第37話 待ち伏せ

 ダイたちは藤堂の案内でトクシツが係る三下高原の施設の近くまで来た。だがそんな建物は見えない。


「どこにある?」

「魔法で隠されているんだ」


 藤堂が説明した。そこは巧妙に遮蔽魔法で隠されているようだ。そのまま進むと急に景色が変わり、古い倉庫が見えてきた。


(あれか!)


 ダイは辺りを見渡した。特に罠らしいものはない。見張りもいないようだ。


「このまま行くぞ! ごく自然に・・・」


 ダイは皆にそう言うと、倉庫のドアを開けて中に入った。


(誰もいないのか)


 倉庫の中は薄暗く、不気味なほどに静まり返っていた。様々な装置や木箱が積み上がり、イスや机が置かれている。先ほどまで人がいた気配はある。

 藤堂と森野刑事、そしてナツカとロークもダイに続いて中に入って来た。想像していたのと違う状況にナツカたちは戸惑っていた。


「ここなんでしょうね?」

「ああ、ここだ」

「誰もいないのはなぜ?」

「そんなこと、知るもんか!」


 ナツカの質問に藤堂はそう答えていた。すると後ろのドアがバタンと急にしまった。


「しまった! 罠だ!」


 ダイは声を上げた。すると天井のライトがパッと点灯し、5人をまぶしく照らした。あわててナツカがドアのところに行って開けようとするが、すでに施錠され開かなくなっている。


「よく来たな! その度胸だけは誉めてやろう!」


 カート室長が現れて階段から降りてきた。


「どうしてここに?」

「ふふん。おまえたちの動きなど、とうにつかめているわ! 漏らすことなくとらえるためここで待っていた。もちろん公用団地に残った奴もこの後、つかまえにいく」


 カート室長は余裕の笑みを見せていた。


「お前たちがしてきたことはこの藤堂が話した。観念しろ!」

「それがどうした? おまえたちはすでに我らの虜だ。それ!」


 すると周囲から6人の監察警官が現れた。身構えながら近づいてくる。ダイたちは絶体絶命のピンチを迎えていた。


「まずは!」


 カート室長が右手を伸ばした。すると藤堂の手錠が外れて自由になった。慌てて取り押さえようとする森野刑事を藤堂は殴ってのけぞらせ、膝蹴りで叩きのめした。そしてカート室長のもとにゆっくり歩いていく。


「ナツカ! ローク! 行くぞ!」

「はい!」


 ダイたち3人は迫りくる監察警官に向かって行った。この接近した状況では魔法を繰り出す余裕はない。キックやパンチ、組技を駆使して肉弾戦を挑んでいくしかない。それぞれが2人ずつ、精鋭ぞろいのトクシツの監察警官と相対することになる。

