マチオと少女
マチオは木刀を右手に持ち、くるくると回す。
ぜんぜん重くないよな。
たぶん、女神様の演技か何かだろうな。
それにしてもなんか残念な女神様だったな・・・。
女神が去った後、少しの間泉で休憩をし、
さらに下流に向かって歩き始めた。
どのくらい歩いただろうか。いまだに人の気配はない。
水は小川で飲めたので問題ないが、いい加減腹が減ってきた。
食べられそうな野草でも探そうか。と思ったその時、
「きゃあああああ!」
少し離れた場所から女性の叫び声が聞こえた。
「!!!」
マチオは声の方向に向け走る。
暫く走ると、森を抜け街道に出た。
そこには、2匹の緑色の小人・ゴブリン?に襲われている、魔法使い風の女性がいた。
その近くには、馬車、そして血を流して横たわる2人の男性がいた。
「あっちいってくださいっ!!!!!!。」
女性は杖をぶんぶんと振り回し、ゴブリン?の持ったショートソードをはじくが、2匹同時というのは厳しいようで、少しずつ傷を負わされている。
ゴブリン?達も本気で殺そうとしているわけではなく、いたぶることを楽しんでいるように見える。
とは言え、必死で杖で防御する少女の足元はふらついており、杖を持つ手にもあまり力が入っていないように見えた。
まぁ、こん棒と思えば何とかなるかな。
マチオは手に持った木刀を見つめた。
こんなシチュエーション、アニメとかでよくあるよな。
助けた女の子と恋仲になったりとか。
木刀がショートソードに勝てるのか不安は残ったが、
マチオは意を決して茂みから飛び出す。
マチオの接近に気付いたゴブリン?の1匹が振り返り、ショートソードをマチオに向かって振り下ろす。
「ふん!」
横なぎで振られた木刀がショートソードとぶつかる。
ゴキン!
ショートソードが根元からへし折れる。
そのまま木刀はゴブリン?の顔面に当たり、頭部を粉砕し、ゴブリンが木に向かって吹き飛ぶ。
え~~~~~~~っ
もう1匹も振り返りショートソードを振り上げたが、それよりも早くマチオの木刀が腹部に当たる。
骨が折れるような、何かを粉砕するような。
形容しがたい本来鳴ってはいけない音を立ててゴブリンの腰がが九の字に曲がり、
地面を転がりながら木にぶつかる。
木刀ってこんなに強いの?
ピロリロリン♪
頭の中に音が鳴り、ステータス画面が表示される。
名前:マチオ
職業:農民
レベル:2
HP:15
MP:12
STR:7
DEX:6
SPD:3
魔法:なし
スキル:なし
武器:木の剣(攻撃力:1+※▼☆)
防具:布の服(防御力:1)
布のズボン(防御力:1)
布の靴(防御力:1)
おお。レベルが上がった。
一般人のステータスがどれくらいかは知らないが、
成長することは素直にうれしく思った。
「・・・あのぅ・・・。」
ステータスを見てニマニマ笑っているマチオに、女性が話しかけた。
はっ
マチオは両手で頬をパンパンと叩き、真面目な顔を作ってから女性に振り向いた。
「あ、ありがとうございました!。」
女性が深々と頭を下げる。
女性は見たところ、身長は150cm程度で、10代後半ぐらい。
女性というより、少女だな。
あちこち切り傷が入っているが、フード付きの白いローブを纏い、両手には少女の伸長と同じぐらいの長さの杖を持っていた。
どこからどう見ても、魔法使いである。
「名のある剣士の方とお見受けします。
危ないところを助けていただきありがとうございました。」
少女があらためて深々と頭を下げる。
「・・・いや、オレはただの通りすがりの農民なんだが・・・。」
「農民? そんなことはありません。
でなければ、その木の剣なんかでゴブリンを倒せるわけありません!。」
少女が少し怒った眼でマチオの顔を見つめる。
「・・・そう言われてもな・・・本当にただの農民なんだが・・・。
ちなみに、キミのレベルは?」
「4です。」
「・・・オレは2だよ。ゴブリンを倒す前は1だった・・・。」
「え?」
暫しの沈黙。2人の間に少々気まずい雰囲気の空気が流れる。
「・・・農民でも普通に生活してれば、
あなたぐらいの歳ならレベル4とか5くらいにはなってると思いますけど・・・。」
「さっき目が覚めたら、そこの小川の上流に倒れていたんだ。
ステータスを見たら、レベル1で職業は農民だったんだが、
・・・・・
全く記憶が無いんだ。」
マチオは転生者であることは軽々しく人には言わないほうがよさそうな気がし、そのように答えた。
「と、ところでさ、あの2人大丈夫?。」
マチオが馬車の傍に倒れている2人を指差す。
「あ、そうでした!。しばらくお待ちを!。」
そう言うと少女は踵を返して、馬車の方へ走った。
「大丈夫でしたぁ!」
少女がマチオの方を向いて、笑顔で両腕を使って頭の上で大きく丸を作った。
少女が杖を胸の前に持ち、何かつぶやく。
杖はほんのりと緑色に光り、その光が一つに集まり、男性の体に吸収された。
少女は、もう一人の男性にも同じようにした。
少女は立ち上がると、マチオの傍に走って戻ってきた。
「回復魔法をかけました。もうしばらくしたら目が覚めるかと。」
「あらためまして、わたし、ルイーゼ・ハイゼンベルクと申します。
ルイーゼとお呼びください。
レオネル村の出身です。」
「オレはマチオ。マチオ・ネヅ。
名前はステータスに書いてあったから分かったが、それ以外は記憶がない。」
「・・・マチオ・ネヅ様。珍しいお名前ですね。
どちらの出身なんでしょうか。」
ルイーゼが額に手を当て考える。
「で、ルイーゼさんはなぜこんなところに?」
「マチオ様は命の恩人ですから、ルイーゼとお呼びください。
わたしの村では、18歳を迎えると、最低2年間、
冒険者として村の外の世界を見てくるというしきたりがあります。
わたしも先日、18歳になりましたので、
ガレの街の冒険者組合に冒険者登録をしに行くところでした。
この道はわたしの村とガレの街をつなぐ主要道路で商人も使ってます。
わたしも子供のころから何度も通ってますが、
モンスターが現れた事は無かったので、すっかり油断していました・・・。」
「一つ聞くが、さっきは攻撃魔法とかは使えなかったのか?」
「習熟レベルは低いですけど、一応ファイアボールとフロストボールは使えます。
ただ、詠唱に少し時間がかかるんで、さっきみたいにいきなり襲われて、
2対1の接近戦になってしまうと、詠唱する時間が全く無いですね・・・。」
「そっか。」
そう言いながら、マチオは、ゴブリンが落とした鉄の剣を拾った。
羽のように軽い。
続けてゴブリンのベルトに取り付けられていた鞘を取り外し剣をしまい、ベルトに取り付けた。
「で、マチオ様はどうしてここに?」
「どうしてもなにも。
記憶が無くて右も左もわからなかったから、
とりあえず街とか村とか探そうかと、小川沿いに歩いて来ただけなんだけどね。
そしたら、襲われていたルイーゼを見つけた。というわけ。
もし、人も街も見つけられなかったら、
どこかで自給自足の生活でもしようかなと。思ってた。」
「!!!。マチオ様!。じゃあ、これから行く当てとかも無いんですよね?!」
ルイーゼがハッと何か気付いた顔をして声を上げた。
「まぁ、確かにそうなんだが。」
「でしたら、でしたら、わたしと一緒に冒険者になりませんか?!
パーティを組んで一緒に冒険しませんか?!」
少女は胸の前で手を組み、吸い込まれそうな大きな瞳でマチオを見ている。
「確かに、行く当てもないしお金もないけど・・・オレ、レベル2だし・・・。」
マチオががっくりと肩を落とす。
「大丈夫です!マチオ様が強いのは、さっきの戦闘見てはっきりわかりました!
レベルなんて関係ないです。
レベルなんて、これからガンガン上がりますっ!。
それに、わたしの家には『命の恩人には命をもって恩を返せ』っていう家訓があります。
ここでマチオ様と別れたら、家に顔向けできません!」
吸い込まれそうな大きな瞳でうるうるとマチオを見ている。
う~。困ったな。
とくに冒険者になるつもりはなかったんだが。
新手の美人局?
まぁ、もし騙されて身ぐるみはがされたとしても、どうせ持ち物は木刀だけだし。
せっかく異世界に来たのだから、ルイーゼについて行って冒険者になってみるのも悪くはないか。
「わかったよ。冒険者になってみよう。」
ルイーゼの表情がぱあっと明るくなった。
「よかったです~!。一人だと心細かったんで・・・。」
そういうと、ルイーゼはゴブリンの遺体に近づいて、右耳をナイフで切った。
「何をしてるんだ?」
「あー。これですね。」
ルイーゼが切り取った耳を見せる。
「モンスターを倒したら、冒険者でなくても討伐報酬がもらえるんです。
ゴブリンは安いですけどね。
あと、武具とか利用価値の高い素材とかあれば、買い取ってくれます。
ただ、ゴブリンは利用価値ないんで、討伐報酬をもらうくらいですけどね。
これは、その証拠です。」
と、2人が話していると、倒れていた男性2人が体を起こすのが見えた。
「目が覚めたみたいですね。」
ルイーゼは2人のそばに行くと、経緯を説明した。
「で、通りかかったあんちゃんが助けてくれたと。」
マチオが頷く。
「いやぁ。あんちゃん。本当に助かった。ルイーゼもありがとうな。」
そう言うと、森の方を向いて口笛を数回拭いた。
足音が聞こえる。
草むらからガサゴソ音がし、ぬっと馬が顔を出した。
「ゴブリンが現れて、すぐに逃がしたから生きてると思ったが、無事で良かった。」
男性の1人が馬の頭を撫でた。
「で、あんちゃんもガレに行くんかい?」
「そうですね。」
「なら、あと半日ぐらいだが、一緒に乗ってけ。」
「オレは、金持ってないんだが・・・。」
「ハハハ。なんだ。あんちゃん文無しか。
いいって。命の恩人から金は取れねぇよ!」
男性は馬を馬車に固定しながら言った。
「すまん。なら助かる。」
マチオは頭を下げた。
幸いにも馬車はどこも壊れておらず、馬をつなげばすぐに出発できる状態であった。
馬車は4人を乗せるとゴトゴトと音を立ててガレの街に向かって走り始めた。
次の更新予定
その木刀は世界を救う 矢口 みつぐ @yag_zeppelin
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