第7話 対ググト戦闘
夜になると街には人通りが少なくなり、ひっそりと静まり返る。だが今夜は違った。街にググトが出現したのだ。腹を空かせて人間の生き血をすするために・・・。
こんなことはたまにある。早期にググトを駆除して街の安全を保たねばならない。そのために第3班ダイたち5名も招集された。彼らは漆黒の車体をした専用車で現地に向かっていた。
「被害者は20代男性・・・」
ダイの通信機に次々に報告が入る。それを聞いて彼が部下に指示する。
「ロークとラオンはA区域、ナツカとハンパはB区域を探せ。俺はこの付近を捜索する」
「班長、一人で大丈夫ですか?」
ナツカが心配そうに尋ねた。
「ああ。この近くには1班の連中がいるから大丈夫だ。それよりみんな気をつけろ! ググトは複数いるらしいからな」
「はい!」
部下たちは夜の街に消えていった。ダイも専用車を降りて街を歩いた。街にはわずかながら人が歩いている。彼らはググトに襲われる恐怖を感じながら家路を急いでいる。
ググトは人間に擬態している。それがいつ、触手を伸ばして襲ってくるかわからない。ダイは周囲を見渡しながら慎重に巡回した。
(今夜はもう2人、犠牲になった・・・)
これ以上、犠牲を出してはならない。保安警察の役目はググトから人を守ることなのだ。すると、
「きゃあ!」
と若い女性の悲鳴が上がった。それはダイのいるところから近いようだ。彼は通信機を取り出した。
「こちらダイ。C区域に悲鳴が上がった。ググトと思われる・・・」
彼がその声の上がった場所にかけて行くと、確かに若い女性がググトの触手につかまっていた。これから体を切り刻んで生き血を吸おうとしている。ダイが声を上げた。
「待て! 保安警察だ!」
だがググトは逃げもせず、触手を広げてダイを威嚇している。しかも
「お前も食ってやるぞ!」
不気味な低い声が聞こえてきた。ダイは身構えて呪文を唱えた。
「ソニックブラスター!」
その波動はググトに命中した。ググトは「ギャッ!」と声を上げたが女性を放そうとしない。そればかりか接近してダイにつかみかかろうとしてきた。
だがダイは伸びてきた触手をかわすと、
「ソニックソード!」
と右腕を波動の剣に変えて、その触手を叩き斬った。そしてダイはググトにぶつかるように近づき、その剣をその腹に突き刺した。
「ぐえ!」
ググトはそのまま倒れた。その体は急速に崩壊して泡になっていく。捕まっていた女性は恐怖で気を失っていた。ダイが彼女を助けようとすると、ふいに体がしばりつけられた。
「よくも仲間を! 殺してやる!」
もう1体、ググトがそばにいたのだ。ダイはその触手に捕らえられて身動きが取れなくなっていた。ググトはダイを食いちぎろうと触手で彼の体を引き寄せた。
(このままではやられる!)
ダイは必死に踏みとどまろうとしたが、ググトの力には敵わない。ググトの口が彼の首に迫った。その時、
「ドーン!」
とググトに強い衝撃が加えられた。それは水の弾丸だった。通信機からの連絡で彼の部下のナツカが駆けつけたのだ。
「ウォーターブレッド!」
ナツカは何発もググトに水弾丸を浴びせた。ググトはたまらず、その触手がダイを放した。
「班長! 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ! それよりこいつを!」
「わかっています!」
ナツカがさらに技を繰り出そうとした。だがその前にググトが彼女に襲い掛かってきた。
「バーン!」
ナツカが吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。彼女は強いダメージを受けてなかなか起き上がれない。
「ナツカ!」
ダイが声を上げた。ググトは怒り狂ってなおも触手を振り回している。倒れているナツカを叩きのめそうとしていた。
「待て!」
ハンパが大声を上げて走ってきた。彼はすぐに呪文を唱えた。
「プラントロープ!」
すると地面から植物のツルがのびてきてググトを縛った。
「ナツカさん! 逃げてください!」
「新人! 助かったわ!」
ナツカは起き上がってその場を離れた。ググトはロープを引きちぎって逃げようとしていた。するとそこにロークとラオンが駆けつけてきた。
「逃がさないぜ!」
ラオンが呪文を唱えた。
「アースウォール!」
するとググトが逃げようとする前の地面が盛り上がり、土の壁になった。ググトは行き場をなくし、ヤケになって向かってきた。
ロークは必殺技を放った。
「フレイムファイヤー!」
するとググトの足元から火が湧きあがり、その体を燃やしていった。やがて火がおさまるとググトは泡になって消えていた。
ダイは部下の元に駆け寄った。
「ローク! 見事な技だったぞ。ナツカもハンパもラオンもご苦労だった」
「間に合ってよかったです」
「ところで他の区域はどうだった?」
