第12話
ボクの世話人の男は、あれから姿を見せない。
きっと同じように世の中から逃げ惑う人を、今日もまた別の所で匿っているのだろう。
助かった、という妄想を抱かせて。何と引き換えにさせるつもりなのか。
また現実から逃避したくなり、ボクはテレビをつけた。どこかの市場で大安売りの話題を、名前も知らないタレントが大袈裟な程に盛り上げて伝えている。
場面が変わり、地方の局に切り替わった。地域によってはそのままスタジオにカメラが戻ったりする時間だ。
殺風景なスタジオをバックに、派手さのない女性が「ここでこの時間のニュースをお伝えします」と口にした。
リモコンから離れていたボクは(まずい!)と思って反応したがわずかに遅く、
「まずは現場からお伝えします」の声に続いて見覚えのある建物が映し出された。
ボクは硬直したまま画面を見つめる。どこかで見たような男性がマイクを片手に喋り始めた。
「えー現場ではこのように、警察による規制線がまだ引かれたままとなっています。近所の方によると、被害者はひとり暮らしをしており、周囲との交流はほとんど無かった模様です」
女性アナウンサーの声が画面に重なる。
「亡くなったのは、このアパートに住む吉田 武さん71歳で、何者かに頭を強く殴られ、失血により死亡した模様です。警察では、隣に住む住人と連絡が取れなくなっており、何らかの事情を知っているとみて、捜査を続けています」
ボクは呆然としたままテレビを消した。
亡くなったのは、吉田武さん。亡くなったの
は。亡くなった……。
ボクは隣人の、何故か笑った顔が思い浮かんだ。
やっぱり、亡くなってしまったんだ。ボクが、ころしたんだ。
―――警察では、隣に住む住人が何らかの事情を知っているとみて……。―――
きっと警察は、ボクが殺して逃げているとほぼ断定しているのだろう。これでボクは、逃亡者であり殺人犯になってしまった。
泣いても泣いても、涙が止まらなかった。
申し訳無さ、不甲斐なさ、不安、家族の事。
なんでこんな事になってしまったのか。
なんでこんな事に…。
その日は1日中何もする気が起きなくて、届けられた弁当にも手を付けなかった。
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