第2話
まず俺が目を付けたのはあまのじゃくな性格の部分だった。
「直江、お前はまずそのあまのじゃくな性格の部分を治さないと話にならない」
「う……それは私もわかってるけど」
「お前は湊に何か褒められるたびに反発するな。それを治さないと勝ちヒロインにはなれないぞ」
「わかった。頑張る」
直江は小さくガッツポーズを作り気合を入れた。
俺はチョークを手に取ると黒板に勝ちヒロインの法則と書き込んだ。
「メインヒロインが勝つ……」
「そうだ。ラブコメの絶対的法則。それはメインヒロインが勝つだ」
ほとんどのラブコメはメインヒロインが勝利するというのがお約束だ。だからまずは主人公にとってのメインヒロインの立ち位置を目指さなければならない。俺はさらに項目を書き足していく。
「主人公と初対面時の好感度が最悪だったヒロインが勝つ……私の場合はそうでもなかったような」
「お前はどっちかというと幼馴染的なポジションに収まるだろう。中学から同じで湊のそばにいる時間が他の女より長い。つまり」
「つまり?」
「今のお前は負けヒロインムーブをしていることになる」
幼馴染は負けヒロインとはラブコメ界隈ではよく言われることである。俺の予想だが、関係が定まってしまったらドキドキも起こらないのだと思う。そういう意味では間違いなく。直江伊吹は負けヒロインになる可能性が現状高い。
俺はさらに負けヒロインの法則と黒板に書き足す。
「負けヒロインにも法則がある。つまり、これらを取り除いていけば必然的に勝ちヒロインに近づくだろう」
その負けヒロインの特徴とは、幼馴染であること。幼馴染は主人公にとっての日常の姿。だからこそ変わってはいけない。関係性が変化することは求められていないのだ。
続いて普通の子。無個性な子と言ってもいい。普通の子が負けるケースは対抗ヒロインが奇抜な個性的なヒロインの場合だ。こちらも個性的なヒロインに対し、無個性なヒロインは主人公の心を動かすことができない。
それからツンデレ。あまのじゃくもここに含まれる。これらの性格は自分の本当の気持ちを伝えることができずに終わるパターンがほとんどだ。なかなか素直になれずに負けてしまうというのがこのタイプの特徴だ。だが中にはツンデレで勝ちヒロインを勝ち取ったヒロインもいる為、絶対的に不利というわけではないだろう。だが、結局好意を伝えることができるかどうかが鍵となる。
「へえ、結構特徴があるんだね」
「これ以外にも負けヒロインの特徴はあるが、お前に当てはまるのはこんなものだろう」
既にできてしまった関係性を変えるのは難しい。だから性格のほうを改善していくのが最善種になるだろう。少なくとも素直に好意を伝えられるようになってほしいものだ。
「主人公を褒める、主人公から何かされたら喜ぶ、ボディタッチなど、できることは多い」
「無理無理。私が湊を褒めるとか、絶対変だって思われるって」
「男は女子に褒められると嬉しいんだ。それがたとえ近しい女子であってもな。だからお前もがんばれ」
「ボディタッチって、湊に触るってこと? そんなの無理だから」
直江は手を横に振って否定する。
世の中には男心をもてあそぶ達人がいる。自然にボディタッチをし、男を立て、褒め殺し、男を虜にしてしまう女が往々にしている。そいつらから学べることは多い。結局男はこいつ俺のこと好きかもって思わせたら勝ちだ。その女のことを意識する。あとは女がやることは好意があるように振る舞うこと。そうすれば男がそのうち告白してくる。
「試しに俺を褒めてみろ。練習だ」
「れ、練習。わかった」
直江は深呼吸すると、小首を傾げる。
「椋木のいいところ。偉そう……自信家なところ、かな!」
「全然ダメ。一ミリも褒めてない」
「難しいよぉ。だってそれは褒めるところがない椋木が悪くない?」
「そういう男を無理やり褒めるところを探して褒める。それがモテテクだ」
この女、俺のことをそんな風に思っていたのか。そんなに俺は褒めるところがないだろうか。
「じゃあ椋木も私のこと褒めてみなよ。絶対できないから」
「ふむ。可愛い」
「へっ!?」
「顔だけは」
「それ褒めてないよね?」
しかたないだろう。顔しか取り柄がないんだから。いや、もう一つあるか。
「あと巨乳」
「セクハラ」
「男からすればそこは褒めるポイントだぞ」
「そんなこと言われても女の子は全然嬉しくないからね」
どうやらお気に召さなかったらしい。女子を褒めるのは難しい。
「だが、改めて思ったがお前って見た目しか褒めるところがないのが問題だ」
「失礼ね」
「見た目は三日で飽きると言われている。既にお前と湊の付き合いは長い。お前の顔は見慣れているだろうな」
「それは確かに、そうかも」
痛いところを突かれたというように、直江は顔をしかめた。
「ふむ。性格を変えるのは難しそうだな。なら、やり方を変えよう」
「やり方を変える?」
「ああ。主人公の趣味を全肯定する方でいく」
男は自分の趣味に好感を示されると、それだけで相手の女子のことを意識するものだ。
「でも私、湊の趣味嫌いだし」
「そこはお前の努力だろう。お前、本当に湊に好かれる気あるのか」
俺がそう突っ込むと、直江は渋面を作った。そして顔を切り替えると、小さく頷く。
「そうだね。そこは私ががんばらないと」
「よし。では……野球から取り掛かるか」
「アニメじゃないの?」
「いずれはアニメにも手を付ける。だが、お前の拒否反応を見るに野球のほうがとっかかりやすいと思ってな」
「うん、わかった」
そうして俺は黒板に野球と記した。
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