第11話

 朝8時。

「ピンポーン」という玄関のチャイムで目が覚めた。チャイムはそれっきりでノックもされない。一応ついてるドアスコープから外を伺うが、誰も居ない。

おそるおそる解錠してドアを開けると、発泡スチロールで出来た箱の中に弁当とお茶が入れてある。

今日の朝食という事か。本当に三食用意してくれるらしい。ボクはそれを抱えてドアと鍵を閉めた。


テーブルの上の弁当を開けると、なかなか美味しそうなメニューだった。ボクはじっくりそれを眺める。

彼らはボランティアではない。何かしら利得があって動いているのだ。それが依頼人の報酬なのか、ボクのこれからの働きなのかは分からないが。

これからどうなるのか不安はあるが、お腹だけは変わらず空いている。

マズいと言われる刑務所のご飯よりはマシなんだろうと思いながら、ボクは手を合わせて「いただきます」と弁当を食べ始めた。

思ったより美味しい。せっかくレンジがあったのだが、そこまで気が回る余裕は無かった。


朝ご飯を食べ終えて、部屋にあるものを見回す。

ひとまず生活に困らないものは揃えてあるし、窓から外も見える。何となく心配で開けはしないが。

あまりにも退屈で、テレビをつけてみる。アドバイスされた通り、ニュースは避けてチャンネルを変える。ワイドショーなども観ないようにした。

「ひとり暮らしの老人が何者かに殺害され、犯人は現在も逃走中です」

などという報道をみたら身が縮むだろうと思ったからだ。

いつもは全く観ない様なつまらない番組が、ボクの非日常的な今を少しでも和ませてくれた。

ただの山や風景を流しているだけの番組が、驚くほど胸をいっぱいにしてくれて、自然と涙が出た。

いつか、もしまたいつか日常に戻れたら。あの美しい山々をただ無心で登ってみたい、そう思った。



何をするでもなく1日を過ごし、現場はどうなってるだろう、家族はどうしているだろうと考えると憂鬱になってきた。


本当に、どちらが良かったのだろう。


あのまま救急車を呼んで、もしかしたら助かったかも知れない命を失わせる事なく、警察に逮捕され、然るべき刑罰を受ける。

 

アルコールが残っていて、突然の事で正常な判断が出来なかったとはいえ、ボクは本当に家族の事を考えて決断したのだろうか。

どんなに誤魔化しても、自分に嘘はつけない。

 ボクは怖かったのだ。

目の前の現実を受け入れられず、ただ逃げ出したのだ。非常時にこそ、その本心が、真実が浮き彫りにされる。弱くてだらしなくて無責任で自分勝手な、憎たらしい自分が。

今、このドアを開けて警察に自首しても、どこに居たのか追求されるだろう。ここに匿った彼らがどういう行動を起こすか分からない。ボクは選択を、判断を誤ったのだ。

飲み過ぎて怒られた時の様に。もっと真剣に顧みるべきだったのに。


 もう、戻れない。

 ボクは逃亡者だ。

 自分自身からも逃げ出した、愚かな弱虫だ。


 

 

 

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