第14話
「どうした?幽霊にでも会ったような顔してよ」
ボクは呆然として声が出ない。
何だ。何なんだ。何故だ。何がどうなってる
んだ。
テーブルを挟んでボクの向かい合わせに座り、世話役の男と「ご苦労さん」「早かったな」などと会話を交わしている。
ボクは目の前にいるおじさんが本当に幽霊なのではないかと、まだまばたきもせず見つめていた。
「心配すんな、ホンモノだ。昨日も部屋で一人で飲んでた」
ニヤニヤする隣人と、やや真剣な眼差しの世話役の男。彼は自分の事を明かした。
「俺はこう見えて普通の一般人だ。まぁ、昔はちょっとヤンチャしてた時期もあったけどな。罪人を匿ったり、売り飛ばす様な闇仕事はやってない」
サングラスを外して、彼はまっすぐ目を見て話した。
「ある人物から依頼されて、この爺さんと一芝居打った。まぁ協力者は他にもいるがな」
男はテレビをつけた。
画面に映し出されたのは、ボクが驚愕したあのニュース映像だ。
「これは俺たちが作ったフェイクニュースだ。どこにも流れねぇ。このテレビにだけ映る仕組みになってる」
よく見てみると、確かに素人が作った物に見えなくもない。ただあの時は混乱して、これが本物のニュース映像だと疑わなかった。
隣人がタバコに火をつける。
「あんたは俺を殺してねぇ。それどころか、世間に隠れて生きなきゃなんねぇ事も何一つやってねえ」
ふぅ~っと煙を吐き出してニヤついた顔で言った。
「つまり、まんまと騙されたってわけだ」
「おい、言葉に気をつけろよ」
世話役の男に制されて隣人は顎を突き出して眉を上げた。
ボクは、騙された…のか?一体、なぜ。
誰が、こんな。
ボクの様子を見て、世話役男が口を開いた。
「なあ、あんた。確かに騙された事に違いはねぇんだが、それはあんたをハメようとして悪意でやったわけじゃねえ。落ち着いて聞いてくれ」
ホッとすると怒りが湧いてくる。それを分かっているのか、男は落ち着いて話し始めた。
「まず、今回俺たちに依頼をしてきたのは真人間だ。そしてその人物は、あんたの行く末を危惧してた」
どういう事かと、声に出せずにボクは顔で訴える。
「あんたは酒が好きだ。時々自分を見失っちまうぐらいにな。飲み過ぎて記憶がないなんて、一度や二度じゃ無いだろう。そしていつか、もしかしたら今回みたいな事を、マジでやらかしてたかも知れねえ。違うか?」
男に言われて、ボクは自分を振り返ってみる。
血まみれの死体を見て、傍にゴルフクラブが転がっていた時、これは夢だとか何かのドッキリだとは思わなかった。ついにやってしまった、と思ったのだ。
「依頼人は本気であんたを心配してた。誰かを傷付けないにしても、自分の覚えのない所で命を落とすかも知れないってな。それで相談を受けた俺は、協力者をあたって今回の計画を立てた。まあこの爺さんに会うのは初めてだったがな」
「じいじゃねえ!まだ70前だぞ!」
「ニュースの映像も協力者達に作ってもらった。素人だが、映像に詳しい奴も居たからな。あんたを外に出さないようにしたのは、このトリックが薄っぺらくてすぐバレるおそれがあったからだ」
その薄っぺらいトリックを見抜けず、ボクはここに、半ば監禁されたようなものだ。だが、彼らに恨みは無かった。そしてその依頼人にも。
むしろボクの事をそこまで思ってくれて、こんな大掛かりな事までしてくれた事に、感謝していた。
ボクがお人好しじゃなくても、そう思っただろう。
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