男の友情

これはペット霊園で働いていた頃のお話です。


坂本さんというお客様が飼っていたコーギーのスバルくんが亡くなってしまったとのことで来園しました。

平日のことでしたので、娘さん二人とお父さんは来ることが出来ず、お母さんが代表していらっしゃったのでした。


スバルくんは子犬の頃から飼い始め、11才で天寿を全うしたそうです。

生まれつき病気を患っていた為、日頃から健康には気を使って生活をしていました。

獣医さんには「病気に対応した療法食をあげるように。おやつなどの間食はあげないでください」と言われていたそうです。

「おやつも駄目だなんて言われちゃって…だけど、犬はそいういうの好きでしょう?昔、私が飼っていた犬もガムとかジャーキーとか大好きだったもの。だからあげることができないっていうのは、ちょっと切なくてね…娘たちもあげたいって言うし。」

「そうですよね。犬だって食べるのが楽しみの一つであったりしますから。禁止するのは心苦しいですよね。」

「そうなのよ。…だけどね、実は私知っていたのよ。お父さんがね…夜な夜なスバルと一緒に晩酌していたのを。」

「晩酌…ですか。じゃあその時にもしかしたら…」

「うん。何かお父さんからもらっていたと思うのよね。あの人、スバルには甘かったし。」


坂本さんはふふふっと微笑んで語ります。

お父さんに対して怒っている様子は全くない様子でした。

「本当は良くないことだし、もしかしたら十一才で亡くなったことにも影響しているのかもしれない。…だけど、男同士の時間も必要だったんじゃないかなって思うの。

うちは女ばかりの家庭だからね、みんなワガママ放題でしょう(笑)そんな中で男のスバルが来てくれたから…男二人同士の時間を楽しく過ごしていたんだと思う。

それが二人には必要だったのだろうし、大事な時間だったんじゃないかなぁ。だから私もそれでいいかなって。」

「きっとスバルくんは…お父さんのために、坂本様のおうちにやって来たんでしょうね。」

「そうだね…そういう使命だったのかもしれない。今度は健康に生まれて来て、できなかったことをみんなでやりたいものだわ。」

「また来てくれますよ。その時が楽しみですね。」


生きた年月の長さが重要なのか、どう生きたかが重要なのか。

周りはどちらを望むのか。

幸せの形はそれぞれです。

ただ、スバルくんは幸せだったことだろうと、私は思うのです。

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