第19話
建物のそばに行かなくても、分かった。
現場は、間違いなくあのアパートだった。
たくさんの報道陣が現場の周りに陣取っている。
ボクは今まさに中継していると思われる女性リポーターの近くに行った。
「…ご覧頂いてお分かりの様に、アパートはどこにでもあるような閑静な住宅街の中に建っています。現場となった二階の奥から2番目の部屋は、現在も鑑識活動が続いていると思われます。また、このアパートに住む別の住民の方によりますと、現場となった部屋の郵便受けにはチラシなども溜まっておらず、『事件発生の報道があるまで、部屋には人が居ると思っていた。こんな身近で事件が起きるなんて怖い。早く犯人が捕まって欲しい』と話しておられました。以上、現場から佐伯がお伝えしました」
オッケーと男性の声がしてリポーターは力を抜いた顔になる。「ちょっと、早くお茶!」と言う態度がテレビで見るイメージと違って驚いた。
いや、それより。
さっきのレポートの中で腑に落ちない事を言っていた。
『郵便受けにはチラシなども溜まっておらず』
彼女はたしかにそう言った。
おかしい、とボクは思った。
チラシはともかく、ボクはアパートを最後に出る時、隣人の郵便受けに手紙を入れたのだ。チラシなどがその後に入れられたかも知れないが、溜まっておらず空になっていたということは、誰かがそれを持ち去ったと考えられる。誰が。何の目的で。
それに、郵便受けにあの手紙が入っていたならば、何かの手がかりとして警察も取り扱うはずだ。だがそのような報道は、スマホのニュースを見てもどこにも載ってない。
彼が亡くなった、或いは殺されたとしたら、それはいつなんだ。ボクは色んなニュース欄を探してようやく死亡推定時刻を見つけた。
その日は、ボクが最後に滞在した日。時刻は、ボクが物音と彼の大声を聞いた夜だった。
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