第11話
牛丼の食べさせ合いっこをし終えた金城夫妻は一階のモールでウィンドウショッピングを始めた。主に、夢宮がそれを着て、金城がそれに感想を言っていた。
「ど、どうかな~?」
「可愛いぞ」
「0点。私の方がうまく着こなす」
「これは?」
「大人びた雰囲気になったな。それも似合ってる」
「0点。服に着られている」
「こ、これはどうかな?攻め過ぎかな?」
「ま、まぁいいんじゃないか?」
「0点。エロい格好で金城君を誘惑するなんて死刑に値するね。でも、金城君が好きそうだから、買っておくかな」
スーパーアイドルが死ぬほどうるせぇ……
我を忘れて、夢宮と全く同じ服を購入している。夢宮に対抗しているのはわかるが、それをしても勝てるわけではないと悟ってほしい。
「しんど……」
灰銀が服を購入中、店の前のベンチで休んでいた。自分磨きとか自分をよく見せたいとかそういう欲求がない者にとって、服屋というのは地獄なのだ。毒沼にハマったような気分になる。
「枯水か?」
「ん……?」
やっちまった……
あまりにも疲れすぎていて、隣に金城が座っていることに気付かなかった。
「やっぱり枯水か。俺だよ。同じクラスの金城だ」
そういって、眼鏡を付ける素振りを見せた。俺が金城のことに気が付いていないと勘違いしてくれたようだ。この波に乗ろうか。
「金城か。眼鏡をしていなかったから一瞬驚いた」
「今日は、コンタクトだからな」
仕方がないから偶然を装って自然な会話を試みる。ついでに、スマホの通話ボタンを押した。灰銀なら、俺の意図を理解してくれるはずだ。
「金城は何か用事か?」
わざとらしく聞く。すると、照れくさそうにした。
「実は先週、彼女ができてな。デート中なんだ」
「ああ、クラスの女子が騒いでたな。おめでとうございます。末永くお幸せに」
「なんで、敬語なんだよ。まぁありがとな」
スマホの向こうから呪詛みたいなものが聞こえてくるような気がするが、気のせいだろう。うん。
困った。会話が続かない。
普段、話さないけど、知ってるクラスメイトと話す時はどうすればいいのだろう。天気の話をしようにも、夕方だし。
仕方がない。衝動に身を任せて、聞きたいことをきいてみるか。
「どんな子なんだ?付き合った女の子って」
「え?」
思わず口にした言葉が金城の耳に届いてしまったようだ。俺の馬鹿野郎。
「あ、いや。クラスの堅物委員長がどんな子を好きになるのかって興味が出て」
「お、おお。枯水もそういうことに興味があったんだな」
「ごめん、流石にデリカシーがなさ過ぎた」
金城が少し戸惑っていたので、俺は自身の発言を撤回した。すると、金城が俺を見て、微笑んだ。そして、視線を俺から逸らした。俺はつられて金城の視線を追った。
「あそこにいる桃色の髪の子がいるだろ?アレが俺の彼女だ」
夢宮はショーケースに張り付いて、綺麗なドレスをもの欲しそうに見ていた。
「あの子って確か、図書委員の夢宮さんだっけ?」
「おっ、よく知ってるな」
「一回、本を借りに行ったときに名前を見てな。たまたま覚えてたけだよ」
どっかのスーパーアイドルからの情報源だとバレないように、発言に気を付けなければならない。
「桃花と付き合っているという話は他言無用で頼む。時間の問題のような気がするが、桃花はそういうのが苦手だからな」
「神に誓って」
「ありがとな」
もう既に情報を流しているので、罪悪感が半端ない。心の中で土下座しておいた。
「俺達は家ぐるみの付き合いでな。早い話が幼馴染ってやつだ。俺は幼稚園の頃には好きになっていたと思う」
「早くない?」
「ああ、我ながらチョロいやつだと思う……」
金城が恥ずかしそうにしているのを初めて見た。幼馴染関連は灰銀情報で知っているので、余計なことを言わないように相槌を打つだけにしておく。
「けど、中学に入った時、桃花は女子連中にイジメられたんだ。俺が桃花を好きだからという理由らしい」
ああ、なるほど。金城は昔からモテていたのだ。そんな金城が好きな相手が夢宮だった。嫉妬の対象として色々されたというのが想像できる。
「俺のせいで桃花を学校に来れないようにしちまったのが今でも悔やまれる」
「でも、金城は何も悪くないだろ?悪いのはどう考えても周りの女子だ」
「ああ、そうだな……」
すると、金城はショーウインドーの前で、キラキラなドレスを眺めている夢宮を見ながら、罪悪感を覚えていた。
「けど、好きな女を守ってやれなかった自分が情けなかった。そんな自分を変えたくて、剣道を始めたんだ」
夢宮がこっちに気付いた。そして、控え目に手を振るとこっちに向かって走ってきた。金城もつられて手を振っていた。
「高校進学についても、最初は大反対されたが、『何かあったら俺が守る』って言って説得したよ。あ、今のは忘れてくれ。思わず口が滑ったが黒歴史なんだ……」
「いやいや、黒歴史なんかじゃない。かっけぇよ、マジで」
「枯水……」
好きな女のために、そんなことができる人間がどれだけいるか。俺は金城という人間の凄さを実感した。
「受験勉強は大変だったけどな。何せ、桃花は学校に行っていないんだ。だから、俺が教えたんだぜ?まぁ、その甲斐あって桃花もしっかりうちに受かってくれた」
人にものを教えるには大体三倍の理解が必要というから金城は夢宮のためにそうとう頑張ったのだろう。
「俺としては桃花が高校に入ってからの方が不安だったが、少ないながらも友人はできて、それなりに学校生活は充実しているらしい」
イジメから立ち直るというのは大変なんて言葉で言い表せないほど労力がかかる。一生、心臓に刺さる杭みたいなものだ。それと向き合い克服した夢宮とは関りはないけど、俺は勝手に良かったと思った。
「ありがとな。枯水。お前は本当にいい奴だ」
俺にそう言うと、金城は夢宮の方に向き直った。
「ご、ごめんね!夢中になっちゃった!」
「いや、楽しめたならよかったよ」
丁度、夢宮が金城の元に戻ってきた。そして、金城は夢宮の頭を撫でていた。これ以上は野暮ってものだろう。俺はこの場から退散すべきだ。
「それじゃあ俺は行くわ」
「ああ、待て待て」
金城が俺を呼び止める。夢宮は俺が誰なのか分かっていないのかクエスチョンマークを頭に浮かべていた。
「最初の質問に答えてなかったな。俺は桃花の全部が好きなんだ」
「真君!?」
「またな、枯水。学校で」
「それじゃあ」
金城はそういって駅の方に向かって歩いていった。夢宮は最後に俺の方に一礼してきたので、俺も一応返しておいた。そんな二人を見送っていると、不意に手を繋いでいた。リア充爆発しろとも思ったが、それ以上にうまくいってほしいと願う。
ふいにスマホが震えた。取り出して確認すると、通話が終わっていた。
『イートインスペースで待っておるぞ?』
代わりにLINEにメッセージが届いていた。
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