第36話 急襲計画

 ラールは家の中に飛び込もうとしていた。いきなり攻撃すればさすがにダイたちもどうにもできまいと・・・。


「藤堂! お前はここで待っているんだ」


 ラールが玄関のドアに手をかけながら、後ろにいるはずの藤堂に声をかけた。だが返事はない。


「ん?」


 ラールが振り返るとそこに藤堂はいなかった。代わりに保安警察官がいた。


「なんだ! おまえは!」


 ラールが魔法を放とうとした。だがその前に拘束魔法をかけられた。ラールは暴れるがもうどうにもならない。藤堂も拘束魔法で動けなくなって倒れている。


「おとなしくして。仲間の2人も捕まえたはずだから」


 その保安警察官はナツカだった。外の物音に気付いてダイが玄関に出てきた。拘束されて転がされている2人の男を見て驚いた。


「ナツカ。これは?」

「班長! 怪しい奴をとらえました」


 するとその後からロークが裏窓でとらえた2人の男を引っ張って来た。


「これで全員です」

「班長たちは狙われていました。多分、この中の3人は監察警官です。トクシツの者でしょう」


 ナツカが言った。


「どうしてここに?」

「班長も人が悪い。私がロークと2人でお見舞いに行ったとき、ベッドにいたのはテックス技官でした」

「テックスさんを何とか説得して聞きだしました。今夜、トクシツの者が三下高原のある地点に行くという情報をもらったようですね。そこで何をしているかを調べるために班長は病院を抜け出された。代わりにテックスさんがベッドで班長のフリをしていた・・・ということですね」


 2人の部下はすべて知っていた。ダイは大きくうなずいた。


「入院していればトクシツが動くと踏んだ。思った通りだった」

「班長も水臭い。そうなら我々を加えてください」

「そうです。多分、班長は我々を巻き込まないとように思われたようですが、そんな気遣いはやめてください」


 ナツカとロークは危険を顧みず、ダイの力になってくれるようだった。


「すまなかった。これからは君たちの力を貸してほしい。まずとらえた奴を中に運んでくれ」



 ナツカとロークはとらえた4人を家の中に引っ張っていった。


「どうしたの? 一体、何があったの?」


 沙羅は驚いて尋ねた。ダイが説明した。


「我々を襲おうとしていたらしい。幸いナツカとロークがとらえてくれた。多分、3人はトクシツの監察警官。もう一人は・・・」

「藤堂だ! これは都合がいい。話が聞ける」


 森野刑事はそう言って4人に問うた。


「さあ。おまえたちがやってきたこととその目的を言うんだ!」


 藤堂やラールたちは口をつぐんでいた。ダイが言った。


「藤堂以外は監察警官だ。そんな簡単に口を割らないだろう」

「じゃあ、藤堂に聞いてみるか」


 森野刑事が藤堂の顔をつかんだ。


「お前がブツを運んだのだろう?」


 すると横にいたラールたちが叫んだ。


「藤堂! 言うんじゃないぞ!」

「しゃべったらあとでひどい目に合わせるぞ!」

「黙っておくんだ!」


 ナツカが3人の監察警官をにらんだ。


「あんたたちは黙っていて! シャーラップ!」


 彼女は魔法をかけた。すると3人は声が出なくなった。いくら口を動かしても音が出ない。


「さあ、しゃべりなさい!」

「さあ! 吐け!」


 森野刑事は藤堂に顔をぐっと近づけた。


「・・・」


 藤堂は口をぎゅっと閉じて目を背けていた。一向に埒が明かない。それを見て沙羅は我慢ができなくなった。


「言いなさいよ! もうネタは上がっているのよ!」


 藤堂はふふんと鼻で笑って沙羅を見た。すると彼の顔は驚愕の表情に変わった。


「お、おまえ・・・」


 沙羅は思った。


(明らかに動揺している。私をユリさんと思ったからだわ。もしかして彼女が一連のことを知っていたのかも・・・)


「そうよ。私よ。黙っていても無駄よ! すべて知っているのよ」


 沙羅はユリのフリをすることにした。


「おまえがすべて話したんだな」

「ええ、そうよ。だから自分の口でちゃんと話してみなさい」

「わかったよ。俺は偶然、この世界に来た。そこで・・・」


 藤堂は観念したらしく今までのいきさつを話し始めた。


「・・・トクシツの奴らは三下高原にある地下施設でブツを作っている。そこでこの世界に来た人たちを働かせている」


 その話を聞いて森野刑事は顎に手をやってつぶやいた。


「そうか・・・何とか救出できればいいが・・・」

「そんなこと無理だぜ。ブツで服従させたググトもいるし、トクシツの奴らも目を光らせている」


 藤堂はそう言った。ダイが彼に問うた。


「ここを襲うことをトクシツに報告したのか?」

「いや、していない。俺たちだけでなんとかなると思ったからだ」


 それを聞いてダイは何かを決心したかのようにうなずいた。沙羅が尋ねた。


「何か考えついたの?」

「ああ。藤堂に案内させて奴らの地下工場を急襲する」

「そんなこと危険よ!」

「いや、大丈夫だ。工場は巧みに隠されているはず。奴らもこちらが襲撃するとは思っていないだろう。今ならやれる」


 それを聞いていたナツカが言った。


「それなら私も加えてください!」

「自分も行きます!」


 ロークも手を挙げた。ダイは2人を交互に見ながら問いかけた。


「危険を伴うがいいのか?」

「もちろんです!」

「たとえ班長に断られてもついて行きます!」


 ナツカとロークはそう答えた。


「それなら私も行こう。藤堂を連れていく役でな。人手はいるだろう」


 森野刑事も加わる気だった。


「それはありがたい。では俺たちはこいつらの服を借りて監査警官のフリをして、藤堂とともに森野さんを連行するように見せよう。それならうまく潜り込めるかもしれない」


 ダイの頭の中で計画はすでに出来上がっていた。だが沙羅はなぜか不安を覚えていた。


「待って! うまくいくの?」

「大丈夫だ。やつらの工場さえわかれば、捕らえられている人たちを助け出すことができる。ユリとミオさんはここで待っていてくれ」

「ラオンとハンパもこっちに向かわせている。状況によっては合流するわ」


 いつも冷静なナツカもダイの計画がうまくいくと思っているようだ。


「よし。決まった! 奴らに気づかれないうちに向かうぞ!」


 ダイたちは監察警官の私服をはぎ取り、それに着替えた。


「きっとみんなを助けてくる。あとを頼む!」


 ダイは沙羅に心配かけまいと笑顔を向けた。それが彼女には彼が遠くに行ってしまうような気がした。


「きっと無事に帰って来てね。きっとよ!」


 沙羅はそう念を押して送り出した。


 5人が部屋を出ていった。ダイを先頭にして、手錠をかけた藤堂を連れた森野刑事。そしてナツカとロークが後に続く。部屋の中はまた沙羅とミオだけになった。


(ダイはそう言ったけど・・・)


 沙羅は不吉な予感を覚えていた。

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