集落の午後
白部令士
集落の午後
僕の住んでいる集落には、七軒の家があった。そのうち、人が住んでいるのは、僕の家だけだった。山の方にある一番奥の家には、お婆さんが独りで住んでいたのだけれど、今、五年生の僕が小学校に上がる前に亡くなっていた。
電気も水道も通っていて、ガスはプロパン。自転車で二十分のところにはスーパーだってある。ちょっと寂しい以外は、特に不便は感じなかった。
その日、下校して家の前まで帰ってきた僕は、今朝、鍵を持って出なかったことに気がついた。父さんも母さんも仕事で、家には誰もいない。夕方か夜か、両親のどちらかが帰ってくるまで外で過ごすはめになってしまったわけだ。
一月の終わりで寒い時期だった。納屋で過ごそうかとも思ったけれど、灯りとして裸電球が一つ下がっているだけの場所に長時間いる気にはなれなかった。漬物臭いというのもある。
動いた方が寒くなくなるか。
そんなふうに思って、集落を歩いてみることにした。そう言えば最近、山の方、奥の方へは行っていないな、と。そう、思って。
コンクリートで舗装された細い道を歩き、山の方にある一番奥の家まで行ってみた。そこは当然空き家だった。空き家の筈――だったのだけれど。
人がいた。
見知らぬ男の子と女の子が庭でくつろいでいた。僕と同い年ぐらいだけれど、着物を着ていた。七輪で丸餅を焼いている。
「嬉しいねぇ。人が増えるよ」
「嬉しいねぇ。賑やかになるよ」
そんなことを言いながら、湯呑みに口をつけている。見た目は子供なのに、声や喋り方は老人みたいだった。
「おや?」
女の子の方が、僕に気づいた。
「あぁ、こんにちは。甘酒あるよ、飲んで行くかい?」
「お餅もあるよ。食べて行くといい」
男の子も顔を向けて、そんなことを言う。
この子達は誰なんだろうと思ったけれど、お腹が空いていたこともあり、せっかくなので飲み食いして帰った。
長居したつもりはなかったのに、自分の家に戻るともう夕方だった。母さんが帰ってくる。
夕食後や寝る前、男の子と女の子のことを両親に話してみたけれど。話半分といった感じの受け止め方をされてしまった。確かに、話していると、自分でも少しおかしなことを口にしている気になった。
それでも、春、新学年になって、本当に集落に新しい人がやってきた。男の子達が庭でくつろいでいた――山の方にある一番奥の家に住んでいたお婆さんの孫とその娘だという。
(おわり)
集落の午後 白部令士 @rei55panta
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