 その不利な状況にもかかわらず、ダイたちは善戦し、3人の監察警官を倒していた。それをカート室長は不気味な笑みを浮かべて眺めていた。


「なかなかやるな。それでは少し手助けするか。グラビティーウエーブ!」


 カート室長が右手を伸ばした。その手から放たれた重力波はナツカを直撃した。


「うわあ!」


 ナツカは吹っ飛んで壁に叩きつけられた。


「ナツカ!」


 ダイが叫んだ。ナツカはかなりのダメージを受けて立ち上がれそうにない。


「次はどいつだ!」


 カート室長はロークに狙いをつけていた。ダイは叫んだ。


「ローク! ナツカを連れて逃げろ!」

「ですが、班長!」

「俺のことはいい。すぐに戻ってミオたちに伝えるんだ! ここは俺が引き受ける!」


 そう言われてロークはまだ迷っていた。するとカート室長の重力波が放たれてきた。


「結界!」


 ロークはなんとかはね返した。だが背後から監察警官が襲ってきた。


「うわっ!」


 その監察警官が声を漏らして倒れた。ダイが後ろから飛び蹴りをしたのだ。そしてソニックブラスターを倉庫の壁に放ち、大きな穴を開けた。


「さあ、行け!」

「は、はい!」


 ロークはナツカを肩に担ぎ上げた。そうはさせじと残りの2人の監察警官が追いかけようとする。だがダイが前に立ちふさがってパンチとキックで叩きのめしていった。


「見事だ!」


 カート室長は余裕綽々で手を叩いていた。


「次はおまえだ!」


 ダイはカート室長にまっすぐに向かって行った。この男さえ倒せば、何もかも解決すると・・・。だがカート室長は呪文を唱えて右手をダイの方にのばした。


「グラビティウス!」


 それはダイの体に重しとなってのしかかった。ダイは膝をつき、そして両手をついた。体にかかる重さで身動きが取れない。


「班長!」


 ナツカとともに穴から出ようとしていたロークが声を上げた。ダイは苦痛に顔をゆがめながら叫んだ。


「いいから行け! 行くんだ!」


 ロークは後ろ髪引かれる思いだったが、それを振り切ってそのまま穴から出て行った。ダイはそれを見て安堵して気を失い、そのままうつぶせに倒れ込んだ。


「ぶざまだな!」


 カート室長が階段から下りてきて、ダイの頭を靴で踏みつけた。監察警官たちは逃げたロークたちを追って行こうとした。だがカート室長は右手を上げ、「放っておけ!」と追うのをやめさせた。


「どうせ帰るところは同じだ。残りの奴らも捕らえてやる。待っていろ! フフフ」


 カート室長は不気味な笑いを浮かべていた。


 ◇ 


 ダイの部屋で沙羅とミオがみんなの帰りを待っていた。


(ダイ。無事でいて・・・。みんなも・・・)


 沙羅は心の中で祈っていた。そこに呼び鈴が鳴った。ミオが警戒しながらドアを開けると、そこにロークとナツカがいた。2人とも傷つき、特にナツカはロークの肩につかまらないと歩けないほど弱っていた。


「何があったの?」

「やられた・・・」


 ロークはそう答えるのがやっとだった。玄関の様子を奥からのぞいていた沙羅も出てきた。自分の悪い予感が当たってしまったと思いながら・・・。


「中に入って!」


 すぐにナツカをリビングのソファに寝かせた。ロークは水をもらい、飲みほしてやっと落ち着いたようだった。


「一体、何があったの? 詳しく教えて」

「待ち伏せていました。カートもいた。戦ったもののナツカがやられ、班長の命令で引き上げてきました・・・」


 ロークはそう話してため息をついた。沙羅はロークの肩をつかまえて聞いた。


「ダイは? ダイはどうなったの?」

「班長はカートにやられました・・・森野さんも奴らの手に・・・」


 それを聞いて沙羅は茫然とした。一方、ミオはすっくと立ち上がってリビングを出ようとした。


「どこに行くの?」


 沙羅が呼び止めた。


「ダイさんを助けに行きます!」

「しっかりして! あなたが行っても助けられないわ!」

「じゃあ、どうすればいいのよ!」


 ミオがヒステリックに大声を上げた。


「落ち着いて! ここはよく考えないと・・・」


沙羅がそう言うと、ナツカが身を起こした。


「すぐにトクシツの奴らがここに押し寄せます。早くここから逃げないと・・・」


 ナツカの言葉に沙羅がうなずいた。


「そうね。この家を出ましょう」

「どこに行くつもりですか?」


 ロークが尋ねた。すると沙羅はわざと大きい声で言った。


「第1分署に行きましょう。少し遠いけど・・・」

「でも行く途中で奴らと遭遇するかも・・・」

「大丈夫よ! 行きましょう!」


 沙羅はそう言って立ち上がった。ロークとミオがナツカに肩を貸して、あわてて4人で部屋を出た。



 カート室長が監察警官を連れて家に踏み込んだのはそれからすぐだった。すべての部屋を探したが、もちろん沙羅たちはいない。


「室長! ラールたちがいました!」


 物置に押し込まれている3人の監察警官が発見された。彼らは服をはぎ取られ、半裸状態だった。監察警官の一人が拘束魔法を解いて3人はやっと自由になった。


「なんだ! そのざまは! 恥を知れ!」


 カート室長は忌々し気に乱暴な言葉を浴びせた。


「申し訳ありません。しかし奴らの会話は聞こえました。少し前にここを抜け出して第1分署に向かったようです」

「第1分署か・・・それならすぐに追いつける。手負いの者もいるからな」


 カート室長は監察警官を引き連れて出て行った。ラールたちも半裸のままその後について行った。


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