落ちこぼれ青春群像劇

フリエ エンド

第一章 開幕は突然に

第1節

 「こら、早く起きて!おねぇちゃんもう学校に行っちゃうからね」


 薄めのカーテンを力強く開ける。

 冬が終わり始め、春に近づいてはいるものの、まだまだ寒さは現役だ。

 

 窓の光を感知した孝太郎こうたろうは布団を顔にかけるようにして遮断する。

 

 「もう、遅刻しても知らないからね!」

 

 弟の部屋にかけられているアナログ時計は6時を少し回っている。毎日起こしには来ているものの、本当に遅刻せずに学校に行っているのか、私はわからない。

 けど、もう弟も早いもので中学二年生で、中学校からお怒りのご連絡はないし、多分大丈夫だろう。


 私は高校指定のサブバックに昨日準備しておいたジャージを突っ込むと、ローファーに履き替える。黒色で、ところどころ傷んでいて白い線が目立っている。

 高校入学時、親戚の娘さんが使わなくなったからといただいたもので、ちょっと大きいけどきついよりは全然マシだ。


 玄関にかけてある鍵をとる。私のは赤色のダルマのキーホルダーがついてるやつで、弟は黄色のダルマだ。中には鈴が入っており、よく弟が振り回してうるさいと叱っている。背中には「必勝」の文字。孝太郎はテニスをやっているからとして、私は特に部活をやっていないから、何に勝つのか不思議である。

 

 家を出ようとして、ガスの元栓を切ったか気になってしまう。このタイミングに気になってしまうのはなぜなのだろう。自転車に乗っちゃえば、いいやと思えるが、今なら確認をするべきだろう。

 一度履いたローファーをあっさりと脱いで、キッチンに向かう。お弁当をさっきまで作っていたので、ガス周りは少し温かい。確認してみると、しっかりと捻られていた。さすが、昔の私。

 

 どうでもいい確認作業に時間を取られてしまった。今度は何も思い出さないように、視界を極力塞ぎながら、行ってきますと言ってさっさと家から出る。


 相変わらずこの寒さだ。制服の隙間という隙間から寒さが入り込み、私の温もりが逃げていく。太陽はまだまだ本調子じゃないらしく、LEDライトのような白い光の朝を迎えている。

 家の前に止められている、ママチャリの鍵を外す。中学校の時からの付き合いで、私の愛車だ。名前はまだない。

 買った店に持っていくと、無料でチェーンを磨いてくれるので、錆びたりはしてないのだけど、塗装はところどころとれており、そこから茶色く錆び始めている。頑張って雨にも負けずに走って欲しいのだが、現実はそうもうまくいかないらしい。

 

 自転車に跨ると、カゴにサブバックを入れる。チャックを開いて小さな布の感触を探すと、人差し指に反応あり。100均で買った、多分婦人用の茶色の手袋だ。つけてみると、見た目はいいところ売れない探偵だ。探偵業がドラマみたいに売れるのか知らないけどね。

 ただ機能性は抜群で、天と地の差だ。初めてこれをつけて自転車を漕いだあの時、私は手を太陽に向けているのかと思っちゃった。


 オーバーリアクションは乙女の技なのです。


 まあ、そんな感じで私、川瀬ゆいは本日も高校へと向かうのです。

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