第11話 追跡
「これからどうするつもり?」
「頑張っていたつもりだったんだけどなぁ。いつもこうなんですよね……」
日が落ちて薄暗くなった空、明るく輝く星を見上げながら五郎がつぶやいた。だけど、私の聞きたいことはそれじゃない。
「頑張っても、全然認められなくて。僕って才能とか無いから」
「だからどうする――」
「ごめんなさい、ここしばらく無理矢理つきあわせちゃって。結局、無駄になっちゃったけど」
確かに迷惑ではあった。だけど、聞きたいことはそれじゃない。
「また、一から出直す――」
「ちゃんと答えろや、ボケがぁぁぁ!」
五郎をほうきで殴りつけると、思いっきり吹き飛ばされた。しばらくへたり込んでいたが、頬を押さえながら立ち上がる。
「な、何をするんですか!」
「それで、これからどうするつもりって聞いているでしょうが」
「それは、また一から出直して……」
「また、彼女を見捨てるつもりなの?」
その言葉に、彼のまなじりが下がる。うつむきがちの姿は、行き場のない感情を押し殺しているようにも見えた。
「そんなこと言っても、アイツは俺じゃなくて悠斗を……」
「ホントにそう思ってるなら救いようがないわ。彼女ときちんと話し合ったことないでしょ?」
「それは……」
彼は、反論しようとして言葉を詰まらせる。どうやら図星だったようだ。
「もし、何とかしたいと思うなら、明日はダンジョンに行くことね。私も仕事だから、付き添ってあげてもいいけど。どうする?」
「……お願いします!」
私の提案に素直に頭を下げてきた。強情で思い込みが激しいという欠点はあるけど、その実直な姿勢は好感が持てる。結衣も、彼のそういう所にひかれたのだろうか。
「分かったわ。それじゃあ、明日ダンジョン入口の裏手に集合ね」
「何で裏口?」
「アイツらも、明日リベンジする予定でしょ。私たちは後ろから尾行するのよ。もちろん掃除しながらね!」
掃除しながらという言葉に、あからさまに嫌そうな顔をする五郎。だが、私が五郎のために手伝ってあげているのだ。五郎が私の仕事を手伝うのは当然だろう。
「わかりました。では、明日はよろしくお願いします」
「それじゃあ、私たちも解散ね。今日はゆっくり休むこと」
私も五郎と別れて、予約していたホテルへと向かう。本気出せば一日で終わる仕事ではあるが、探索者協会が気を回して三泊も予約しておいてくれたようだ。
翌日、私と五郎は少し早い時間にダンジョンの裏手で合流した。物陰からダンジョンの入口をうかがっていると、少し遅れて悠斗たちのパーティーがダンジョンへと入っていく。
「よし、今日こそは上層のボスを討伐して、俺たちの力を見せつけてやるぞ!」
「「「はーい」」」
気合十分の悠斗に対して、他の三人のテンションは低かった。それも当然だろう。昨日は五郎がいても、上層ボスどころか雑魚にすら敗走したのだから。
「そろそろいいわね」
彼らの姿が見えなくなった頃合いを見計らって、私たちもダンジョンへと入る。すでに奥へと進んでいるのだろう。入口付近に彼らの姿は見えなかった。
「ちょっと、さっそく見失ってるじゃないですか!」
「大丈夫よ。このダンジョンはほとんど一本道だからね」
このダンジョン、分かれ道はあるんだけど、どれも行き止まりになっている。行き止まりにも少し強めのモンスターと宝箱があるので、行く意味がないわけではない。だが彼らの狙いはボスだ。だから、ひたすらまっすぐ進むだけでいい。
私たちは彼らの戦闘の痕跡――素材を剥ぎ取られたモンスターの死体やポーション瓶の欠片を回収しながら奥へと進む。五郎の手伝いもあって、普段よりも作業がはかどっていた。
「あれ? モンスターがいるんだけど……」
順調に掃除を進めていた私たちの前にチビ飛竜が立ちふさがった。私に向かって突撃してくるが、難なくほうきではたき落として回収する。
「容赦ないっすね……」
「アンタだって、ゴミを容赦なく捨てるでしょ? それと同じことよ」
「……」
私はただゴミを回収しているだけなんだけど、なぜか非難するような目で見られた。ホントに理不尽な男である。
「もしかして、脇道に入ったのかも」
「ボス倒すって息巻いていたのに?」
悠斗の昨日の言葉を信じるなら、彼らはまっすぐ奥へと進んでいるはずである。だけど、この先のモンスターが倒されていない状況を考えると、五郎の言う通り、脇道に逸れた可能性が高い。
「うーん、脇道に行ってみる? たぶん、そこの道だと思うんだけど」
「そうですね、行ってみましょうか」
私が脇道の一つを指差すと、五郎も同意見だったようで大きくうなずいた。私たちが、そこに入ろうとしたところで、通路の先から忙しない足音が聞こえてきた。
「全力で走れ! 追いつかれるぞ!」
「分かってるわよ。ほら、
「待ってよ、
通路の先から現れたのは悠斗と取り巻きのヒーラーである花蓮、それから魔術師の愛菜という少女だった。慌てているのか、私たちの姿に気付かずに入口へと走り去っていく。
「やっぱり三人だったわね」
「やっぱりって、結衣は……? くそっ!」
走り出す五郎を追いかけるように私もついていく。その先にある部屋には、アースドレイクが何かを咀嚼していた。その傍らには、身体のあちこちを食いちぎられた結衣が息も絶え絶えに最期の時を待っていた。
「結衣、大丈夫か?!」
「ご、五郎。ご、ごめん、ね。わ、私が、バカ、だった……」
上半身を抱きかかえる五郎の腕の中で、そう言い残して結衣は力尽きた。彼の顔に向けて伸ばされた手は、どこにも触れることなく、そのままだらりと垂れ下がる。
「くそぉぉぉぉ!」
冷たくなった結衣の身体を地面に横たえると、五郎は立ち上がって、アースドレイクへと突撃――する前に、彼の足の前に出したほうきにつまづいて転倒した。
「彩愛さん。何やってるんですか!」
「ちょうど良い機会だわ。ここは二人で戦ってみなさい」
「え、でも結衣はもう」
「まったく、五郎を助けたのは誰だと思ってるのよ」
私は懐からエリクサーの瓶を取り出すと、結衣の喉奥に突っ込んだ。瞬く間に彼女の口の中に消えていく液体。それと同時に彼女の身体は欠損も含めて見る見るうちに回復していく。
「うげっ、げほげほっ。いったい何が? あれ、私、死んだはずじゃ……」
目を覚ました結衣は喉奥まで占有している瓶に驚いてむせていた。そして生きている事実に驚いている。
「結衣、無事だったか!」
「五郎、助けに来てくれたの?」
完全復活を遂げた結衣に、涙と鼻水でグチャグチャになった顔で抱きつく五郎。彼は無事だったか、って言ってるけど、無事じゃなかったですから。完全にお亡くなりになってましたから。
アースドレイクを放置して二人だけの世界に入ろうとする彼らを現実に引き戻すために手を叩く。
「はいはい、まだ戦闘中だから。いちゃつくのは後にしてもらえるかな」
「あ、すみません。僕に続いて結衣にまでエリクサーを使ってくれるなんて」
「その話は後よ。まずは、そのデカブツを二人で協力して倒してみせなさい」
アースドレイクを指差しながら、私は二人に微笑みかけた。
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