序章 伯爵令嬢として生きます①
あの、
エリネ・マクレディアは
庭園では王女
(……私とは、
エリネはため息をつき、
その体を包むものだって異なり、エリネが
この道を選んだのはエリネ自身であり、
(あの生き方をしていたら、私の人生は違ったのだろう)
休みなく続く
「……なんだ。ジェフリーか」
まもなくして現れた姿にエリネは小さく
彼はエリネの表情を確かめた後、
「そうやって窓辺にいるなんて、また令嬢を
「睨みつけていない」
エリネとしては睨みつけているつもりなどまったくない。観察しているだけだ。
否定しながらも再び庭園を見やる。令嬢が一人、こちらを見上げていたが、エリネと目を合わせるなり
「あなたにそのつもりがなくとも、令嬢たちはあなたを
『堅氷の番犬』とはエリネのことである。エリネの冷静な物言いや振る
(今じゃ、親しみを込めてエリネと呼んでくれるのは一人ぐらい)
短くため息をつく。ミリタニア騎士団の団長となってからは
「フライン
今日の天気を語るかのように、淡々とした物言いだった。彼は
「何も言ってないだろう。どうしてフラインの名が出てくる」
「執務室に入った時、団長が残念そうにしていたので。フライン殿を待っていたのかと」
エリネはすぐに否定できなかった。というのも、最近フラインと顔を合わせていないため、そろそろ会いにくる時期と思っていたのだが、現れたのはジェフリーであった。
大陸の
剣とは、エリネが率いるミリタニア騎士団だ。カッパーレッドに
魔は、ミリタニア魔術士団を指す。サファイアブルーに白銀の
騎士団長と筆頭魔術士。部下を束ねる身であるエリネとフラインは旧知の仲だ。仲が良いと語っていいのかは
「否定しないんですね」
持ってきた書類を執務机に置きながら、ジェフリーが言う。
「否定するのも
「そんなことを言うと、フライン殿が泣いてしまいますよ」
「あいつが泣くものか。人を苦しめて困らせて、泣いているのを見て楽しむタイプだ」
エリネはフラインをそのように思っているが、ジェフリーは
(北部ガドナ地方は
フラインがいない理由は気になったが、それは戻ってから聞けばよいだろう。
エリネは窓辺から執務机へと戻ろうとし──異変を感じた。
(
喉に何かが巻き付き、
(
喉は焼け付くように痛んで、苦しさから声があげられない。
ジェフリーに
「フライン殿が戻ってきたら、団長が
気づかぬジェフリーだったが、言い終えて振り返るなり表情を変えた。それはエリネが
「団長!? これはいったい──
ジェフリーは声を張り上げ、
エリネはまだ意識があった。しかし、体の内側をねじられているかのように全身が痛い。喉は苦しく、呼吸するのにも体力を使う。
執務室にエリネとジェフリー以外の者はいなかった。
「宮医! いや、魔術士だ。フライン殿を
ジェフリーが
(ああ。ついに、私は死ぬんだ)
目を閉じる。何も見えず、何も聞こえず、体が深いところに落ちていくように、重たい。
これが死という感覚だろうか。焼け付く痛みも氷の冷たさであった床も、
(死んだら、お母様やお父様……大好きな妹にも、会えるのかもしれない)
エリネが思い浮かべるのは、人生の
意識が
(フライン……先に死んで、ごめん)
彼がどんな表情をするのか考えようとし、そこでエリネの意識が
エリネ・マクレディア。
『堅氷の番人』の異名を持つ、ミリタニア王国初の女性
彼女を襲った病については現在も不明である。多くの宮医や魔術士が彼女を助けようとし、遠征に出ていた筆頭魔術士までもが王宮に引き返すも間に合わず、エリネ・マクレディアは三十年の生涯を終える。
次の更新予定
死に戻り騎士団長は伯爵令嬢になりたい 松藤かるり/角川ビーンズ文庫 @beans
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。死に戻り騎士団長は伯爵令嬢になりたい/松藤かるりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます