第31話 破壊工作
ググトたちが沙羅とミオに近づいてきた。
(どうしよう・・・)
持ってきた角材は魔法で吹き飛ばされた。沙羅の手には魔法メダルしかない。とてもこれでは戦えない・・・沙羅は焦っていた。だがミオが前に出た。
「ミオさん! 危ない!」
沙羅が声をかけたが、ミオは身構えた。
「私はもう逃げない! ググトと戦う!」
「いい度胸だ! 俺たちとやり合おうというのか? ははは」
サングラスの男は笑って右手で合図を出した。すると前後にいたググトたちが2人に襲い掛かって来た。だがミオは慌てない。
「ライトニングショット!」
ミオの腕から前方に雷撃が放たれた。そして続けざまに後ろのググトにも雷撃を放った。不意を突かれたサングラスの男とググトたちはしびれてその場に転がった。
「いくわよ!」
「え、ええ・・・」
ミオに手を引かれて沙羅は走った。倒れているググトたちの間を抜けて・・・。その勇ましいミオに沙羅は感心していた。
「すごいわ!」
「そんなことないわ。保安警察官を目指すならこれぐらいの技は使えないとね。それより早く逃げないと・・・すぐに立ち直って追ってくるわよ!」
ミオの言うとおりだった。彼女のライトニングショットは威力が小さく、ググトたちに一時的なダメージを与えただけだった。振り向くと、すでにググトたちは追ってきていた。
「逃がさねえぜ!」
サングラスの男の声が響いてきた。すると外に出たミオと沙羅の前の地面が盛り上がり、土の壁ができた。
「アースウォールだわ! 逃げ道をふさがれた!」
ミオが叫んだ。沙羅が振り返るとググトたちがゆっくり近づいてくる。
「ライトニングショット!」
ミオが雷撃を放つが、サングラスの男が地面から岩壁を出して防いでいる。もはやライトニングショットは有効な手ではなくなっている。
「どうしよう・・・」
さすがのミオはこれには動揺していた。
「大丈夫よ! しっかりするのよ!」
沙羅が励ました。だが彼女には魔法メダルしかない。これでは使えるのは簡単な魔法だけで、ここを抜け出すいい手が浮かんでいない。サングラスの男がまた笑った。
「ははは。これまでだ。さあ、ググトの餌になってもらおうか」
ググトたちが近づいてくる。沙羅は心に念じて右手を突き出した。
「ファイヤーボール!」
すると前にいたググトの腹に火の玉がぶち当たった。その衝撃で後ろに倒れている。
「えっ! ファイヤーボールが撃てた?」
沙羅は信じられなかった。自分にそんな技が使えたことを・・・。だがそれは気のせいであったことがすぐにわかった。
「大丈夫ですか?」
土壁の上にダイの部下のロークが立っていた。ファイヤーボールは彼が放ったものだった。
「助けに来ました!」
ナツカやラオン、そしてハンパも土壁の上に現れた。
「どうしてここに?」
「ちょうどお見舞いに行こうとした時にミオさんの車がトラックを追いかけているのを目撃しまして、気になって追ってきたのです。間に合ってよかった」
ナツカがそう説明した。
一方、サングラスの男は保安警察官が現れたことに驚いていた。
「このままじゃまずい! お前たち行け!」
ググトたちをけしかけた。ナツカたちはその前に立ちふさがった。
「退治してやる! かかってこい!」
「ぐああ!」
ググト4体が襲い掛かって来た。だがさすがに保安警察官。ググト相手の戦闘は慣れていた。
「ウォーターブレッド!」
「ロックストライカー!」
「リーフカッター!」
「ファイヤーボール!」
それぞれが得意技をググトに撃ち込んでいった。ググトたちは激しく抵抗するが、1体、また一体と倒されていき、やがて泡になって消えていった。だがあのサングラスの男の姿はそこにはなかった。ググトとの戦いに紛れて逃げてしまっていた。
「逃げられたか!」
ロークは悔しそうにこぶしを叩いていた。
「皆さん! ありがとう! 助かりました!」
沙羅とミオが頭を下げた。
「いえ、当然ですよ! ググトを倒すのが我らの役目ですから!」
ハンパは胸を張って答えた。
「なにを大きな顔して言っているんだ! ミオさんにいいところを見せようと思ったんだろ!」
「いや、その・・・言わないでくださいよ」
ハンパは照れて頭をかいていた。
「図星だったな。はっはっは!」
皆が笑う中、ナツカが急に真剣な顔になって沙羅に尋ねた。
「それより、一体、何があったのですか? こんなところまで来て・・・」
「病院の前でミオさんがさらわれて・・・ミオさんの車でここまでつけてきたのです」
「ミオさんをさらって、署長を脅迫するつもりだったのでしょうか?」
「いえ・・・・それが・・・目的は私だったようです。電話でそう話していました」
「えっ! ではユリさんが・・・どうして・・・」
ナツカは顎に手を当てて考えていた。
「ナツカさん。このことはダイには言わないで。心配するから」
「しかしこれからもこんなことが起こるかも・・・」
「入院中だから心配させたくないの。お願い」
「うむ・・・仕方がありません。この件の捜査は署長と相談して内密に進めます」
沙羅が頼むとナツカも嫌とは言えなかった。
