序章 伯爵令嬢として生きます②
***
最初に感じたのは温度だった。温かなものに包まれている。確かめようと意識すれば、次は手がぴくりと動いた。体が
(死んで、いない?)
今度は瞼を開く。瞼の重みはなくなり、すんなりと目は開いた。しかし視界にあるのは、見慣れた
(どういうこと? 私はどこにいる?)
執務室で倒れてから何があったのか。現状を
だが、現在地を確かめる間はなかった。ノックの音が数度聞こえ、
「おはよう、お姉様」
部屋に入ってきたのは、金色の
エリネは、彼女のことを誰よりも一番知っている。
「ライカ!」
目に入れても痛くないほど
「お姉様? どうしたの?」
「ライカがどうして生きて……
幻にしてはおかしい。
「私はあの時に死んだ? ではここは死後の世界?」
エリネはぶつぶつと
「もう、何を言ってるの」
「お姉様も
「え? 夢を見ているのは今なはず……」
ライカの姿を目で追い、部屋を見回し、改めて
(おかしい。家は焼け落ちたはず。なのに屋敷がある。調度品もあの
自分がいるのは、どこだろう。答えが見えず、エリネはその場に立ち
「フラインは? ジェフリー、あと騎士団の
これにライカは目を見開いていたが、その後にくすくすと笑い出した。
「お姉様、本当に変な夢を見たのね。
ふふ、と楽しそうに話すライカと異なり、エリネはあんぐりと口を開けて固まっていた。
(まるで入団前みたいに話している。それに十八歳って……)
おそるおそる、手のひらを開いた。多少の
「
一歩、踏み出す。ここがエリネの部屋であるならば誕生日に
意を決して手鏡を
(
それは、十八歳の頃の、エリネの顔だった。
エリネが現状を理解するには
日は
(どうしても慣れない……)
エリネが過ごしていた日々では、ライカも両親も
(夢にしては随分と長すぎる。ご飯の味も、水の冷たさも感じる)
少しずつ、夢ではないのかもしれないと考えるようになってきた。
(まさか、私は過去に戻った?)
そう考えれば、しっくり来る。死に
「今日のエリネは、落ち着いているなあ」
「先ほども驚いたのだけど、所作が急に綺麗になっていたのよ。それに口調も……
「昨日とは
ライカや母に
大人びているのは当たり前である。本当に過去に戻っているのなら、今のエリネは十八歳の見た目だが、中身は三十歳。騎士団長として王宮勤めをし、王宮の
そして口調も。騎士団という男所帯に交ざるのだから、女だからと
これらは十八歳のエリネにはなかったものである。両親や妹が驚くのも当然だ。
(未来から戻ってきたと話せば
理由はわからないが、時が戻り、このようにして再会できたのだ。この先の出来事を話せば、両親や妹はどんな表情をするだろう。想像して、エリネの胸が痛む。
(過去に戻ったのだとしたら、理由があるはず。
現在わかっているのは、過去に戻ったかもしれないということ。何が起きているのかわからない以上、
しかし、過去に戻ったのだとしたら、エリネはやりたいことがあった。
エリネは改めて、家族の顔を見回す。
(みんな生きている。夢じゃない)
女の子らしい振る舞いを苦手としたエリネを
(過去に戻ったのだから、皆を守りたい。絶対に失いたくない)
これまでに何度も、過去に戻りたいと願った。騎士団に入らなければ両親や妹のそばにいられたのにと
理由はわからないが過去に戻ったのなら、後悔を晴らせるかもしれない。
(私は騎士にはならない──この人生を、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます