第27話 悪役令嬢がなぜか被害を受けています

「これから、ミランダ・ソーンクラウンを生徒指導室へ連行し、事情を聴きます」


 アルフォンスは淡々と教職員に事実を報告してゆく。

 フェリックスはミランダの名を訊き、動揺で頭が真っ白になっていた。

 アルフォンスの話の内容が全く頭に入ってこない。


「校長、教頭、至急、生徒指導室へいらしてください」


 プツッ。

 通信魔法が切れた。


(なんで、五葉のクローバーをミランダが――)


 大騒ぎになるのはクリスティーナのはずなのに。

 何故、ミランダになってしまったのだろうか。

 フェリックスは仕事中、ずっとそのことについて考えていた。

 授業ではない別の事を考えていたため、度々ミスをし、リドリーに注意をうける一日を過ごした。



 帰りのホームルームを終えたところで、校長から、臨時の教職会議を行うと通信魔法が入る。

 話題は五葉のクローバーを所持していたミランダのことだろう。

 フェリックスとリドリーはすぐに職員室へ戻る。

 職員室の前では没収された私物を回収しようと、大勢の生徒たちで溢れかえっていた。


「あらら……、職員会議の前にこっちの処理が優先ですかね」


 このような状態で、ミランダのことは話せない。


「フェリックス君、私が、整列させるので二年B組の没収品を持ってきてくれませんか?」

「わかりました」


 現在、生徒たちが学年、クラスが混ざった状態になっており、誰かが整列させなくてはいけない状態だ。

 フェリックスは生徒の波を掻き分け、職員室に入った。


(どっと疲れる……)


 職員室に入るだけでも疲れる。

 自分の荷物を机の上に置き、リドリーの机の下から、没収品が入った箱を取り出す。

 乱雑に入っているが、当人たちに返却できるだろう。


「よいしょっと」


 フェリックスは没収品を持ち、リドリーの元へ戻る。


(うわあ、ごちゃごちゃしてたのに、学年ごとに一列に並んでる)


 廊下に三列と、密集しているにはいるが、学年ごとに整列しており、先ほどよりも統一している。


「はい! まずは二年B組から返却してゆきます!!」


 リドリーは全生徒に聞こえるよう、いつもより大声で宣言する。

 二年B組の生徒たちが前列に現れる。

 リドリーは魔法で折り畳みの机を呼び出し、杖を一振りすると、机が自動で組み立てられる。

 フェリックスはその上に、箱を置いた。


(あとはリドリー先輩がやってくれるだろう)


 フェリックスは一息つく。


「おお、もう生徒たちがいるのかね」


 列を掻き分け、各学年の教師たちがぽつぽつと職員室に集まってきた。


「ついでだから、私たちの没収品も返却してはくれないか?」

「えっ」


 フェリックスは返事に戸惑う。

 これを引き受けてしまったら、全学年分の没収品を返却することになりそう。


「だめですよ~、私たち、没収されたものを把握してないんですから。間違って返しちゃったらどう責任取られるんですか?」


 話を聞いていたリドリーが助けてくれた。


「……リドリーの言う通りだな」

「二年B組の返却が終わったら、声をかけてくれ」

「まずは二学年から片づけるか」


 リドリーのもっともな主張で、教師たちは考え直す。

 返却する順番も相談しており、二学年のクラスから取り掛かることに決まった。

 私物の返却は二学年、三学年、一学年と続き、結構な時間がかかった。 

 教師陣は全学年分の没収物の返却に追われ、職員会議は日が暮れる頃の開催となる。



「さて、五葉のクローバーを所持していた、ミランダ・ソーンクラウンの処罰じゃが――」


 杖を振り、職員室の話を遮断した後、校長は淡々とフェリックスたちに、生徒指導室での出来事を報告する。

 まず、ミランダは五葉のクローバーの所持を全面否定していた。

 薬物検査を行ったところ、結果は陰性で使用はしていなかった。

 そのため、今回ミランダには厳重注意と一週間の謹慎処分が言い渡される。

 ミランダは通生だが、寮の空き部屋に一週間、軟禁されるそうだ。食事や入浴などの用事がない限り、部屋の外に出てはならず、学生との接触は厳禁だとか。


「五葉のクローバーが目立つが、クローバーの所持者も多数おった。特定の部活内で流行っておるようじゃの」


 ミランダの処遇が伝わった後は、クローバーを所持していた生徒のリストが空中に浮かび上がる。学年とクラスはバラバラだが、彼らの共通点として、同じ部活に所属しているということ。

 校長は顧問である教師にいくつか質問したが、その教師は生徒がクローバーを使用していたことを知らなかった。


「これから、ワシはミランダが所持していた五葉のクローバーの製造元を調べる。分かり次第、共有する」


 五葉のクローバーは製造元が追跡できるらしい。

 再発防止のためだろう。


「諸君らはクローバー所持しておった生徒たちの行動を監視しつつ、担当している生徒たちの様子をみること」


 現状、フェリックスたちができることは、クローバーを所持していた生徒たちの監視である。


「リドリー、ミランダの世話、頼むぞ」

「え……、わ、わかりました」

「うむ。では、臨時の教職会議を終わる!」


 最後に校長はリドリーに追加の業務を命じる。

 独身の若い女性教師となると、社宅住まいのリドリーに限定されるからだ。

 他の女性教師は既婚者で、それぞれ学園の近くの民家で生活している。

 反論しようとしたリドリーだが、ミランダの世話ができるのは自分しかいないと悟ったのだろう。校長の申し出を受け入れた。


「はあ~、面倒事押し付けられたあ」


 教職会議が終わった。

 職員室に留まり、話し合っている者。早々に出てゆく者と教師たちの反応はそれぞれだった。

 フェリックスはリドリーを見ると、彼女は深いため息をつきながら愚痴を吐き出した。


「あの、リドリー先輩」


 フェリックスにとってこれは好機だった。

 リドリーに頼めば、謹慎中のミランダに会えるかもしれないから。


「ミランダさんに会って話したいです。許可を頂けないでしょうか」

「……今、すぐですか?」

「はい。できるならすぐに」


 リドリーは疲れた表情をフェリックスに見せつつ、 問う。

 すぐにミランダと話がしたいフェリックスは、リドリーの問いに即答した。

 リドリーは何も答えず、じっとフェリックスの顔を見つめている。

 二人の間にしばらくの沈黙が流れた後、リドリーがそれを破る。


「わかりました。ミランダさんを生徒指導室に連れてゆきます。フェリックス君は、そこで待っていてください」

「あ、ありがとうございます!!」

「面会時間は三十分、私も同席します」


 沈黙の間、どうやらリドリーはフェリックスにミランダを合わせる条件を考えていたようだ。

 謹慎処分を言い渡され、監視役を任されているのだ。

 教師のフェリックスを一人でミランダに合せるのは難しいとリドリーは判断したのだろう。


「では、生徒指導室で」


 リドリーはすたすたと職員室を出て行った。

 女子寮にいるミランダに会い、今後の事を軽く説明するのだろう。


(ミランダ……)


 一人になったフェリックスは、自身の唇に触れる。

 生徒指導室で、フェリックスはミランダとキスをした。


 その出来事を思い出すと、フェリックスの心の中は幸せな気持ちで満たされる。


(僕はクリスティーナはもちろん、ミランダのことも救いたいと思ってる)


 フェリックスの中でも、ミランダは特別な存在になりつつある。

 時々、クリスティーナのことではなく、ミランダのことを考えているときがある。

 ミランダをどう導けば、破滅する未来から救えるのか、と。


(クリスティーナが巻き込まれるはずだった事件が、ミランダになっている……)


 進展することがなければ、ミランダは五葉のクローバーを所持していた生徒として、教職員たちからみられるだろう。

 優等生だった彼女が、一気に不良へ堕ちる。

 今は教師の間でしか知られていない話だが、少し経てば、生徒たちに漏れるかもしれない。

 現に、何故ミランダが女子寮に軟禁されているか、女生徒たちの中での憶測が飛び交っているはず。

 事件の内容を知られるのは、時間の問題だろう。

 そうなれば、ミランダは生徒たちにも冷たい目で見られる。

 下手をしたら、少し前のクリスティーナのように、ひとりぼっちになるかもしれない。


(僕が……、ミランダの助けにならなきゃ)


 フェリックスができること。

 それは、ミランダのバックに五葉のクローバーを仕込んだ犯人を見つけ出し、彼女の容疑を晴らすこと。


(見つけるんだ。僕の手で、犯人を!)


 フェリックスはミランダのため、自身の手で犯人を見つけようと決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る