハブられてるのを知った金城君が問題を解決してくれたんだ。お礼を言いに行ったときに『俺は灰銀の綺麗な銀髪が好きだぞ?天の川みたいだし。もっと自信を持てよ』って言ってくれたの。あそこでコロっと堕ちちゃったね」
「それは金城がイケメン過ぎるな。男の俺でも惚れると思うわ」
「お?深井ちゃんが聞いたら喜びそうだね~」
「……前言撤回」
あの人の玩具になるのはもう勘弁だ。
「大好きな金城君の隣に立つには今の自分を否定しなきゃいけなかった。ウジウジしている女なんて誰が好きになるんだよって思うでしょ?」
「まぁそうだな」
「自分が嫌いなところを毎日、一つずつ一つずつ、潰して潰して、できることを一つずつ一つずつ、積み上げて━━━私は、日本で一番のアイドルになったんだ」
「灰銀さん……」
「フン!」
灰銀が立ち上がると机を思い切り叩いた。
「私の方が努力したじゃん……!可愛いのも私じゃん!頭も私の方が断然いいし、性格だって私の方が絶対良い!付き合った時、私が彼女だったら、周りの男に嫉妬されるくらい誇れるじゃん!そりゃあ、ちょっと私の愛は重いかもしれないけどさ、確実に幸せにできる自信はあるよ!?」
「灰銀さん……」
周囲の視線を一気に集めてしまっている。俺はなだめようとしたが、全く収まる気配がない。
「全部、全部、ぜ~~~~~んぶ勝ってるのに、なんで私がフラれなきゃいけないんだよ!?私が頑張ってこれたのは、有象無象からの賞賛を得るためじゃない……!たった一人、好きな人から愛されたかったからなんだよ!?」
ひとしきり言い終えたのか力無く椅子に座った。そして、手で顔を覆った。
「恋愛ってなんだよ。攻略法を教えてくれよ━━━私は何をしたら、幸せになれるのかな……?」
「━━━」
俺にも分からない。灰銀は俺の知っている世界では、勝ちが決まっているメインヒロインだ。
才能、努力、運命力、物語、名声……
どのステータスをとっても灰銀唯煌は夢宮桃花に負けていない。
けれど、金城真の世界ではメインヒロインはいつだって夢宮桃花で、灰銀唯煌はモブでしかない。ただ、それだけだ。
━━━現実はつくづく残酷だ。心の底からそう思うよ。
━━━
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