事件の後始末が済んで、沙羅はミオの車で病院に送ってもらった。
「ミオさんには悪かったわ。私の代わりに危ない目にあって・・・」
「いえ、あなたが来てくれたから助かった。あなたのおかげよ。ありがとう!」
ミオは沙羅の手を取って礼を言った。沙羅はそんな彼女の態度がうれしかった。
「またお見舞いに来ます。いいでしょう?」
「ええ、待っているわ。もっとミオさんとお話ししたいですもの」
沙羅がそう言うとミオはふうっと息を吐いた。
「不思議ね。あなたといるとライバルという気がなくなる・・・」
「へへへ。私もそうよ。友達でいましょう」
そう言って沙羅は車を降りて病院に入っていった。ミオはそんな沙羅の後姿を見つめてつぶやいた。
「やはりあの人はユリさんじゃない。でもいい人だわ・・・」
◇
ー現実世界ー
三下山では大規模な工事が行われていた。山根教授が莫大な研究資金を得て、ここに研究施設を建てようとしていたのだ。
「これが完成すれば三下山で起こる次元の変動がリアルタイムに分かる」
工事の視察に来ていた山根教授は図面を見ながら満足そうにつぶやいた。同時に山のあちこちで探査装置の設置工事も施工されていた
「教授。探査装置は20か所に設置する予定ですが・・・」
「いや、その倍、いやいや3倍にしたまえ! その方が細かく調査できる。予算のことなど考えなくていいからな」
その工事でいつもは静かな場所が急に騒音に包まれることになった。ここを訪れる登山客は迷惑そうな顔をして通りすぎるしかなかった。
藤堂もその一人だった。彼は「ブツ」を運ぶため、ワームホールを通ってこの地に出た。しばらく行き来を止められて向こうにいたが、やっと取引のために戻って来れた。そこで彼が見たのはあの装置だった。それもいくつも・・・
(ここで何をしている?)
彼はそう思った。そこで不審に思ってボスに調査を依頼した。するとすぐに調べ上げて藤堂に知らされた。
「あれは次元の研究のために装置だ。その穴とも呼べるワームホールを探しているようだ」
「それじゃ、まずいんじゃないか。向こうの世界と行き来していることを知られちゃ」
「そうだな。下手に動くと大騒ぎになると思って放置していたが、こうなっては妨害するしかないな」
ボスはサングラスの奥の目を光らせてそう言った。
それはその数日後に起こった。研究所の工事現場が荒らされ、山に設置された多くの探査装置が破壊されてしまっていた。
「誰がこんなことを・・・」
山根教授はその光景を見て呆然とした。せっかく次元研究が軌道に乗り始めたというところで妨害に遭ってしまった。
通報を受けて森野刑事と東山刑事も現場に駆けつけた。
「森野さん。ただのいたずらではなさそうですね」
「ああ。過激な自然保護グループの仕業でもないだろう。山の中をこんなにひっかきまわしているからな」
「だとすると・・・」
「そうだ。そのまさかだ。まずは山根教授に話を聞こうか」
2人は警官に事情を聞かれている山根教授の方に向かった。
「これは刑事さん!」
山根教授は森野刑事の姿を認めるとすぐにそばに来て訴えた。
「見てください! せっかくの装置をこんなにされたのですよ!」
「これは災難でした」
「研究がパーです!」
「これからどうされるのですか?」
「私はあきらめない。また設備を整えます」
それにはまた莫大な費用がかかるはずだが、山根教授はこの山での研究を続ける意思を示した。
「でもこれではっきりしました。次元の穴の存在を隠したい者がいるのです。だからこんなことをした」
その言葉に森野刑事はうなずいた。こんなことをした犯人は一連の失踪事件、ひいてはレインボーというドラッグと関わっているに違いないとにらんでいた。
「確かにそうかもしれません。ところで監視カメラなどはつけられていたのでしょうか?」
「ええ。工事現場に。データが生きていたら見られると思いますが」
「提供していただけませんか。犯人がわかるかもしれないので」
「それはもちろん」
山根教授は快諾してくれた。映像があれば捜査が進展するはず・・・森野刑事はそう確信していた。
持ち帰った監視カメラのデータはすぐに科捜研で修復されて映像化された。それが森野刑事たちのもとにもたらされた。
「これではっきりするぞ」
「ええ、犯人はどんなやつでしょう」
森野刑事と東山刑事が見つめる中、監視カメラの映像が映し出された。3人の男、警戒して目抜き帽で顔を隠している。東山刑事がため息をついた。
「これではわかりませんね」
「まあ、そんなことだと思っていた。だが何か手がかりを残しているはず・・・」
森野刑事は映像を凝視していた。するとそこに映し出された映像に二人は声をあげた。
「なんだ! これは!」
それは工事現場が破壊される場面だった。男たちは何も道具を使っていない。何やら唱えて手から火球や雷を放っていたのだ。
「まるで魔法だ!」
「ええ。でもそんなことがあるのでしょうか?」
2人の刑事は映像を見て呆然としていた。
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