「ググトはいませんでした」
「そうか。それならよかった・・・」
ダイはほっとした。そしてさっきから左腕を押さえているナツカのそばに来た。
「大丈夫か?」
ナツカは左腕を負傷していた。地面に滴るくらいに血が流れている。
「腕をやられたのか?」
「ええ。でもかすり傷です」
「応急処置をする。ヒール!」
ダイはヒーリング魔法をナツカの傷にかけた。それで出血は止まった。
「応急処置は済んだ。これから病院に行け。ここはいい。治療が終わったら帰って体を休ませてくれ」
「すいません」
負傷したナツカを除いてダイたちは署に戻っていった。
◇
沙羅はベッドから身を起こした。そこはいつもの自分の部屋だった。柔らかいベッドにきらびやかな装飾が施された壁や天井、レトロ調の家具もそのままだった。
「悪い夢を見ていたんだわ・・・」
沙羅はそう思った。あんな化け物がいる世界・・・そんなところに自分がいるはずはないと。
「ああ、よかった。でも今日も忙しいわ」
SARAブランドを立ち上げたばかりだからやることは山のようにあった。
「あれもこれも・・・」
考えるときりがない。でもやりがいはあった。
「じゃあ、がんばるか!」
沙羅はカーテンを開けた。そこからはさわやかな朝の光が差し込んだ。
「えっ!」
沙羅は窓の外を見た。そこにはあの広い草原が広がり、そこにはあのググトとかいう化け物が何体もいた。そして沙羅を見つけると、触手を広げて近づいてくる。恐怖で心臓が飛び出しそうだった。
「やめて! 来ないで!」
沙羅は叫んだ。逃げようとしても体が動かない。ググトは窓を突き破って沙羅を触手に捕らえた。
「きゃあ!」
沙羅は叫びながら目を覚ました。ベッドから身を起こして辺りを見たが、そこはやはり団地のあの部屋だった。
「怖い夢だった・・・」
まだ心臓がバクバクしている。沙羅はロケットから種を出して飲み込んだ。これでようやく落ち着いた。そして昨日からの出来事をまた思い出してみた。
「やっぱり私は異世界にいるんだ・・・」
沙羅は嘆息した。
「帰る方法を見つけないと・・・。それより誰にも見つからないようにしないと・・・」
ダイの話では異世界から来た人間は監察部のトクシツというところに捕まってしまうらしい。そこはかなり恐ろしいところのようだ。そうなれば命の保証はない。
「とにかくここで生きて行かなくちゃ。帰る方法が見つかるまで・・・。そう思ったらお腹がすいたわ」
沙羅は部屋を出てキッチンに行った。棚の上に昨日のパンがまだ残っていた。
「これでもありがたいわ」
沙羅はパンを手に取ってむしゃむしゃと食べた。今日も空腹のためか、かなり美味く感じられた。
「こんなパンでもおいしいわ! もっと他にないかな」
しかしこの家にはそれより他には昨日もらった野菜しかなかった。沙羅のいた世界にはない野菜である。どう食べたらいいかわからなかったが、とにかくかぶりついてみた。
「バリ! バリ!」
歯ごたえはあるが食べられないことはない。
「まあ、食べられないこともないわ。ちょっと硬いけど・・・」
元いた世界ではそんなことはしなかったので、なぜか新鮮に感じられた。そして食べると心を支配していた不安が和らいだ気がした。
「ダイが帰ってきたら食べ物にありつけるかもしれないわ。それまで我慢ね」
沙羅はさんざん野菜を食べた挙句、そう言ってため息をついた。
◇
ナツカは病院で治療を終えて公用団地に戻ってきた。日が落ちて辺りは暗くなり、道には人の影はなかった。彼女はダイの住む団地の前を通りかかった。ふと上を見上げると部屋の電気はついていない。
(班長はまだお帰りではないのね。おや・・・)
彼女はその部屋の窓に人影が映った様な気がした。
(班長の家には誰もいないはず。不審者?)
ナツカはとっさに団地の階段を上がって行き、玄関ドアから中をうかがった。
(やはり中に誰かいる!)
普通、公用団地の保安警察官の家に忍び込む者などいない。だとすると・・・。ナツカも監察部のトクシツが担当する事件の噂について耳にしていた。異世界からの侵入者がおり、目的ははっきりしないが、この世界を破壊して混乱にもたらすかもしれないと。
(もしそんな者が班長に家にいて危害を加えてきたら大変!)
ナツカは開錠魔法で玄関の錠を開けた。そして音を立てずにドアを開け、ゆっくりと中に入った。キッチンの方からほのかな灯りが漏れている。彼女は静かに忍び寄った。すると椅子に座っている後ろ姿が見えた。
(やはりいたか! 逃しはしない!)
ナツカはいつでも魔法で攻撃できるように身構えながら、いきなり声を上げた。
「動くな! 侵入者!」
沙羅はいきなり後ろから声をかけられて「あっ!」と驚いた。
(見つかってしまった! どうしよう!)
沙羅は激しく動揺した。
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